2008年12月28日日曜日

鈴木哲夫氏(HOYA株式会社名誉会長)への本質的な疑問

あまりにまちがってしまった後継経営体制。 つまるところ、見る目がなんでここまでなくなってしまったのか、ということです。 このような状態の放置は、株主や従業員の皆さんに迷惑となるだけでなく、日本社会にとっても非常によろしくありません。

私の祖父母は、愛知県の知多半島の出身です。祖父は旧制小学校(新制の中学に相当)しか出ていませんでしたが、いくつかの偶然により、一族を引き連れて東京に出てきて、戦時中にはすでに、たたき上げで小さな町工場の、ガラス工場会社の共同創業者になっていました。戦後に保谷硝子と名を変えて会社は少しずつ発展していって、その後に、私がまだ中学生か高校生くらいだったころに、祖父の後継者である、私の伯父は、まだ決して大きくはなかったものの、すでに経済界なら誰もが知っている会社の経営者になっていました。優良企業といわれるようになったのは、90年代になってからです。そのころから、企業統治(コーポレート・ガバナンス)という言葉が世の中で使われるようになってきました。

その後に、なんで企業統治がうまくいかなくなってしまったかについては、私なりの認識がありますので、加筆してお知らせしたいと思います。 問題はいくつもあるのですが、まず鈴木哲夫氏が、社外取締役制度をコーポレート・ガバナンスの改革のためではなく、自らの名誉心を満たすために使ってしまった、その結果として外部の取締役が「社害役員」となってしまっていることがあります。

また後継の経営者である鈴木哲夫、洋子夫妻の長男である鈴木洋氏の能力があまりにお粗末だという点があげられます。すでに他の日本の二世経営者の経歴等と比較しても、問題ではないかという指摘をしました。そこであげた例以外でも、NOK鶴正登社長(ハーバード・ビジネス・スクール卒)や森精機製作所森雅彦社長(東京大学工学部にて博士号取得)と比べてみていただきたいのですが。 人材の育成というきわめて長期的な視野が必要とされる事柄に対して、近視眼的な手しか打てていないですよね。

いずれにしても経営陣がこのざまでは、会社が発展していくということはありません。悲しいことですね。

2008年11月20日木曜日

鈴木洋氏の辞任で、取締役会の悪を隠蔽するべからず(日本社会のためにも)。

私がどうしても皆さんにお伝えしたいのは、HOYA株式会社のコーポレート・ガバナンス(企業統治)は三流以下の構造だという悲しい事実です。1050億円の買収費用(負債額を入れると約1500億円)をかけたペンタックスの赤字が発表されています。HOYA株式会社の中間決算の発表によると、当期の売上高は695億1600万円であり、営業損失が24億9600万円となっています。つまりHOYAの株主にとっては、株主資本の巨額の無駄使いだったということで、いみじくも私の日経ビジネスでのコメント(ちなみにこちらこちらも参考。すべて私の予測どおりである)が、全くそのとおりになっているわけです。

2006年冒頭では、デジタル・カメラのヒット商品(K10DとかK100Dのこと)の登場によって、ずっと長年赤字だったカメラ部門が一時的に黒字になっていたことによって、会社全体が同じく一時的に営業黒字になっていたことは、普通に考えればわかるわけで、デジタル・カメラの製品開発の周期(新しい製品をどのくらいの頻度でださなければならないか)が1年半から2年程度であることを考えると、買収騒動渦中以前であっても、こういった結末(数年後にすぐに再び赤字に転落)は、普通に考えれば予想が出来ていたわけであり、経営陣の責任は言うまでもありません。

こんな採算性の乏しい事業を高値で掴んでいるのは、経営陣のビジネスセンスのなさと無能さを表していますし、現在のHOYAの主力事業は、80年代までに構築されたものなのです。少なくとも技術担当者の丹治宏彰氏は、まったく実績がないので、今すぐ更迭し、事業開発に実績のある人材に交代させるべきでしょう。

鈴木洋氏ほかの経営陣の辞任と経営陣の刷新は止むなしという見解が、外資を中心とした機関投資家だけでなく、個人投資家の間でもほぼ共通見解になりつつあります。 こんな結末は、創業家の末席の一員としては、悲しいとしか言いようがありませんが、会社は公共的なものなので、この期に及んでは、それも仕方ないでしょう。

鈴木洋氏については、私の親族であるので、大変残念なのですが、私の様々な観察事実からいっても、欧米の似たような規模の会社のトップ・マネージメントと比べると、教育水準と知的情報処理の能力が足りないことは、この期に及んでは明らかだと思いますので、私は2年間の欧米でのビジネス・スクールの留学を義務付け、きちんとした経営者教育を受けてから再出発してほしいと思うわけです。 大体経営者の家に生まれ、将来会社の経営をする可能性が極めて高いということがわかっていたにも関わらず、一定以上の水準の海外大学でのMBA(経営学修士号)の取得すらしていないのだから、お話にならないわけです。

皆さんも、普通に比較して、考えて見ていただきたいのすが、日本の他の会社で、いわいる世襲で経営者になっている人、例えばイオン岡田元也社長早稲田大学商学部を卒業後、バブソン大学のMBAを取得していますし、エーザイの内藤晴夫社長も、慶応義塾大学商学部を卒業後に、ノースウェスタン大学のMBAを取得しています。ファナックの稲葉善治社長も、東京工科大学で博士号を取得していますし、トヨタ自動車豊田章男副社長も、慶應義塾大学法学部を卒業後にバブソン大学でMBAを取得しています。キャノンの故御手洗肇元社長キヤノン創業者御手洗毅氏の子、現会長の御手洗冨士夫氏の従兄弟)は、マサチューセッツ工科大学卒業後に、スタンフォード大学の博士課程まで修了して、技術を学んで、キャノンの中央研究所の所長を務めていました。

もちろん彼らの全てが経営者として立派に株主価値の増加に成功しているかというと、必ずしもそうとはいえないのですが、彼らと比べても、鈴木洋氏は教育的にも、経歴的にも、能力が足りないままに経営者になってしまっているわけです。MBA留学だって、ノウハウを学ぶための他社勤務(投資銀行コンサルティング会社プライベート・エクイティー投資会社など、ノウハウがてにいれられるのならば、なんでも結構です。少なくともこういった職場でのまともな勤務経験があれば、ペンタックス社の1500億円高値掴みは避けられたでしょう)だってかなり自由にできるだろうに、努力をまったく心掛けてこなかった傍証です。普通にこういった質的データを考慮しても、その後の経営の低迷を考慮しても、父親の鈴木哲夫氏は、いったいどういう教育方針だったのでしょうかと、普通の人だったら、まあ疑いたくなると思います。私の知人のコンサルタントの方は、鈴木哲夫氏のことを、「人の育てられない人」といっていましたが、まさにその通りだったのでしょう。いくら自分がやっている時には自分がやって経営が良くても、後継者が優秀ではないと、会社は貯金を使い果たして低空飛行してしまうのです。私がせめて鈴木哲夫氏に望むのは、自分の過ちをきちんと認めて、株主に正式に謝罪、経営陣の交代を断行することです。

しかしより問題としては、この会社の将来を本当に考えた時により悪質なのは、こういった株主資本の明らかな無駄使いを経営陣がなぜか推進しようとしたことを許容・積極容認した、HOYAの取締役会と5名の社外役員諸氏(椎名武雄氏塙義一氏児玉幸治氏茂木友三郎氏河野栄子氏)です。

ちなみに私は、社外取締役各氏5名に対して、「この合併はうまくいかないので、中止するべきである」という手紙を、合併騒動渦中に2度にもわたって出したのですが、完全に無視されました。ある取締役(児玉幸治氏)は、「ペンタックスの従業員の過半数が、HOYAとの合併に賛成している」ということを、合併賛成の根拠として、私に説明しました。

私は児玉幸治氏の言葉を聞いて、「は?」というのが正直なところでしたが、本人は悪気がないようですし、いいことをやっていると思っていて実際は社会に悪を垂れ流しているいい例です。つまるところ、70歳以上の社外取締役諸氏の経験則や経営観と、グローバル化した資本市場(証券市場)で上場している会社の経営がどうあるべきかという規範において、乖離が発生してしまっているわけです。

そもそも役員の個別報酬が開示されていないのも、国際水準で見ればおかしな話で、社外役員は株主ではなく、経営陣からお小遣いを与えられて、無能な経営陣に買収されているのかと、言いたくなります。 月1回出社で年間1000万円と推定されるそのお小遣いは、株主資本からでているわけです。椎名武雄氏は10年以上も社外役員を務めていますので、トータルで推定1億円以上の報酬を受け取ったということになります。 また経営陣との癒着を防ぐために、社外取締役は10年以上は務めないというのが、北米での慣例(CFA受験やビジネススクール1年生のファイナンスの教科書レベルの話)ですが、そんなことも守られていないわけです。

私は数多くの日本やアメリカ、欧州、あるいは途上国出身の経営者と実際に付き合ったり、仕事をしたりした経験から断言できますが、HOYAの経営陣の能力は、能力が相対的に低いといわれている日本の上場企業の経営者の中でも、低い部類に入ります。必要のない買収を行うことで積極的に株主価値を破壊しているので、株主価値に与える影響は大きく、まだ何もしない経営者の方がよいということです。

そうではあるのですが、構造からいえば、株主が取締役を選び、取締役が経営陣・執行役を選んでいるのだから、こんな無能な経営陣をそのまま放置している取締役会のほうが、本丸の悪なのです。こんな会社のコーポレート・ガバナンスが絶賛されていたこと自体が、日本社会にとっても、日本人にとっても、まったくもって、本当にとんでもない話で、マスコミ諸氏(例えば週刊ダイヤモンド誌元編集長の辻広雅文氏や、経済評論家の山崎元氏)は、すぐにでも猛烈に反省して、あやまった内容の記事を垂れ流していることをやめるべきなのですが。 いずれにしても、投資家が声を上げなければ、日本社会に明るい未来はありませんし、庶民版アクティビスト・ファンドが出てくるべき時なのかもしれません。

2008年10月11日土曜日

私の実践的ファミリービジネス入門(1):経営者の嫁に教育は重要か

私がFamily Business Enterprise(ファミリービジネス:家業)について語ることは、社会的な意味があると考えています。正確にカウントするのは難しいのですが、日本の一部上場企業でさえ、その多くが所有においては株式が分散しているが、経営は今のところ一族で行われているという会社が過半近くでありながら、ファミリー・ビジネスとは何か、その重要性についてあまり理解されているとは思えないからです。それに対して、私はファミリー・ビジネスに関わった経験を、国内および海外でも持っており、それなりの知見を提供できるのではないかと思うからです。

まず一つ指摘しておきたいのは、経営者の家庭に嫁(婿)に入るような女性は、MBA(経営学修士号)ぐらいを取得しておけ、ということです。括弧して「婿」と書いたのは、ポリティカル・コレクトネスに配慮したからです。実際に最近は女性が家業の後継者になることも珍しくはなくなったからです。

現に、会社経営や金融の事情が微塵も分かっていない鈴木某子氏は聞く耳を持たず、山中某子氏などは、私の家にヒステリックな電話をかけてきたことがありましたが、ペンタックス社の買収がHOYA株主の価値を毀損するであろうことは、2006年の初頭の時点で明らかであり、正当な批判をするほうが悪いのではなく、息子とか後継者を、そういった判断ができないまま、経営者の地位につけてしまったことが、そもそもの大失敗なのです。こんなことでは、一族経営が続いていくはずなく、一族経営は3代で終わりという日本での一般的に言われていることが、まさにそのとおりになってしまいそうなのです。だれも聞いたことのないようなパロアルトの三流の大学ではなく、一流のコネクションができる大学や大学院をがんばって卒業させないからこんなことになるわけです。

しかも経営者の家に嫁いでおきながら、40年前に音大で「あー」とかやっていた人間がその後何の勉強もしていないのに、21世紀の時価総額1兆円の会社の経営について、分かっているはずもないのです。私に電話してくる前に、池袋のリブロか旭屋書店で会計とか企業経営の本でも読んでからにしろということです。

なお1500億円をかけた買収劇の結果、赤字に転落と言う論外の結果になっていることは、再度指摘するまでもありませんが、なんでこのような問題がおきてしまったかは、説明が必要でしょう。

(未完:以下続く)。

2008年9月26日金曜日

アメリカのサイエンスは、なぜ強いのか(1)

付記1:私の大学改革とサイエンスに関する未完成原稿をあげておきます。参考までに。無断引用は禁止しますので、引用する場合は、きちんと出展を明らかにしてください。 なお以下で述べることの一部は、私の独自の理論と言うよりは、北米ではある程度知られていることにすぎません。

付記2:日本人のビジネスマン・ビジネスウーマンの間ではよく知られていないけれども、北米では常識となっていることに関して比較的よくカバーされている入門書としては、岩瀬大輔氏の『ハーバードMBA留学記 資本主義の士官学校にて』(日経BP社:2006年)がお薦めです。またよりよくアメリカ社会のあり方や、その歴史的背景を知るためには、私のイチオシの書である小林由美氏による『超・格差社会アメリカの真実』(日経BP社:2006年)があります。 北米の科学者社会については、生田哲氏による『サイエンティストを目指す大学院留学―アメリカの博士課程で学ぶ最先端のサイエンス・テクノロジー』(アルク:1995年)があります。弁護士の石角完爾氏による『アメリカのスーパーエリート教育―「独創」力とリーダーシップを育てる全寮制学校(ボーディングスクール)』(ジャパンタイムズ:2000年)は、高校までの教育についての良い解説書です。 立花隆氏と利根川進博士による『精神と物質―分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか』(文春文庫:1993年)も、科学者の世界を知るには必読の文献。岸宜仁氏の『異脳」流出―独創性を殺す日本というシステム』(ダイヤモンド社:2002年)も、具体的に在北米の研究者について取材しており、面白いと言えます。

付記3:アメリカの大学では、インターネットのオン・デマンド放送を利用して、社会人等を対象とした遠隔地教育(有料)を行うようになってきています。例えば、コロンビア大学工学部はColumbia Video Networkと称したプログラムにより、科目の受講と修士号の取得が可能になっていますし、学位取得とは関係なく授業を受講できますし、ハーバード大学の提供するHarvard University Extension Schoolというプログラムにより、科目履修や学位取得(学士号、修士号など)を行うこともできます。北米の名門大学の教授方法が分かりますし、電子メールベースですが日本からでも教授と親しくなれるし、履修すれば成績証明を発行してもらえますし、推薦状を書いてもらえますので、もし海外の大学に願書出願する時には大いにプラスとなります。以下の文章を読んでピンと来ない方も、北米の大学の授業のやり方が分かるし、多くの方にとって、一見の価値ありと思います。

『アメリカのサイエンスは、なぜ強いのか』(仮題)
2008年9月26日  山中 裕

1. 世界的な軍事覇権戦略と不可分なアメリカの科学的な優位性
 
 結論として一つ重要なことを指摘しておきます。それは、アメリカの国としての覇権戦略上、軍事的な圧倒的な優位性を維持するということが、不可欠な要素であり、このこととアメリカの科学(サイエンス)が(日本、欧州などの他国との比較において)優れていることは、密接な関係があるということです。言い換えると、米国の科学技術政策において、軍事技術的な優位性を確保し、維持するという使命が、不可欠かつもっとも重要な構成要素としてあるということです。

 比較して、講座制という明治時代に大学が欧米の科学技術にキャッチアップするために作られたシステムが、現在も温存され、そして一部の人たちの既得権化していることが、日本の科学、しいては経済成長や軍事戦略にとってでさえ、大きな問題となっています。

 以前、世界の覇権国は英国でした。英国が19世紀に覇権国となり、世界を植民地化できたのは、卓越した海軍力をもったことであるというのが、現在の歴史学の標準的な見解です(言いかえると、産業革命やそれに伴う経済大国化は別の話であるということです)。ところが20世紀の初頭、第一次世界大戦期になると、海軍力に代わって空軍力が軍事的な優位性を持つために、もっとも重要な要素となり、ちょうど時を同じくして米国が世界の覇権国になったのです。第二次世界大戦後は、ソ連圏との対立という側面がありましたが、90年初頭に冷戦の終結をもって、現在空軍力で米国に比する国は、ほかには存在しないといえます。

 世界で最強の空軍力、そして軍事力を持つためには、世界で最先端のサイエンスを米国国内に持つ必要があります。このことにアメリカは成功したために、軍事的な優位を達成することができたのです。とりあえず空軍などの軍隊を派遣して戦争をすれば、アメリカ軍が制空権をとって自由にほとんど一方的な爆撃を行える程度の優位性(これをもって圧倒的な軍事的な優位性といってもよい)は、いまだに維持しています。世界でこの側面の軍事的な優位性に関して、対抗しうる国は今のところ、存在しません。もちろんそのことは、占領後の統治ができること(現在イラクで問題になっている)、あるいはそのためのお金が続くこと(イラク戦争と駐留や、アフガニスタンでの戦費について、アメリカの財政を圧迫しており、いつまで続くかという懸念が出ています)、あるいは他の先進国と協調した方がアメリカとしての国益になるか、などの重要論点とは別の問題ですが。

 日米のサイエンスの差に関しては、すでに多くの科学者やジャーナリストが断片的には様々な指摘をしていますが、従来あまり言われてこなかったこと、すなわちサイエンスにおける優位性と、軍事的な優位性が、まず切っても切れない関係にあることを、まず指摘しておきます。 本当は時代遅れの講座制の問題や大学院教育の不備の問題を、国防族議員(石破茂氏や武見敬三氏、前原誠司氏など)に理解してもらうロビー活動をするべきなのかもしれません。


2. ハーバード大学は、運用資産3兆円強の機関投資家

 世界でも屈指の名門大学とされるハーバード大学は、運用資産3兆円強の機関投資家です。その他の名門大学であるエール大学や、プリンストン大学なども、それらに続く規模の運用資産を持っています。これらの大学は、授業料収入や寄付金、病院経営などからなる収益を大学基金で運用し、年間10%を超える運用利回り(実際には20%近くである)を実現しています。3兆円強の運用資産があり利回りが年間15%とすると、1年で少なくとも4500億円ものの運用利回りが出ることになるのです。これだけのお金を運用によって生み出すことができれば、学部学生の授業料をただにすることもできるし、ノーベル賞学者を引き抜くなど、世界中から優秀な学生を集めることができます。

 ボストンの大リーグ球団ボストン・レッドソックスがドミニカ共和国のDavid Ortiz指名打者、プエルトリコ出身のMike Lowell三塁手、日本出身の松坂大輔投手、岡島秀樹選手らを集めて、良好な成績を収めているのと同じように、ハーバード大学やMITなどの名門大学は、お金の力ももって、最優秀の学生(とりわけ大学院生)に奨学金を出したり、優秀な教授陣を、世界中から集めているのです。このようなしくみによれば、優れた研究者と大学院生によって、さらにすぐれた研究成果を出し続けることもできるし、その一部は大学の知的所有権としてさらに大学の収入に結びつけることができるのです。日本の大学経営とは本質的に発想が違うわけで、摩訶不思議な規制で大学経営をがんじがらめにしている文部科学省や財務省は、罪深き存在なのです。

 大学基金の運用先としては、エマージング市場の株式や債券、不動産投資(REITを含む)、森林開発など、手法も多岐にわたり、とりわけ代替投資(Alternative Investments)と言われる分野の活用が不可欠となっています。そう、プライベート・エクイティー・ファンドやヘッジファンドに80年代からいち早く投資をしはじめた機関投資家のひとつが大学基金なのです。代替投資に関しては、一般向け世界最初の解説書である渋澤健氏(元ムーア・キャピタル在日代表)の名著『これがオルタナティブ投資だ!―ヘッジファンドからリートまで「超アクティブ運用」のすべて』(実日ビジネス :2006年出版)をご参考にしてください。ここでいう代替という意味は、伝統的な市場の動向とは独立な資産クラスということです。株式市場が好況であろうが、不況であろうが、常にコンスタントに一定の収益を実現することを狙っているということです。さらに大学基金の運用に関しては、エール大学基金のスター運用者であるDavid Swensen氏の著書『勝者のポートフォリオ運用―投資政策からオルタナティブ投資まで』(金融財政事情研究会 :2003年出版)が、お勧めの文献です。

 なぜ大学基金が代替投資にいち早く投資していったかと言う点については、いくつかの理由があげられます。まず第一に経済学者やファイナンス学者が学術的な観点から、代替投資の経済的機能について正しい認識をもっていたことがあげられます(ファンドと聞いて、すぐに「剥げタカ」扱いしている、某国のマスコミや経営者諸氏は、30年以上も遅れているのです)。経済学者として代表的には、例えばエール大学のノーベル賞経済学者の故James Tobin教授(トービンのq理論の提唱者、そのほか業績多数)、ファイナンス学者として代表的には、シカゴ大学のEugene F. Fama教授(市場効率仮説理論の確立者)などを念頭においていただければと思います。 なお先のDavid Swensen氏は、故James Tobin博士のもとで経済学博士号を取得した後、リーマン・ブラザーズでの勤務経験を経て、エール大学基金の運用者(Chief Investment Officer)に就任していますし、吉川洋氏(東京大学教授、社会保険国民会議座長)とは兄弟弟子ということになります。

 第二に、非営利団体である北米の著名大学は、ガバナンスが優れて、理事会のメンバーからの助言を有効に使ってきたという点です。某国の独立行政法人化以前の国立大学が教授会という既得権組織によって運営されていたのと異なり、トラスティー(trustee)からなる理事会が、営利会社で言うところの取締役会と同様の機能を果たしています。trusteeになるのは、一般的に経済的にもともと裕福な家系出身のものや、あるいは起業家として成功したりした自分の資産保全や運用にも熱心な人たちが多く、出身大学を財政的に良くするために当然自分たちの行っている資産運用と同じことをしようという発想を推し進めることができたのです。例えばコロンビア大学の理事会プリンストン大学の理事会の構成メンバーがどのような人か、該当するホームページを見ていただければと思うのですが、金融関係の卒業生が少なからずいることに気がつきます。メンバーも卒業学部やその後の職業からしても多岐にわたっており、人種や性別、出身国なども考慮されています。プリンストン大学の理事会を見ると、2005年、2006年、2007年、2008年卒業年次の卒業生も理事に選ばれていますので、幅広く年齢も考慮されていること(つまり20代の年齢の卒業生の意見も反映されるようにされていること)が分かります。なおグーグル社のCEOであるEric Schmidt氏(元Novell社CEOでもあり、サンマイクロシステムズの最高技術責任者でもあった)も、かつてプリンストン大学の理事でした。

 なお余談ですが、キッコーマンの茂木友三郎会長(HOYA株式会社の社外取締役でもある)は、コロンビア大学の卒業生であり、黄色人種ではじめてアイビーリーグの大学のTrusteeになった方、コロンビア大学のような名門大学でTrusteeになるのは大変名誉なこととされています。HOYAの現在のような経営を放置されていることは、晩節を汚すことになっていると、私は残念でなりません。 また某国の多くの企業の社外取締役が仲良しクラブとなっているのに対して、trusteeは癒着を防ぐために任期制であり、一定の任期以上になると退任するのが慣例です。

 第三に、北米の私的財団には5%ルールというべき、所有資産の5%を年間で必ず使っていかなければならないというルールがあり、運用が市況に左右されないように5%以上基金総額を増やしていく手法(=まさに代替投資の醍醐味である)に対して、はっきりとしたニーズがあったことが重要です。大学関係者と財団関係者は実際に重なりますから、私的財団での発想が、同じく非営利団体である私立大学の経営にも影響したのです。

  東京大学は、本郷と駒場のキャンパスのほかに、柏キャンパス、スーパーカミカンデ、白金台にある医科学研究所や、北海道の原生林(農学生命科学研究科附属演習林)、農学部の研究施設である田無キャンパス、理学部研究科付属の小石川植物園などを所有していますので、資産だけでも1兆円は下らないと思いますので、しっかりした運用者がいれば、資産だけでも相当のキャッシュ・フローを生むことができますし、本当にもったいないと思います。「人間は実業でのみ光るもの」などという戯言を言っている旧世代の大学関係者は、世界を知るべきです。


3.応用研究を動機付けられる北米の研究者

 例えば北米の経済学というものは、学問的な文化的風土として、明らかに「実際に政策やビジネス上の実用性がある(役に立つ)」ことを、基本的な価値としています。このことは歴史的な成り立ちからいっても明らかで、第二次世界大戦中にオペレーション・リサーチの手法などが現実の問題に研究、応用されてたりしていく一つの契機となりました。著名な経済学者であるケネス・ガルブレイズは、戦時中に物価局(Office of Price Administration)の副局長として戦時インフレ抑止に活躍していますし、同じくポール・サミュエルソンはthe National Resources Planning Board(完全雇用を維持するための組織)や、the War Production Board and Office of War Mobilization and Reconstruction(戦時中の経済計画の作成を使命とする)などで働いた経験を持っています。もちろん現実の応用にすぐには結びつかない研究というのも実際には重要なのですが、基本的には基礎研究(経済学に限らず、物理学や数学などの自然科学でさえ)であっても中長期では応用をすることを強く念頭に置いているし、そうでなければ、議会で研究に予算を割くことが正当化されないのです。こういった背景があればこそ、「金融理論を大学経営のために現実に応用しよう」ということに、自然になるわけですし、ファイナンスの研究者だけでなく、産業組織論の研究者や基礎的なゲーム理論の研究者でさえ、その多くがビジネススクールにいるおり、基礎研究をしてもいいけど、応用研究も同時にしましょうという、学内外からの強い圧力がかかるわけです。

 もし興味がある方は、例えば、John Campbell教授(ハーバード大学経済学部)やAndrew W. Lo教授(マサチューセッツ工科大学・スローン・スクール教授)などのページと、彼らの研究実績をみてみてください。彼らは大学基金の側からしても、最先端の研究者という意味でシンクタンクやアドバイザー的な役割を果たしていますし、実際にも、金融計量経済の第一人者であるLo教授は自分のヘッジファンドを運営していますし、Campbell教授も週一日のパートタイムでヘッジファンドに勤務しながら、ハーバード大学の大学基金の運営主体であるハーバード・マネージメント・カンパニ―(HMC)のボード・メンバー(役員)でもあります。私の母校であるところの東京大学には、彼らに相当するような業績を上げた人材は一人もいないと言っても過言ではありませんので、差がどうしても生まれてしまいます。小宮山宏総長は、大学の国際的な競争力の違いが運用力にあることを正しく認識しているようですが、では学内の誰に意見を求めればいいかと考えると、困ってしまうでしょう。

 こういったサイエンスの風土の違いは、日本人がノーベル賞を間際で逃す理由にもなっているように感じられます。 例えば、日本の数理経済学の全盛時代を支えた故森嶋通夫教授(ロンドン大学名誉教授)、故二階堂副包教授、宇沢弘文教授、根岸隆教授らの業績は、現在の応用分野で不可欠な数学的な道具として使われていますが、当時はやはり基礎研究という色合いが強かったわけです。彼らはノーベル経済学賞候補と言われながらも、今のところノーベル賞が取れていません。計量経済学における純粋理論家である雨宮健教授(スタンフォード大学)の業績も、現在の応用分野で不可欠な統計的な理論付けをおこなったものですが、関連のノーベル経済学賞は2000年に、雨宮モデルを現実に応用した理論兼実証学者のダニエル・マクファデンと労働経済学者のジェームズ・ヘックマンの二人に送られています。確立解析の分野で伊藤の定理を証明した伊藤清教授(京都大学)の研究も、後にブラック・ショールズ方程式というファイナンスの分野での応用を可能にし、1997年にマイロン・ショールズとロバート・マートンの2人がノーベル経済学賞を受賞しています。こういった例は経済学に限った話ではなく、例えば増井禎夫博士(トロント大学)は、細胞周期の制御因子である卵成熟促進因子(MPF:maturation promoting factor)を発見した大生物学者ですが、ノーベル賞の登竜門とされれるガーデナー賞やラスカー賞を受賞していながら、ノーベル賞はこの分野でより応用に近い分野で後年業績を上げた研究者に与えられています。

 アメリカの大学では、それぞれの研究者へ、応用や実証研究(注:商業上の応用研究という意味ではなく、より広い意味での応用)をやれという強い圧力がかかっています。それは応用研究のほうが、グラント(研究者への研究助成金)がとりやすいし、その額も大きいからです。社会学者にせよ、統計学者にせよ、基礎研究を主とする研究者であっても、応用研究をやっています。連邦政府や州政府からの研究助成金を大学の研究者が取ってくると、その一部を大学が受け取る関係になっていますので、大学経営側としては、ぜひとも応用研究をやってもらいたいわけですし、一般的にお金を取ってくる力が高い研究者は、スタッフを多く雇い、大きな研究室をもっていますし、大学内外で尊敬される傾向にがあるのです。 社会科学系の学部のなかで、経済学部の地位が高いのも、彼らが資金獲得力に富んでいるからですし、社会の要請に基づいて(言い換えると政府の研究グラントや企業の委託研究や授業料収入を大学が得やすいように)、学部や学位付与教育過程を新設したり、柔軟にするわけです。「生物学の主流が分子となっているのに、分子生物学部とか日本の大学にありますか。分子生物学部がある大学なんて、いくらでもありますよ」(利根川進博士)という発言が、全てを表しています。

4.学生と大学教員の待遇と競争環境

 そもそも北米の大学の教授陣は、少なくとも平均で見ると、研究および教育、そして一般的な人間としての能力としても、日本の大学の先生よりも、かなり優秀であることは、疑いがないように思われます。もちろん日本最高峰の大学である東京大学や京都大学、あるいは中堅の国立大学でも、それぞれの分野で世界的な研究者(ハーバード大学やスタンフォード大学の普通の教授よりも格上の研究者)が少なからずいますが、平均というと、北米の中堅どころの州立大学のレベルにも及ばないのではないかと思われます。なぜならば、北米の研究者は、大学及び大学院で、かなりしっかりしたトレーニングを受けているし、大学院入学や研究者としての就職の際も、熾烈な競争にさらされていますからです。

 まず誤解のないように言っておくと、アメリカの大学に進学する層の高校卒業までの平均的な教育水準は、先進国最低水準というのは、ほぼ確定的なことです。とりわけ数学の教育水準が低く、SATという大学入学時に提出する共通試験のレベルは、小学6年生からせいぜい中学2年生程度の内容です。数学だけでなく、一般的に学力の水準はあまり高くありません。ただしこれは平均レベルの話であって、北米では夏休みのサマースクールや夜に行われている授業で、中学生や高校生が大学の授業を履修したりできるし、例えば数学や物理が好きな学生は科目だけ勉強できるし、飛び級もありますので、一部のできる学生は、自分の専門科目については半端じゃなくできます。そうはいっても、ハーバード大学やスタンフォード大学などの大学でも、入学時の学力の平均は東大生とほぼ同じくらいか、少し下がる程度で、東大生の方がいろいろな科目をやらされるので、限られた時間での事務処理能力は高いように感じられます。一方、アメリカの大学では、すでに大学入学以前に専門科目すべて履修などという新入生がいます。ところが大学の教育の質が北米の方が高いので、大学を卒業する頃には、アメリカの学生の方が、一般的に学力が高くなります。

 アメリカで大学や大学院の教育を受けるとすぐにわかりますが、まず日本の受験時の高校生のように徹底的にトレーニングされます。宿題を頻繁に出させられたり、場合によっては小テストのような類のものもあったりしますし、中間試験と期末試験で成績をつけられ、あまり悪いと合格点がもらえません。利根川進博士が述べているように、大学以上の学生へのトレーニングがかなりしっかりしているので、卒業生の最低水準というものがかなり確保されています。それに比べて、日本は高校までは比較的学力と言う意味では訓練されるものの、大学と大学院教育にやや欠陥があるので、優秀な研究者がでにくいのです。高校で上位の成績か、なにか(勉学ではなく、スポーツ選手としてということもあるのですが)に特に秀でていれば、授業料免除の奨学金や生活費補助付きの待遇を大学で受けられる可能性もあるので、経済的な意味でも、勉強しようという動機が大いにかかってきます。

 例えば私自身の経験でも、卒業論文が評価された上で、ある程度成績が良かったため、卒業式で学部卒業生の総代になったのですが、アメリカの学生のように、とくに多額の経済的な利益を得たわけではなく、これならば普通の人ならば、やる気がなくなってしまっても仕方ないかなと、感じました。アメリカの大学ならば、大学時代の学業成績は、大学院に授業料免除と生活費補助付きで入学するための競争でもありますから、大学院に行きたい人は、本気で勉強するでしょう。

 なお、アメリカの大学では、教授、準教授、助教授、講師、ポスドクと分かれており、講師以上がいわいる正式な教員です。このうちティニュアという終身教授権を持つのが一般的に準教授以上となります。大学院で博士課程を取得し、場合によってはポスドクをやった後に、なんとか大学の教員になったとしても、一般的にはまず助教授になるのですが、この助教授というのが、5年とか7年とかの任期制です。任期中に研究業績をあげ、教育でも評価をされなければ、準教授というティニュアを持つ地位に昇格することができないのです。

 一方、少なくとも最近までの日本の大学では、助手か少なくとも助教授以上は、一回なると解雇されるということのないポジションでした。したがって、この地位についてしまったらそれ以降、まったく研究を行わなくても、あるいはそれこそ教育義務も果たさなくても、定年まで少なくとも大学にはいられたのです。ただ、このような競争に最もさらされていると思われる、アメリカでの助教授クラスの研究が、一番ノーベル賞を受賞する対象になると、一般的な観察事実としては、いわれています。また大学教員の給与についてですが、そもそも労働市場が相当程度市場化されており、需要が多く、供給が少ない分野では、同じポジションや勤続年数でも他の分野より給与が高くなります。例えば、ビジネススクールの特にファイナンスの先生とか、工学部、医学部の先生は、純粋数学の先生や、歴史学や芸術などの人文系の教官よりも、一般的に給与が高いという点があります。

 またティニュアについても、一回終身教授権をとっても、基本的に研究費は自分で申請して稼いでこなければなりません。また夏休みは大学からは給与がでない、大学教員の給与は1年で9ヶ月分しかでないのです。したがって、教員が夏休み中も給与を確保しようとすると、夏休みには企業でコンサルタントとして研究をしたり、外部で職を見つけなければなりません。また通常の学期期間でも、週平日5日のうち、1日は大学外でのコンサルタントや、非常勤の取締役などをしてよいということになっており、むしろ大学側も、奨励しています。大学教員が外部とかかわりを持つことによって、大学に研究費や寄付金が入りやすくなるからです。

 また特筆すべき点として、北米の研究者の労働市場では、例えばもしあなたが、ハーバード大学で博士号を取得したとします。すると卒業後に、卒業生の出身大学ではポスドクや助教授として採用しないという慣行があります。この慣行は、法律で定められているわけではないけれども、大学社会では一般的に守られています。卒業生が他の大学で就職しないといけないのであれば、いわいる師匠が弟子を不当に厚遇するというようなことが起こりにくくなります。いわば平等な競争的な労働市場に放り出されるのです。 一般的に、大学と大学院は別の学校にいくことがその個人にとってもよいとされていますので、ハーバード大学の学部卒業生は、ハーバード大学ではなくマサチューセッツ工科大学やスタンフォード大学の大学院に進学する傾向にあり、もしマサチューセッツ工科大学かスタンフォード大学で博士号を取得すると、次はまた別の大学で就職することになるのです。

5.数多くの企業が大学から生まれる仕組み

 またなぜ北米の大学から、数多くの企業ができるのかということについては、バイ・ドール法がひとつのポイントとなります。この法律は80年に制定されたのですが、公的な資金によって民間の大学等で研究された研究成果、知的所有権について、民間の大学の所有にしてよいという法律でした。技術開発というのは、一般に基礎研究から始まり、どこかの段階で商業化ができるという流れになります。それぞれの段階で、様々な研究上のブレークスルーを経て、商業化できるのですが、従来はあと少しで商業化できるような技術で、しかもその技術を開発した張本人であっても、大学で研究したもので、自分に経済的な利益がなければ、特にがんばって商業化しようとは思わないでしょう。バイドール法により、商業化直前の技術については、民間大学の所有となりますので、大学としても技術をライセンスして、外部に営利会社を設立し、投資家の資金を集めるなどして、商業化に成功すれば、大学に収入が入るし、教授側としても、大学で行った研究は大学の所有ですが、外部にできた会社の創業者になったりして株を持ったり、取締役やコンサルタントになれば、副収入が稼げるのです。したがって、この法律により、大学や研究者に、商業化直前の技術を商業化する強い金銭的な動機が与えられるようになったと言われています。

 例えばサンフランシスコのベイエリアにあるジェネンテックというバイオ製薬企業は、もともとカリフォルニア大学サンフランシスコ校の教授が共同で設立した会社です。グーグルやヤフーの元となる研究成果は、スタンフォード大学の大学院生時代の研究成果ですし、ネットスケープとシリコングラフィクスの経営者であったジム・クラークは、スタンフォード大学の教授でした。MITには、ロバート・ランガーという教授がいて、DDS(ドラッグ・ディリバリー・システムズ)の分野で、数十の会社の設立に携わっているスター教授です。サンディエゴの通信企業クワルコムの創業者のアーウィン・ジェイコブ氏とアンドリュー・ヴィテルビ氏は、二人ともカリフォルニア大学サンディエゴ校の教授でした。あるものは大学に今も軸足を置き会社を設立し、社外取締役や科学顧問として参加、あるものは大学から完全に飛び出して、会社を経営しています。

 またそもそも公的な研究費の絶対額が、圧倒的に違うという点も見逃せません。しかもそもそも何で研究をするのかといえば、軍事的な優位を維持するためという側面があります。アメリカの国としての戦略として、圧倒的な軍事力を維持するという側面があります。圧倒的な軍事力を維持するためには、科学技術上の優位をも維持しなければならないのです。例えば、第三次世界大戦は数学者の戦争になるといわれているのですが、それは暗号と暗号解読の分野では、整数論や代数を基にしているからです。整数論はもともと最も応用とは縁のない分野といわれていたのに、急遽軍事技術上重要な分野に浮上したのです。このように、どのサイエンスの分野が軍事上重要になるかという点については、予想がしがたいので、基本的にすべての分野でトップであり続けなければならないのです。科学技術政策と軍事戦略は、切っても切り離せない関係になっています。したがって、近年のイラク戦争についても、対外的に軍を駐留させると多額のコストがかかりますので、結果的に科学技術研究予算が削減され、長期的な軍事的な優位を維持できるのかという議論も出てきています。

 またベンチャー・キャピタルという産業の成り立ちについては、代替投資という分野の投資に、大学基金がその大きな担い手になっています。例えば、冒頭ですでに述べたように、ハーバード大学やエール大学は、大きな機関投資家で、彼らは、ヘッジファンドやプライベート・エクイティーという代替投資への配分をもともと増やしています。ベンチャー・キャピタルという産業は、有望な技術を持ったスタートアップ企業へ投資し、5年から7年程度をめどに、IPOや売却により、投資資金を回収するという投資手法です。大学はスタートアップのネタになる技術をインキュベーター(培養器)のような役割をして生み出していきますので、大学側も技術を開発して、商業化する強いインセンティブを持ち、投資家の側も高いリターンを狙える投資対象として、位置づけているのです。

6.政策的な提言:今すぐ政治が変えられること
(未完成)

2008年9月13日土曜日

医療制度についての小論(1)

アメリカの医療制度を知りたいという依頼を受けることがあります。 その中では、李啓充氏(元ハーバード大学医学部助教授)の著書が、特に参考になります。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/search-handle-url?%5Fencoding=UTF8&search-type=ss&index=books-jp&field-author=%E6%9D%8E%20%E5%95%93%E5%85%85

アメリカの医療制度は、高度に市場化されているため、弊害といえる側面が多くあるのは、紛れもない事実です。そもそも経済的な理由で医療保険に入っていない人が、とてつもなく多いのです。ただ、医療システムのより包括的な理解という意味では、李氏の著作や講演の内容に付け加えることがあるともいえます。

例えば、
①有用な新薬や医療機器には、純粋に需要と供給の論理で高い値段がつくということ(逆に有用だけれども対象が多くの途上国の患者という場合は、イノベーションの動機が働きにくいということであり、こういったワクチンなどにお金を出そうと言うのがビル・ゲイツ夫妻の財団の発想である)。
②政府関係の医療研究予算がとにかく膨大。
③バイ・ドール法の制定以降、政府予算の研究成果を民間大学や企業の所有として、実用化しようとする金銭的インセンティブが強い。NIH(National Institute of Health)の存在意義は、多いに学ぶべき。日本型NIHの設立を提唱したいと思っています。
④以上を背景として、ほとんど7割から8割の新しい新薬や医療機器の誕生は、北米からだといえる。

企業経営という意味でも、日本ではなじみがないかもしれませんが、北米の医療機器(Medical Device)大手企業の持っている時価総額は巨大です。日本の医療機器メーカーでは、テルモとオリンパスがかろうじて1兆円近い時価総額を持っている程度ですが、例えば以下の時価総額リスト(4月時点)を見てください。 ここ30年の間、医療分野の市場は約15%の成長率だったわけで、ここにのって成長したいくつかの例が、Boston ScientificとかJohnson & Johnsonとかいう会社なのです。

Johnson & Johnson 20兆円
Medtronic 5兆7000億円
Alcon 4兆7000億円
Baxter 4兆円
Stryker 2兆7000億円
Coviden 2兆4000億円
富士フィルム 2兆2000億円
Beckton Dickinson 2兆1000億円
Boston Scientific  2兆円
St. Jude Medical 1兆6000億円
HOYA 1兆3000億円
テルモ 1兆1000億円
CR Bard 1兆円
オリンパス 9600億円

医療コストの爆発的な増大、民営化に適した分野と適さない分野、患者と医者の情報の非対称性など、思いついただけでもいくつも問題があります。北米では経済学研究についても、基本的に重要なのは応用分野でどれだけ貢献できるか(たとえば政策に採用されるようなアイデアを出したか)ですので、医療経済の分野は多くの優秀な学者が、本気でさまざまな問題に関する実証や応用研究を行っています。私は経済学部で医療経済の授業を受けた覚えがありませんし、極東のどこかの国の「理論を極める」とかいうのとは、発想が違うのです。

つまるところ、国民の平均の教育水準が高くても、アカデミズムがこのざまでは、この国に明るい未来はありません。

2008年8月24日日曜日

東大の改革の行方(2):私からの駒場生へのメッセージ

私は今から考えると昔になりますが、東京大学の駒場キャンパス(一般的に1、2年生のキャンパス:教養学部)で学びました。今から考えると、日本国内においては卓越した、恵まれた環境を活用できていたわけではなかったので、先輩から適切なアドバイスをもらっていたらもっと有意義な生活があったのではないかと思っています。 そういった意味で、ささやかながら、私からのアドバイスをさせていただきたく思います。

(1)駒場は人脈作りに絶好の場である

例えば、経済評論家、経済学者の植草一秀氏と、通称村上ファンドの経営者であった村上世彰氏と滝沢建也氏(元警察官僚、スタンフォード大学MBA、フランス語の天才ともされた村上氏の参謀)が、駒場の語学の同じクラスであったことは、知られています。私も同じクラスの人から、実際にいろいろと助けてもらったりというようなことはあります。そのうちの何人かは有名になったり、若くして社会的に重要なポジションにつくこともあります。 もしあなたが地方から上京して入学された方であれば、東京圏の進学校から駒場キャンパスへ進学してきた同級生や先輩は、上級国家公務員や一部上場企業の幹部層のお坊ちゃん、お嬢ちゃんである比率が高く、彼ら彼女らの両親たちは、県立高校の同級生の親御さんと異なった、様々な情報や考え方を持っていますので、せっかくなので、お父さんやお母さんとも仲良くなって、彼らの情報や考え方(人生観も含めてです!)を学んでみましょう。

(2)先生と仲良くなろう

もしあなたが将来、大学院に進学したり、海外に留学をしたいと考えているならば、受験に推薦状が必要です。 あなたを良く知っていて、良い推薦状を書いてくれる教授を確保することは、海外大学院を受験する場合は、非常に重要になってきます。こういった観点からも、いかに推薦者を確保するかは重要です(ビジネスなどで成功するための、対人交渉能力を養うひとつのステップと考えても良いと思います)。先生方(特に非常勤講師の先生方)の中には、その分野や文壇で非常に有名か、将来有名になるような人がいることがあります。

私の学生時代も、佐藤優氏(起訴休職外務事務官)や、宮台真司氏(首都大学東京教授)などが、さりげなく教えていましたし、岩田一政氏(前日銀副総裁)や、十倉好紀氏(東京大学工学系研究科教授、ノーベル物理学賞に近い)なども、分担の講義をもっていたと思います。ちなみに私は、南條竹則氏(翻訳家、中華料理の批評等で有名)に英語を、工藤庸子氏(フランス文学者)にフランス語を習いました。桝添要一厚労省大臣も、かつて東大教養学部の教官(助教授)でした。

佐藤優氏などは本当の意味でのエリート、その道を極めた人なのです。利害関係を気にせずに、こういった人とめぐり合えるチャンスはなかなかありません。

ちなみに学者が政権にアドバイザー等で参加するという形態の先駆は、故佐藤誠三郎氏(東京大学名誉教授)以来の教養学部の社会科学系の実績であり、現在も伝統とされています。桝添氏や北岡伸一氏らは佐藤氏の弟子筋に当たるのです。

なお、もしあなたが、あなたの専門分野での留学を考えている場合は、その分野で世界的に知られている研究者を推薦者にすることが重要です。北米の大学院の選考は、日本の大学院と違う(どの推薦者の推薦状が非常に重要)ことを留意しておくと良いと思います。 例えば、博士課程の合格者決定についての参考になる文章は、以下の林文夫氏(東京大学)と青谷正妥氏(京都大学)のページに書いてあります。

http://fhayashi.fc2web.com/recommendation_policy.htm

http://aoitani.net/aotani/Studying_Abroad/US_for_Science_and_Engineering_Majors.html

例えばもしあなたが将来、投資会社で製薬会社のプロジェクトについて評価しなくてはならないときに、知識がなければ、仲良くしておけば、駒場時代の生命科学の先生が助けてくれるでしょう。

(3)今しか履修できない授業を履修しよう

東京大学に中野キャンパス(海洋研究所)や白金キャンパス(医科学研究所)などの施設があることをご存知ですか。ほかにも、種子島や北海道の原生林とか、小石川植物園(理学部研究用)とか東海村キャンパスとかあるんです。原子力発電所の見学ツアーとか、牛の受精の実習とか、わけの分からない授業を結構やっているんです。今考えれば、そういった授業に、今からでも参加してみたいと考えるわけですが。

(4)英語の勉強をしよう

国際的に活躍するには、英語は非常に重要となっています。研究者でも、ビジネスマンでも。とにかく一生懸命英語を勉強してみましょう。留学専門の予備校へ行くと、あなたよりおそらく5歳から10歳くらい年上の社会人が、TOEFLとかGMATとかの勉強をしています。そういったところの模擬試験はただですので、受けてみることをお勧めします。 あとアルクという会社から、「1000時間ヒアリングマラソン」とかいう広告が出ていますが、これはいい教材なので、時間のある学生時代にトライしてみてはいかがかと思います。 また日経新聞ではなくて、Wall Street JournalやFinancial Timesなどの英語圏の新聞や、Economistなどの雑誌を読むことも、いいことだと思います。はっきり言って、日本のマスメディアのレベルは必ずしも高くないし、偏っていますので、それがわかるだけでもすばらしいことです。

(5)ハーバード大学やMITに編入しよう

北米では大学の編入等はごく当たりまえです。ハーバード大学やMITのような世界の名門校も、世界中の学生に対して、3年次からの編入に門戸を開いています。合格するためには、いい成績をとる、いい推薦状を書いてもらう、TOEFLで高得点を取る、何かひとつのことに秀でるなどの必要があると思いますが。そういった制度を利用して、海外の大学に移っていくのも手です。むしろ東京大学としても、ハーバードやMITに積極的にいい学生(学業や課外活動に秀でた、いわいる松坂大輔選手のような人材)を編入させ、そちらで卒業した学生には、東京大学の卒業資格も同時にあげるようにしてもいいのではないかと思うのですが。

(6)1年でいいから休学してみよう

北米での私の経験では、休学というのは良くあることなのです。例えばお母さんの上院議員選挙のためにスタンフォード大学を1年休学したチェルシー・クリントンさん(オックスフォード大学を経て、マッキンゼーに入社し、今はヘッジファンド勤務です)。ケリー上院議員の娘であるバネッサ・ケリーさんも、お父さんの大統領選のため、ハーバード大学医学部を休学していました。自分のやりたい研究をするために、北米の大学の研究室で1年間助手をするとか、ヘッジファンドでインターンとして働いてみるとか、論理的、物理的には、いろいろとできるはずです。自分の可能性を狭める必要は、どこにもありません。

(7)世の中のために自分が何ができるか考えよう

いうまでもないことですが、環境が恵まれているのならば、きちんとその恩恵をいつかは世の中に返すつもりでいましょう。 ノーブルレス・オブリッジです。

2008年8月11日月曜日

HOYA(旧保谷硝子)の経営(1):ベンチャー投資でまた失敗したこんな無能な経営陣では、先行きが暗い

HOYAの買収、出資先であるQstreams Networks, Inc (メリーランド州)の清算(要するに、事業がうまくいかずに破産したという意味)が発表されています(2008年8月7日発表資料)。

http://www.hoya.co.jp/japanese/news/latest/d0h4dj00000016uy-att/d0h4dj00000016v9.pdf

以前から私が主張しているように、技術担当者の丹治宏彰氏はまるっきり投資やMOTに関して才能がなく、むしろ何か理由があって積極的に企業価値を壊しているのではないかとさえ思えます。 丹治氏の解任こそが、新生HOYAの第一歩です。

現在の主力事業は、ほぼすべて1980年代までに作られたものであり、90年代後半以降は何の成果もないため、ここ2年で株価の55%下落という結末を迎えました。1500億円コストをかけた投資の結果が、たった1年たって赤字に転落(ペンタックス:Pentax)というのが、はたして容認されるのでしょうか。

このような現状を、普段はおとなしい機関投資家でさえも、決して放置するべきではありません。 なお私は、これらの経営問題に関して、取締役会議長宛及び代表執行役への公開質問状を準備しています。よろしければ、知恵をお貸しください。もし浜田宏氏が現状維持の態度で甘んじるのならば、それも問題でしょう。

2008年8月6日水曜日

アメリカ大統領選について思う(2):マケイン夫人の実家にみる経営と所有の分離の合理性

マケイン上院議員(共和党)とオバマ上院議員(民主党)の争いになっている2008年のアメリカ大統領選ですが、日本のマスコミ報道では、よほど注意深く見ていないと、本当に興味深い点を見過ごすことになります。私が注目し、日本の皆さんに知ってもらいたいのは、マケイン上院議員の配偶者である、シンディー・ヘンスリー・マケイン夫人と、その実家に関してです。

シンディー・ヘンスリー・マケイン氏について(ウィキペディア記事)
http://en.wikipedia.org/wiki/Cindy_McCain

シンディーさんは、ヘンスリーというアリゾナでは有数なビールの小売りと卸売りの会社の相続人(一人っ子、男兄弟なし)なのです。売り上げ400億円近い会社のいわいるオーナーなのです。

ヘンスリー社について(ウィキペディア記事)
http://en.wikipedia.org/wiki/Hensley_%26_Co.

ヘンスリー社ホームページ
http://www.hensley.com/

シンディーさんは、南カリフォルニア大学を卒業した才女ではあるが、いわいる会社の取締役会会長であって、日々の経営執行には関与していません。CEOには専門経営者を雇用しているのです。シンディーさんは、教育学の修士号をもっているわけで、知的教養を持ち合わせているのであろうけれども、経営者というのは専門性の高い職業ですから、シンディーさんが毎日会社へ行って経営するより、社長に当たる人物は適任者を雇用し、オーナーは取締役会会長として、重要な意思決定にのみ関与するという、この形態は、株式所有者としても、きわめてよろしいわけです(経済合理性を掲げながら、実績と能力の伴わない会長の息子が社長になり、意味不明な経営統合で多大な損失が発生して、経営がうまくいかずに、近年55%株価が下落した会社を見れば、比較してもその合理性は明らかです)。

これが、北米流「経営と所有の分離」の本当の意味なのです。

2008年7月29日火曜日

社外取締役が諸悪の根源(2)

ふと当たり前のことを考えていただきたいのですが、形式的に社外取締役を置けばすぐれたガバナンスになるというのは、笑止千万の理屈です。損失隠しを行っていたエンロンでさえ、社外取締役はいましたし、KKRが買収する前に放漫経営であったとされるナビスコでは、CEOが社外役員にベネフィットを与えることで、実質的にコントロールしていたわけです。

社外取締役を過半数にして、委員会設置会社にすれば、ガバナンスが良くなるというのは、まったくの誤解です。株価の推移を見れば、それも明らかなはずなのです。

エンロンにしても、社外取締役は約14億円の賠償金支払いに応じています。「ペンタックスの従業員の過半が合併に賛成」などということを理由にして、株主利益に反する判断に賛成した社外取締役は、本当はすぐに役員会から追放されるべきでしょう。そうならないのが、「取締役会の仲良しクラブ化」の証拠です。本当は、個人株主が怒るべきなのです。 

2008年7月26日土曜日

社外取締役が諸悪の根源(1)

HOYAの取締役会は、すぐれたガバナンスにあらず」 (2008年7月20日)の記事の要約です。

①社外取締役が多数からなるHOYAの取締役会は、株主の代理人としての監督機能をまったく果たしておらず、2年間で株価の55%下落を招いた。問題の本質は、株主利益とは何かということと、事業内容について、まったく理解していない社外役員による役員会の仲良しクラブ化である。

②創業メンバーの日比良一常務らが役員会にいた、70年代80年代こそ、事業開発に真剣に取り組み成果を出した、まともな経営が行われていた時期であり、現在のほとんどすべての主力事業が創出された。

③90年代後半以降のお粗末な経営は、80年代末までに創出された事業があまりにすぐれていたために、既存事業の成長鈍化が明確になったここ2年くらいまでは、外から見えにくかったというのが真相。

④すでに機関投資家は投資家として離れる傾向にあり、本質的な変化がないのであれば、「HOYA株主の失われた8年」は「失われた15年」や「失われた20年」になってしまうだろう。

2008年7月20日日曜日

HOYAの取締役会は、すぐれたガバナンスにあらず

従来HOYAの取締役会は、社外役員制度や委員会設置会社形態をいち早く導入し、先進的な企業統治であるといわれてきました。一方で、まさにそのように言われるようになってきた2000年代(2000年から、この2008年まで)で、なぜまったく株価が上昇していないのか、今年の1月に株価の急落(より広い意味では2年間で55%の株価下落であり、日経平均すら大きく下回っている)を招く結果となったのかということに関して、私の見解を述べておきたいと思います(一部はすでに今まで私が表明してきたことと重複しますが、ご了承いただきたいと思います)。

すでに述べてきたように、HOYAがROAの高い企業になれたのは、いくつかの偶然もあり、70年代初頭に硝子(がらす)研磨の技術を手に入れることができたからです。もしこの技術を手に入れたのが、ほかのガラスの会社(例えば旭硝子、日本板硝子、山村硝子、コーニング、ピルキントン、ショット、ザイス)であり、手に入れた会社がそれに基づいて継続的な技術研究開発、製品開発を行っていたら、HOYAではない別の会社が、半導体の製造工程で使われるマスクブランクスやHDD用ガラス磁気ディスク基盤などの市場における主要プレーヤーになっていたでしょう。もちろん潜在的に優れた技術をせっかく手に入れても、きちんと開発を行わなければ高収益事業には育たないので、70年代、80年代の保谷硝子の会社経営は、相対的には優れていたといえると思います。

この時代に社外取締役などはおらず、経営の意思決定である取締役会は、鈴木哲夫社長(当時、以下同じ)のほか、日比良一常務(私の祖父である山中茂氏とその兄である山中正一氏の甥(兄弟の姉妹の息子)、鈴木哲夫氏の義理の従兄弟)が関与しており、仮に社長の意思決定や日々の事業執行がおかしければ、創業家の株主兼役員が声をあげたであろうと思いますし、彼ら以外にも創業時代から苦労して会社を一緒にやってきた人が多くいましたから、会社のそれぞれの事業の内容や技術などもよく理解していました。そういったチェック・アンド・バランスが、ある程度良く働いていたのです。

すでに述べたように、ガラス磁気ディスク基板、マスクブランクス、フォトマスク、オプティクスなどの現在の高収益事業は、80年代末までに製品開発されて創出されたものであり、90年代半ば以降はなんら実効性のある新事業が創出された実績がありません。

ところが、90年代以降創業時からのメンバーである日比良一氏らは老齢化したこともあり経営の一線からは退き、社外役員制度なるものが導入されていきます。椎名武雄さん、茂木友三郎さん、河野栄子さん、塙義一さんら、別の会社で著名な方々が役員になるという構成になりました。90年代末、2000年代になって、やれ先進的なガバナンスだの宣伝されるようになったまさにこの時期が、私のいう「HOYA株主の失われた8年」という、株主価値がまったく創出されない期間と重なるのです。いったい何が問題だったのでしょう。

①現在の社外役員は、材料科学や眼科の領域のビジネスについては、まったくもって不案内であるし、80年代までの取締役であった日比良一氏らとは対称的に、HOYAの事業内容について、まったく理解していません。

②金融の自由化、国際化とともに、現在の株主利益を最優先とする経営がどういうものであるかについて、現在の取締役諸氏は、きちんと理解しているとはいえないと思います。社外役員最年少の河野氏を除くと、現在の社外役員諸氏は70歳以上であり、彼らの経験則と、現代の株主のほうを向いた経営とは、残念ながら、齟齬が発生してしまっているのではないかと思われるのです。だからこそ、普通に訓練をうけた人ならば、HOYA株主に多大な損害を与えるだろうことが簡単に予期できるにもかかわらず、「ペンタックスの従業員の過半がHOYAとの合併に賛成」などということを根拠に、株主価値を破壊する決定に賛成してしまったのでしょう。

③社外役員の中には、HOYA株をまったく所有していない方もおり、(無能な経営陣を排除して)株価を上げよう(少なくとも下落を防ごう)という金銭的な誘引が、ほとんどない。所有していたとしてもきわめて少数である(経済記者の牧野洋氏がかつて上げていた論点)。

④社外役員は、経営陣が無能でも、執行を行う社内の役員を解任する動機を持っていない。

⑤日比良一氏がもっていたような、会社に対する強い愛着などを、外部の役員は持ち合わせていない。

客観的にいって、90年代後半以降にの経営はかなりお粗末です。シリコンバレーで技術を買うなどといって行った投資活動は、すべて破産していますし、このままいくと近い将来株価が急落するということが分かっていなくてはならないのに、株主価値を増加させるような買収や事業開発をまったく行えませんでした。そうであるにも関わらず、取締役会がなにもしてこなかったのは、役員会の仲良しクラブ化、まともな企業統治の不在といわざるを得ないのです。

なお、私のある上場企業の経営者の親族(注:父方親族ではない)は、こういった現状を踏まえ、HOYAの取締役会を、「最悪の取締役会構成」と呼んでいましたし、別の人は、社外取締役のことを「売名行為」「お小遣い稼ぎ」などと揶揄していました。

補足:日比良一氏は、終戦直後の保谷硝子(当時の社名は保谷陶器製造所、軍事工場であったことを隠すため、社名も変え、戦時中の経営者は表には出さないためです)の社長をしていました。当然ながら鈴木哲夫氏よりも社歴は長く、祖父が倒れたときの第一の社長候補でした。その日比氏は、日比氏の別荘での一族で会議の上、社長就任を辞退し、鈴木哲夫氏に社長を譲ったのでした。そういった歴史があるのです。

2008年6月14日土曜日

東大の改革の行方をよく見守ろう(1)

私は一応、東京大学の出身者です。大学ではいろいろな方にお世話になりました。海外に出て、世界中からきた学生と大学院で切磋琢磨したり、仕事をして競争したりすると、日本の大学は、大学教育を通じて、国際的に競争しているんだと感じるところがあります。

例えば、インドの名門校インド工科大学(India Institute of Technology)は、インドにある7つの科学・工学系の大学の集合体(日本の戦前旧帝大のようなものです)ですが、学部卒業生の学力のレベルが、大体MITやスタンフォード大学の修士卒業生のレベルであり、ここからコンピューター・サイエンスを筆頭としたアメリカの工学大学院にフェローシップ付きで入学して、著名なサイエンチストになっていく競争力のある学生を多数生み出していることが、インドの工学における世界的な地位をあげているといってもよいと思います。30万人のうち、5000人程度しか入試に通らないのです。(このような競争力のある大学は、例えばイランのSharif University of Technologyもその一例です)。

インド工科大学の記事
http://en.wikipedia.org/wiki/Indian_Institutes_of_Technology

Sharif University of technologyのホームページ
http://www.sharif.ir/en/
http://en.wikipedia.org/wiki/Sharif_University_of_Technology

はたして何人の東大教官が、自分たちはインド工科大学やイランのトップの大学と競争しているという意識を持っているのでしょうか。たとえば私が以前に見たコンピューター・サイエンスの分野での引用数では、トップ1000に入っている日本人の研究者はたった一人だったと記憶しています。

私は経済学やコンピュータ・サイエンスなどの分野での学部教育のレベルについて、コメントできる実経験を持っていますが、東大といえども、MITやスタンフォードのみならず、インドや途上国でのトップ大学との比較でも、レベルが少し低すぎるように感じています。

さてわが出身大学ですが、授業料600万円のリーダー養成講座をはじめるという記事。
http://www.j-cast.com/tv/2008/06/12021669.html

日本の大学は、東大をお手本として動いていくことは否定しきれないわけですから、東大の行方には日本の大学教育の将来がかかっていくといっても過言ではありません。私の外部から見た印象では、小宮山宏総長になってから、大分正しい改革の方向性へ舵が切られたように見えます。大学の独立行政法人化により、変わらざるをえないということなのかもしれませんが。

ハーバード大学やエール大学などでも、短期の講座で大学が収入をあげるということは普通に行われています。国際的に競争力のある大学としては、収入もあげなくてはならないのですから、方向性は正しいのでしょう。

東京大学のページ
http://www.u-tokyo.ac.jp

ハーバード大学のページ
http://www.harvard.edu

エール大学のページ
http://www.yale.edu

2008年5月28日水曜日

「5年前から分かっていたこと」

以下の発言について。

ロイターサミット:HOYA、今後数年で10─50億ドルのM&Aが必要
http://ascii.jp/elem/000/000/134/134949/
http://special.reuters.co.jp/contents/techsummit_article.html?storyID=2008-05-21T200139Z_01_NOOTR_RTRMDNC_0_JAPAN-318982-1.xml

[東京 21日 ロイター] HOYA<7741.t>の鈴木洋CEO(最高経営責任者)は21日、ロイター・テクノロジー・サミットの席上で、事業ポートフォリオの分散化を図るため、10億─50億ドル(約1000─5000億円)規模のM&Aを仕掛ける必要があるとの認識を示した。
鈴木CEOは「(手元の)現金が15億ドル(約1500億円)というのは多過ぎる。今後2─3年でかなりの規模の買収をやっていかないといけない」と述べた。現金と借入金による買収を想定しているという。

ロイターサミットでの鈴木洋氏の発言内容は、「5年前から分かっていた事」という私の以前のコメントの論理的正当性を、まさに裏付けた内容です。なぜならば、「(手元の)現金が15億ドル(約1500億円)というのは多過ぎる」というが、それは5年前の2003年の段階でも同じ状態だったからです。

私のコメント:
HOYAの経営課題と事実関係について
2008年1月3日 山中 裕
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoya_08.html

日経ビジネス記事(2007年5月28日):HOYA、TOB合意後の「試練」http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070524/125459

ご承知のとおり、2007年第四四半期の決算で、約1500億円を費やした買収対象の旧ペンタックス社部門の赤字転落が発表されました。株価は2007年第三四半期発表の決算後に急落し、2年間で45%近い下落となっており、お話にならない状態です。「今後2─3年でかなりの規模の買収をやっていかないといけない」というのは、それは5年前以上から分かっていたことにすぎません。株価が急落してからでは、遅すぎるのです。

また余剰資金があったとしても、社内のプロジェクトに資金を使うこともできるわけですから、鈴木洋氏の発言内容は、買収でしか新事業を作れないこと、つまり社内の研究開発能力が低いこと、そこを経営上いままでおろそかにしてきたことも、いみじくも露呈させて、認めた格好です。

このような発言が、最高経営者として適切であるかについても、私はそもそも疑問です。例えば、任天堂(http://www.nintendo.co.jp/)の新世代ゲーム機「Will」や、Boston Scientific社(http://www.bostonscientific.com/)のDES(Drug Eluting Stent:薬剤溶出ステント)は、年間数百億円(あるいはそれ以上)の利益を生むにいたった社内開発の成果ですが、類似の企業価値を増大させる製品開発能力が、HOYA社内にないということを、明言すること自体、いったい何なのかと感じます。
HOYAが優良企業といわれるようになり、最近になり株価が急落したその歴史を見ると、結局のところ、株主価値を増やすということは、地道な研究や製品開発を行うことに尽きるということが結論できると思います。なるべく早く、その任務に適任な人材を、技術開発の担当者に任命すべきです。

「君たち、何か理由があって、会社の価値が増えないように、わざとやっているの?」と聞きたくなるような状況です。だからお願いだから、どうにかしてほしいというのが、私の正直なところです。

HOYA株式会社のホームページ
http://www.hoya.co.jp/

HOYA株式会社(ウィキペディア記事)
http://ja.wikipedia.org/wiki/HOYA

日経ビジネス記事(2007年5月28日):HOYA、TOB合意後の「試練」http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070524/125459

Nikkei BP Net 記事(2007年8月8日):HOYA、TOB成立は単なる一里塚http://www.nikkeibp.co.jp/news/biz07q3/541954/

HOYA株式会社の会社概要のページ
http://www.hoya.co.jp/HOYA_DYNAMIC/index.cfm?fuseaction=company.about

ペンタックスのページ
http://www.pentax.jp/japan/index.php

HOYAの経営に関する私の文章(2008年1月3日)http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoya_08.html

HOYAのCOOに浜田宏氏就任
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoyacoo.html

HOYA株式会社最高執行役に浜田宏氏就任のニュースリリースhttp://www.hoya.co.jp/data/current/newsobj-578-pdf.pdf

HOYA株式会社R&Dのページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_06.cfm

HOYA株式会社の経営理念のページhttp://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_03.cfm

2008年5月24日土曜日

ボストン・レッドソックス戦の観戦記(5月21日22日)

5月20日21日のボストンの大リーグ球団、ボストン・レッドソックス(Boston Redsox)の試合(対カンザスシティー・ロイヤルズ(Kansas City Royals))に行ってきました。カンザス・シティーの監督は、去年まで日本ハムファイターズの監督だった、トレイ・ヒルマン(Trey Hillman)氏。

ボストン・レッドソックスのホームページ
http://boston.redsox.mlb.com/index.jsp?c_id=bos

カンザスシティー・ロイヤルズのホームページ
http://kansascity.royals.mlb.com/index.jsp?c_id=kc

ヒルマン監督のサイト
http://www.baseball-reference.com/bullpen/Trey_Hillman

20日(水)は、2005年アメリカンリーグのサイヤング賞(Cy Young Prize)のバルトロ・コロン(Bartolo Colon)のレッドソックスでの初先発。初回にアメリカン・インディアン初の大リーガーの人気選手ジャコビ・エルスバリー(Jacoby Ellsbury)の先頭打者ホームランが飛び出す。2回表に1点、5回表に1点ずつとられて逆転を許すも、5回裏にジェイソン・バリテック(Jason Varitek)のホームランで追いつくと、一挙に4点、7回裏にもエルスバリーがヒットですかさず盗塁、ダスティン・ペドロイア(Dustin Pedroia)のヒットで得点。6回からハンセン(Craig Hansen)、ロペス(Javier Lopez)、デルカーメン(Manny Delcarmen)、ティムリン(Mike Timlin)の継投で1点に抑え、勝利。

バルトロ・コロンのページ
http://en.wikipedia.org/wiki/Bartolo_Col%C3%B3n

ジャコビ・エルスバリーのページ
http://en.wikipedia.org/wiki/Jacoby_Ellsbury

ジェイソン・バリテックのページ
http://en.wikipedia.org/wiki/Jason_Varitek

21日(木)は、1時半ころの開始。それまでハーバード大学の本屋などを物色する。試合はまず松坂大輔投手が登板。これまで7勝0敗としているが、初回にいきなり1点取られ、投球回数も30球を越える(注:大リーグの場合、投手分業が徹底しており、投手生命の維持の観点もあり、先発は100球程度をめどにして降板するのが一般的)が、2回の裏になんとJD ドリュー(JD Drew)が満塁ホームランで4点。3回裏にも1点をとるも、5回表に2失点で追い上げられ、6回表途中で松坂は降板して、ロペスに交代。ロペスは何とか抑える。ところが6回裏に、ペドロイアの2点2塁打と、主砲ラミレス(Manny Ramirez)敬遠後のローウェル(Mike Lowell)の満塁ホームランでさらに4点として、11-3として試合を決めたかに見えた。ところが、今年のレッドソックスはブルペン投手がいまいちピリッとせず、7回のハンセンが2失点、8回ここまでのシーズンは比較的良く、防御率2点台前半のアーズマ(David Aardsma)が運の悪いヒット2本後の、3ランホームランで3点を失い、11-8となる。9回表には抑えの守護神パペルボン(Jonathan Papelbon)を投入。今年のパペルボンは、2回連続で救援に失敗した記憶がよみがえる。2アウト後からヒットで2人ランナーが出て、一打同点のピンチ。3番のゴードン(Alex Gordon)の打球は左翼に飛ぶ大きなあたりで、特に左翼がグリーンモンスターと言われる狭い球場だけにヒヤッとさせられるが、エルスバリーが取ってアウトで試合終了。

なお岡島秀樹選手は、今回は試合では見ることができなかった。ロイヤルズは、薮田安彦選手が登板。今回は相手のチームだが、個人的にはがんばってほしいと思う。

松坂大輔選手のページ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BE%E5%9D%82%E5%A4%A7%E8%BC%94

マイク・ローウェルのページ
http://en.wikipedia.org/wiki/Mike_Lowell

ジョナサン・パペルボンのページ
http://en.wikipedia.org/wiki/Jonathan_Papelbon

マニー・ラミレスのページ
http://www.mannyramirez.com/home.htm

薮田安彦選手(ロイヤルズ)のページ
http://ballplayers.jp/yabuta/

以上のとおりで、両ゲームともそれなりにスリルのある試合であり、特に一試合2満塁ホームラン(Grand Slam)が見れたのは幸運。

大リーグで特に思うのは、観客に若い女性が多いこと。観客席からのゲームの盛り上げ方が、ロック・コンサートに似ているように思える。ロック・コンサートとK1を同時に体験しているようなものと言ったら言い過ぎか。けれども、選手の動きがよりダイナミックであり、そこにも面白さを感じる。

またこれはフェンウェー・パーク(Fenway Park)の特徴でもあるのだが、ファールゾーンが小さく、観客席と球場内部の間の柵などもないので、選手が近く見えるし、ファールのときに選手を触れたりすることもある。

またここでは今回は詳細は省略するが、エンターテーメントとしてのスポーツビジネスとしての運用方法も、一つ一つ面白いと感じる。若い女性の皆さんも、ぜひボストンまで遊びに来てください。

2008年5月20日火曜日

鈴木哲夫氏による経営改革は結局のところ失敗

鈴木哲夫氏による経営改革は結局のところ失敗
2008年5月20日 山中 裕

私の伯父である鈴木哲夫氏は、私の祖父の山中茂氏が病気で倒れてから、40年以上HOYA(旧保谷硝子)の経営に携わってきました。会社が世の中に受け入れられて発展できたのは、鈴木哲夫氏とその世代の経営者の経営手腕に負うことが大きかったのは事実ですが、様々な事柄に関して、客観的に見なければ、発展的な議論を行うことはできません。

2007年度第三四半期、第四四半期の大幅減益の決算内容と、年初来の株価の急落により、HOYAの経営陣は2000年以降に企業価値の増大に完全に失敗してしまったことが明らかになりました。残念なことですが、取締役半減や社外取締役制度の導入は、他の日本の会社にも同様の形態が導入されるきっかけになった貢献はあながち否定できませんが、HOYAの企業価値を増やすことには、結局のところ、まるで役に立ってこなかったというのが真実です。

すでに述べたように、2008年3月31日のHOYAの株価の終値は、2,340円でした。鈴木洋氏らが経営陣に就任内定した2000年5月末の株価が9990円(4分割修正後の値で2497円)、2000年6月末(30日)の株価は9500円(4分割修正後の値で2375円)ですので、株価は実際には8年間で下がっていますので、結局のところ、8年間でまったく企業価値を増やすことができなかったということです。一部マスコミの提灯報道があろうとも、株価は経営者にとっては通信簿のようなもので、企業価値を中長期的には反映する指標であり、決して誤魔化しが効かない。

同様にいくつかの場所で私が述べたように、すでに観察能力の欠如したマスコミ報道により、世間では完全に誤解されているわけですが、私が言いたいことを簡潔にまとめておきます。私の問題提起が、今後の株主利益の増加にとって、少しでもプラスに働けばと思っています。

①HOYAが高収益企業になったのは、70年代初頭に獲得したガラス研磨技術のおかげ。ガラス研磨技術の応用商品は、技術的な参入障壁が高いため、高収益となった。80年代に地道に事業として育て上げ、90年代に急成長の原動力となるべく、花を咲かせたことによる。材料科学メーカーの技術開発のタイムスパンのあるべき姿をあらわしている。マスクブランクス、フォトマスク、ガラス磁気ディスク基盤、光学レンズの四天王は、いずれも80年代後半までに開発された商品である。真に賞賛されるべきは、鈴木哲夫氏らによる70年代から80年代の経営姿勢であって、ガラス研磨技術の圧倒的な優位性と、そこから出てくる潤沢なキャッシュ・フローにより、90年代後半以降のお粗末な経営が、外から見えにくかったと言うのが真相。

②90年代後半以降15年近くにわたって、HOYAには新規事業の創出実績がない。鈴木洋氏が現地法人責任者時代にシリコンバレーで行った投資は、ほとんどすべて破産に終わり、企業価値に多大な損害を与えた。優良案件の獲得の仕方、投資銀行の使い方、技術開発型企業の評価の仕方、ベンチャー投資界での人脈の作り方など、すべてにおいて合格点を与えられないような惨めな内容。

③2000年代前半より、大手機関投資家からも、余剰資金の使い方についてクレームがつけられていたが、成長率鈍化が明らかになった2005年ころからも、経営陣は何も手を打てなかった。代替品であるフラッシュ・メモリーの台頭などにより、既存事業の将来性が危ういことは、2004年にはすでに内部関係者にも認識されていた。そこでようやく行ったのが、1500億円での戦略なき高値掴み的なペンタックス社の買収。経営陣は株主価値に多大な損害を与えた。

④社外取締役は取締役会を仲良しクラブ化しており、執行にあたる役員の監督機能を果たしているとは到底いえない。私は②や③にある問題について、以前より気がついていたが、結局のところ、株価が2年で45%急落する以前に、何も手を打てなかったということ。株価が急落して気がついてからでは遅すぎる。北米の上場企業ならば、善管注意義務違反と指摘されてもおかしくない。

⑤社内R&Dも、実質すべて失敗に終わっている。2004年買収のRadiant Images社の競合他社への知的所有権売却は、株主総会で問題にすべき内容。3CSiC事業の子会社も2007年に上場予定と5年前に発表も、まったく成果がない。売り上げ初年度数億円を見込むとしたXponent Photonics社は、見事に破産に終わった模様。技術担当者を交代させなければ、何のために指名委員会があるのかわからない。

⑥まとめると、いかに鈴木哲夫氏が以下で述べていた「持ち株会社化で本社は投資家に、少数で戦略練り企業価値を図る」という考え方自体は決して誤りではないが、実態を伴っていなかったということが結論できる。「HOYA株主にとっての失われた8年」を、決して「15年」にしてはならない。

編集長インタビュー 
人物 鈴木 哲夫氏[HOYA会長]
持ち株会社化で本社は“投資家”に 少数で戦略練り企業価値向上図る
http://bizboard.nikkeibp.co.jp/kijiken/summary/19981130/NB0968H_408644a.html
問 この不況下で、HOYAの今年9月中間期の連結税引き後利益は92億円と半期として過去最高を記録しました。鈴木さんは40年近く経営トップの座にありますが、4年ほど前から取締役の数を半減させたり、事業分野を再編したりと、経営改革を進めています。今回の最高益はその成果という見方もあるわけですが、経営改革を決断したきっかけは何だったのですか。

以下は、参考のページです。

HOYA株式会社のホームページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/index.cfm

HOYA株式会社(ウィキペディア記事)
http://ja.wikipedia.org/wiki/HOYA

日経ビジネス記事(2007年5月28日):HOYA、TOB合意後の「試練」http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070524/125459/

Nikkei BP Net 記事(2007年8月8日):HOYA、TOB成立は単なる一里塚http://www.nikkeibp.co.jp/news/biz07q3/541954/

HOYA株式会社の会社概要のページ
http://www.hoya.co.jp/HOYA_DYNAMIC/index.cfm?fuseaction=company.about

ペンタックスのページ
http://www.pentax.jp/japan/index.php

HOYAの経営に関する私の文章(2008年1月3日)http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoya_08.html

HOYAのCOOに浜田宏氏就任
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoyacoo.html

HOYA株式会社最高執行役に浜田宏氏就任のニュースリリースhttp://www.hoya.co.jp/data/current/newsobj-578-pdf.pdf

HOYA株式会社R&Dのページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_06.cfm

HOYA株式会社の経営理念のページhttp://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_03.cfm

キャピタル・グループのホームページ
http://www.capgroup.com/

フィデリティのホームページ
https://www.fidelity.com/

2008年5月19日月曜日

HOYAの2007年度営業利益が前年度比11.3%減の発表について(ペンタックス社買収騒動から1年後)

私が伝えたいことは、ある意味で当たり前のことに過ぎませんが、巷の見解が混乱しているので、簡単にまとめ、以下のニュースに対するコメントとします。

「HOYAが反落、前期連結営業利益は11.3%減」の記事http://www.excite.co.jp/News/economy/20080428163900/kabu_20080428100597.html
http://money.jp.msn.com/investor/stock/news/newsarticle.aspx?ac=K20080428031&cc=12&nt=01
HOYA<7741.t>が反落。午後1時に発表した前08年3月期連結決算を受け、株価は一時220円安の2725円まで売られた。 前期決算は営業利益で前々期比11.3%減の950億4600万円と2ケタ減益を計上した。四半期ベースで見た営業利益率は第2四半期(07年7~9月)の26.6%から第4四半期(08年1~3月)には13.3%へと急低下(前期通年では19.7%)しており、嫌気されている。要因は半導体用フォトマスクやHDD用ガラスディスク、光学レンズなどを手掛けるエレクトロオプティクス部門の低迷。一部の主要製品の価格低下や新製品への対応の遅れなどが影響したという。

なお3ヶ月前時点(2008年1月28日)の会社予想は、1011億円とされていました。
HOYA<7741.t>、08年3月期営業利益は1011億円を予想=市場予測は1105億円http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK007818620080128

事態を改善するため、機関投資家のみならず、個人投資家の皆さんも、マスコミ等の不勉強な記者によるスポンサー提灯報道等に惑わされずに、真実を正しく認識して、見つめていただきたいと考えています。2008年年初の株価の暴落を経て、ここ2年で株価が半分近くになったことに関しては、新たな成長戦略を描くには、現状の認識が第一になるはずです。

なお、私がこのようなコメントをするのは、株価が下落していることだけでなく、怒るというよりも悲しくなってしまう現状を鑑み、私の悲しみを、個人株主様も含む一人でも多くの方に共有していただきたいと考えるからです。ちなみに、2008年3月31日のHOYAの株価の終値は、2,340円でした。鈴木洋氏らが経営陣に就任内定した5月末の株価が9990円(4分割修正後の値で2497円)、2000年6月末(30日)の株価は9500円(4分割修正後の値で2375円)ですので、株価は実際には8年間で下がっていますので、結局のところ、8年間でまったく企業価値を増やすことができなかったということです。鈴木洋氏ら経営陣は、本当ならば早急に辞表を提出し、8年間分の全役員報酬を株主に返却すべきですが、そうしないのならば、少なくとも、どうやってこれから5年から7年先のHOYA株式会社の株主価値を増加させていくつもりなのか、はっきり個人株主を含む株主に対して説明するべきです。

現に直近の第四四半期で、ペンタックス部門の赤字転落が、発表されています。 このことは、私が従来懸念していたように、ペンタックス社の買収が、ヒット商品の短期的な成功に上ブレした決算内容を基にした買収価格の設定により、HOYA株主側から見て高値掴みであったということを、いわば裏付けた内容です。すでに私のところには、旧モデルのカメラをアメリカの大手小売店に投げ売りして小売店の顰蹙を買っているなどという情報も入ってきています。

まず議論の出発点として、鈴木哲夫氏(HOYA名誉会長)のコメントを取り上げます。 鈴木哲夫氏は、以下のように述べています。
http://hrm.jmam.co.jp/column/sougyousya/s11_2.html

「経営とは本来、企業価値を生み出していくものであるという考え方が欧米の企業では明確になっている。“企業は株主のもの”であり、経営者は株主から委託を受けて事業を展開しているわけであるから、企業価値を高めて株主に利益を還元していくのが当然」というわけだ。 「企業価値を高めるには日本の企業も自社の強味を生かす中核事業やコア・コンピタンスに集中し、あまり将来性がない事業、収益性が低い事業は整理していく戦略が必要になってくる。つまり『選択と集中の経営』に真正面から取り組み、自社の事業構造を再構築することである」

以上の見解をまず正論として受け入れ、それに照らし合わせて、直近の経営政策を検討してみましょう。

HOYAの中核事業は、①ガラス研磨技術と、②眼科領域であり、コア・コンピタンスでもあります。客観的に言って、この2分野以外の事業で成功したためしがありません。そんなHOYAにとって、あまり将来性のないと思われるデジタル・カメラ事業を買収して経営を行うことに、何か少しでも合理性があるのでしょうか。ペンタックスの内視鏡事業も、北米での市場シェアは数パーセントに過ぎませんし、何か優位性のある技術を持っているわけでもありません。そんなコアから外れた事業のために、1500億円(買収金額の1050億円にペンタックスの抱えていた負債総額を足した大まかな数字)も費やすことがHOYA株主の利益に果たしてなるのでしょうか。

眼科領域は、有望な分野だとみられています。なぜ自分が得意な分野に投資を行わないのでしょうか。経営陣と取締役会は、次の株主総会で以上の点を、時間をかけて誠実に説明していただけないでしょうか。

以前より私が述べているように、HOYAの利益金額はおおよそ1000億円ですので、この会社の成長率を高めて、最終的な株価を高めるには、数百億円の利益を生む事業投資を行う必要があり、分母が1000億円で分子が数十億円では、株価にほとんどインパクトがない。このことは、日経ビジネス記者の安部俊廣氏も良くわかっていなかったようだが、私はすでに疑問を呈しています。 なおこのような程度のことは、欧米トップ15のビジネススクールをでたMBA新卒でも、それら学校のトップ50%ならば誰でも普通に指摘できる内容のはずで、経営陣がそれらを良く分かっていないのならば、HOYA経営陣は、欧米トップ15のMBA取得者のレベルに達していないことを意味しています。ならば、今のまま経営を続けるのではなく、欧米トップ15くらいのビジネススクールで再訓練を受けてきてほしいのです。

日経ビジネス記事(2007年5月28日):HOYA、TOB合意後の「試練」http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070524/125459/

以下が、私がそもそもの疑問を呈した文章。
HOYAの経営に関する私の文章(2008年1月3日)
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoya_08.html

「HOYAの企業戦略上、ペンタックス社の買収によって、2015年までに数百億円の利益を出す事業を創出しなければいけないという点です。現在のHOYAは、経常利益で1000億円強であり、ガラス磁気ディスク基盤事業等のダウンサイドを補い、かつ成長率を底上げする(言い換えると1990年から2005年までの年間15%成長、あるいは少なくとも年10%成長を実現する)には、大体2015年までに数百億円、たとえば500億円以上の利益を出すような事業を作り上げる必要があります。15%成長を維持するには、2015年に2000億円の経常利益を出していなければいけません。言い換えると、数十億円の利益では、HOYAの株価に与えるインパクトはほとんど無視されてしまいます。買収が成功と言えるためには、数百億円の利益を出す事業を10年後に作れたかどうか、その見通しを3、4年以内に株主に示すことが必要です。このような思考方法を、北米の株主資本主義の洗礼を受けた経営者は行います。 

従って、2007年5月28日の日経ビジネスの記事「HOYA、TOB後の『試練』」という記事の末尾部分に、私は疑問を持ちます。鈴木洋氏は2007年5月末での記者会見で、「カメラ事業は存続する。ただ、量を追っても将来性はない。ニコンやキャノンを追うことは考えていない。小さいながら輝くカメラメーカーになる必要がある」と述べています。これはHOYAのカメラ事業は、K10DやK100Dの動向如何(かりにペンタックス統合後に非常にうまく経営ができたとしても)に関わらず、数百億円の利益を創出する事業領域としては、対象外であることを意味しています。同様に、同記事末尾にあるような内視鏡事業の展開の可能性でも、数百億円の事業を創出する事業分野にはなりにくいと思います。まとめると、「数百億円の利益を出す事業を10年後に作れたかどうか、その見通しを(少なくとも)3、4年以内に株主に示すこと」がポイントなのです。詳細はここでは割愛しますが、その他の方法をもってしても、内視鏡分野でHOYAが数百億円の利益を創出する事業を創出できる可能性は、現状ではゼロに近いと考えられます。」

鈴木洋氏は、以上の疑問に答えたことが、以下を参考にしても、一度もないといえます。仮に「戦略的に手を打って行くのはこれからという所にやっと来ました。試運転が終わって、これから本腰入れてやらないといけないと思っています」といっても、それがそもそも数百億の利益を生めるのかという問題。ここまでくると、分母が1000億円であることを忘れているのか、四則演算ができないのか、もしかして本当に後者なのかと疑いを持ちたくなってきます。そもそも昨年の一連の騒動で、ペンタックス創業家や金融庁に根回しすらできないことをさらけ出したわけですから、社内外へのコミュニケーション能力が欠如しているわけですから、東大駒場キャンパスの文科系1年生向けの発表と議論の仕方の訓練の場である基礎演習を、まず聴講してくるべきなのかもしれません。

http://www.hoya.co.jp/data/current/briefingsubobj-272-pdffile.pdf

「<ペンタックス:カメラ・内視鏡>・ 一眼レフカメラでは、交換レンズが大幅に伸びて、カメラ本体も上手く行っていますが、コンパクトカメラは数量は前年並みで、単価は6 割程度(40~50%価格下落)で、原価割れで処分しないといけない状況もあり、昨年モデルの在庫を処理したりしました。・ コンパクトをやめるわけにはいきませんが、リソースを一眼レフに一生懸命シフトしています。一眼レフの方に軸足を動かしつつあるのですが、残った方の足をすくわれた感じでした。もう少し早く対応していればよかったという悔いも残るところです。・ 一眼レフ交換レンズや内視鏡など、部分的にはいい収益を出しているものもありますが、4Q はコンパクトカメラのところでやられてしまい、赤字になってしまいました。このような間違いを繰り返さないためにも、コンパクトカメラは自社生産はやめて、ODM にして、しかも無理して台数を売らない、規模を追わない、その分リソースを一眼レフや交換レンズに振り向けていくようにしたいと思います。

Q:今年度、各事業はどのようになっていくのでしょうか?売上の伸びの見込みイメージは?

A:(鈴木CEO)ペンタックスは、内視鏡は今のところ順調ですし、少なくとも今後2~3 四半期は今のように売上を伸ばしながら、収益率を上げていくという構造は変わらないでしょう。問題はカメラです。コンパクトカメラのモデル数を減らしていくのはいいが、それではトップラインが縮んでいくだけですので、トップラインを如何に一眼レフで埋めて行くかということが一番チャレンジングでしょう。プラス・マイナスゼロになる危険もありますが、プラスにしていくのが努力のしがいがあるところでしょうか。

Q:昨年ペンタックスの買収を発表してから、それにあわせて業績もあまり良くなく、全体的に会社の勢いが減衰した感じがしますが、このような状況において、会社として通期の見込みを出さないことが、さらに不透明感を増しているように思いますが、社長として、会社の勢いが増したり、増益が見えてくる時期はいつ頃だと思っていますか?買収案件でペンディングになっているものや、ペンタックスのリストラなども含めて、そういう時期はいつ頃と考えているのでしょうか?

A: (鈴木CEO)ペンタックスはまだまだこれからですが、連結して半年経って、良いところも悪いところも見えてきて、戦略的に手を打って行くのはこれからという所にやっと来ました。試運転が終わって、これから本腰入れてやらないといけないと思っていますので、浜田執行役にも頑張っていただこうと思っています。」

そもそも戦略のない買収は、失敗に終わります。ジャック・ウェルチ率いるGEが、買収対象とするのは、市場シェア1位か2位の事業。ペンタックス社の内視鏡部門は、2位に大きく引き離された業界3位であり、優位性のある技術を保有しているわけでもない。業界3位以下の会社を買収していいのは、その会社の独自技術が破壊的であり、近年中に既存の競合関係を破壊できる場合のみ。

財務担当者の江間氏は、そもそもペンタックス買収に反対だったとされるが、それは標準的かつ常識的判断。ならばなぜ取締役会で徹底的に反対しなかったのか。取締役はCEOの部下ではなく、株主に責任を負う存在。取締役会が株主利益のためにきちんと機能していなかったことを如実にしめしていたわけで、善管注意義務もはなはだしい。年長の社内役員として、きちんと責任とけじめをとってほしい。私は2007年5月に、ペンタックス買収に反対する手紙を、社外役員に送っていた。そこでは株主利益の最大化を真剣に考える事業会社の経営陣に、投資銀行がアドバイスをするように、論理的に説明をしていたはずだが、6月に直接面会したある役員の方は、「ペンタックスの従業員の過半数がHOYAとの合併に賛成」などということを、合併賛成の根拠にあげていた。株主の代理人としての取締役の役割は、それぞれの経営判断を株主利益の観点から冷静に判断して、賛否を決めることであるはずで、この役員の方は、グローバルな金融市場でのあるべき立ち振る舞いをよく理解できていないわけで、資本市場の要求を理解し、時代の流れにそった人物を、取締役にしなくてはいけないのではないか、そう考えるわけです。

HOYA株式会社のホームページ
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ペンタックスのページ
http://www.pentax.jp/japan/index.php

HOYAの経営に関する私の文章(2008年1月3日)
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoya_08.html

HOYAのCOOに浜田宏氏就任
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoyacoo.html

HOYA株式会社最高執行役に浜田宏氏就任のニュースリリース
http://www.hoya.co.jp/data/current/newsobj-578-pdf.pdf

HOYA株式会社R&Dのページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_06.cfm

HOYA株式会社の経営理念のページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_03.cfm

2008年5月18日日曜日

飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長)がビデオニュースに登場

代替エネルギー等に関するエネルギー政策の第一人者の飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長)が、2008年5月7日のビデオニュース・ドットコムに出演しています。4年ほど前に同じ番組に出演したときから、私はやはり注目していたのです。

http://www.videonews.com/on-demand/371380/001310.php

以下が飯田氏の経歴ですが、『北欧のエネルギーデモクラシー』は、やや古いもののお勧めの文献です。

飯田 哲也:いいだてつなり(環境エネルギー政策研究所所長)

1959年山口県生まれ。83年京都大学工学部原子核工学科卒業。同年神戸製鋼入社。電力中央研究所勤務を経て96年東京大学大学院先端科学技術センター博士課程単位取得満期退学。00年NPO法人環境エネルギー政策研究所を設立し、所長に就任。92~06年日本総合研究所主任研究員を兼務。90~92年スウェーデンルンド大学環境エネルギーシステム研究所客員研究員。著書に「北欧のエネルギーデモクラシー」、編著「自然エネルギー市場 新しいエネルギー社会のすがた」など。

環境エネルギー政策研究所のページ
http://www.isep.or.jp/

『北欧のエネルギーデモクラシー』 飯田 哲也 (著) (2000年出版)
http://www.amazon.co.jp/北欧のエネルギーデモクラシー-飯田-哲也/dp/4794804776

21世紀において、エネルギー政策は、国際関係においてですら、極めて重要な役割を果たすことが確実です。 風力においてもバイオマス等についても、日本はそれなりの技術的な資源を持っています。しかも、脱化石燃料の経済基盤を持つことは、日本という社会のソフトパワーを高めることにもなるはずなのですが、市民の側の認識がいまひとつなのかもしれません。

もし日本で政権交代を争う選挙があれば、野党の側は、本当はこういった話題を争点にすべきなのかもしれません。科学技術政策とも、大いに関係する問題なのです。例えば、同じ公共事業を行うにも、道路を掘りかえしたを繰り返すのではなく、次世代脱化石燃料の研究基盤を整える研究に関する時限付き研究費をつけるとか、いろいろ方法はあるはずです。

番組のウェブサイトによれば、「中でもドイツの伸びが突出しており、2030年までにエネルギーの45%を再生可能エネルギーで賄う目標をたてている」としています。

2008年5月6日火曜日

日本のサイエンスがアメリカに勝てない理由

以下の文章は未完成ですが、議論をするために、不完全な原稿を公開していきます。

件名の問題については、まず日本において、ノーベル賞を受賞するような研究者の数が少ないこと、技術系のベンチャー企業で大きく成功した会社がほとんどないことなどについて、本質的な問題に関しての理解をしなければ、解決策となる政策を立案することはできません。

私の提案は、

①ライフサイエンス分野における日本型NIH(National Institute of Health)の創設
②複線型教育システムの創設
③グラントシステムのアメリカ化

などを念頭にしています。

これら問題は、今後の日本社会のありかたという意味で極めて重要だと思いますので、近いうちに、このブログ上で説明したいと考えています

例えば、NIHについては、私が調べた範囲で、以下の文献くらいしか参考文献がありません。
『アメリカNIHの生命科学戦略 全世界の研究の方向を左右する頭脳集団の素顔』
掛札堅著(講談社)
http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2574411
アメリカのライフサイエンスが、基礎研究においても応用研究や産業化においても圧倒的に優れているのに、ほとんど啓蒙書的な文献がないのは、関心が今のところあまりもたれていないことと関係しているように思えます。

なお、ヴァネヴァー・ブッシュという科学者(元MIT工学部長)が、戦時中の大学と軍の科学の関係の構築に、重要な貢献をしています。 軍産複合体といわれる関係や、軍による科学技術の資金援助について、大きな役割を果たした人物です。 戦後は、NSF(National Science Foundation)の創設にも、大きな役割を果たしています。

ヴァネヴァー・ブッシュについて(日本語版ウィキペディア記事)
http://ja.wikipedia.org/wiki/ヴァネヴァー・ブッシュ

(英語版ウィキペディア記事)
http://en.wikipedia.org/wiki/Vannevar_Bush

日本人が遺伝的にサイエンスに劣っているわけではありません。いくつかの例を挙げると、生物学では利根川進(MIT教授)、増井禎夫(トロント大学名誉教授)、柳沢正史(テキサス大学)、西塚泰美(元神戸大学学長)、岸本忠三(元大阪大学学長)、物理学では中村修二(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)、飯島澄男(NEC特別主席研究員)、外村 彰(日立製作所フェロー)、十倉好紀(東京大学教授)、化学では野依良治(名古屋大学教授)、新海征治(九州大学工学部教授)、数学では広中平祐(元ハーバード大学教授)、伊藤清(京都大学名誉教授)、経済学でも雨宮健(スタンフォード大学)、宇沢弘文(元シカゴ大学・東京大学教授)など、国際的に高い評価を得た研究者は日本人でもいるわけです。

ただ北米と比べて量が少ないし、応用研究を産業化する仕組みについても、問題が多いのですが、政策担当者で正しい概観図的な理解をしている人材は、残念ながらほとんどいないのです。

またバイ・ドール法(Bayh-Dole Act、正式名称はUniversity and Small Business Patent Procedures Act )についても、誤解があります。ちなみに、法律のなかにあるドールというのは、クリントンに1996年に大統領選挙で敗れたドール上院院内総務のことです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Bayh-Dole_Act

まずなぜ、北米では優れたサイエンティストが数多く誕生するのかということです。一つにはそもそもサイエンティストの絶対数が多いということがありますが、日本では教育システムに問題があります。客観的に言って、アメリカの初等中等教育のレベルは先進国で最低と言われていますし、特に数学の教育水準が低いと言えます。アメリカの一般的な大学1年生の数学の水準は、控えめに言って日本の中学2年生くらいです。しかしながら、大学院教育は世界で一番優れていることは、これも控えめに言っても、明らかです。

まず大学院博士課程(注:日本と異なり、博士課程の入学に修士号を保持している必要なし)の1年目では、どの分野でも、専門科目について徹底的に叩き込まれます。そして1年目の終わりから2年目にかけて、それら専門科目の試験があり、ある程度の点数を取らなければ、博士課程から追い出されます。これを強いインセンティブとして、学生は怠けることができなくないシステムになっています。

また博士号を取得後、分野によってはポスドクという就業期間を経ると、助教授として大学等で採用されますが、助教授は任期制(たとえば7年)であり、その間に優れた業績を上げて認められなければ、準教授や教授が所有する、ティニュア(Tenure)といわれる終身教授権を得ることはできません。だから若いときは必死になって働かざるを得ないので、優れた業績を上げるサイエンティストが出やすいわけです。

さらに留意点としては、科学技術の優位と軍事的な優位性は表裏一体の関係にあるということも、ひとつの事実として認識することが肝心です。生命科学や材料科学の基礎研究にしても、生物兵器やステルスに関係する電波吸収材料と関係があったりするわけで、軍事優位を維持することはアメリカの派遣戦略上重要な要素ですあり、だからこそアメリカ連邦政府は基礎研究に力を入れる必要があるわけです。 また日本の科学技術や関連する製造技術も決して捨てたものではないので、かつて石原慎太郎氏が『Noと言える日本』で主張していたように、日本企業なしでは、アメリカも武器調達業績上、一定の制限が発生するのは一面の事実かと思えます(もちろん、このことは、日本だけでなく、ドイツやフランス等の国や企業でも同じことです)。

現在のようなシステムが、アメリカでいつ形成されたかということについては、いくつかの議論があり、定かにわかっているわけではありませんが、第二次世界大戦後に重要な転機があったように思えます。

なお軍事技術と産業用の技術に関する点として、例えば近年は、上場企業で行われる研究は、株主の利益要求に押されるため、アメリカの軍事関連の基礎技術に関する研究母体として好ましくないのではないかという議論が出始めています。

2008年5月2日金曜日

ロックフェラー家がエクソン経営陣に物申す

ロックフェラー家(Rockefeller family)が、エクソン(ExxonMobil)の経営に意義を申すという記事が、先日のフィナンシャル・タイムズ(Financial Times)の一面に出ています。

Rockefeller family to push for shake-up at Exxon
By Sheila McNulty in Houston
Published: April 29 2008 03:00 Last updated: April 29 2008 03:00

The Rockefeller family, the longest continuous shareholder in ExxonMobil, is abandoning its behind-the-scenes role at the company to press for corporate governance reforms including an independent chairman and a stronger board.
http://www.ft.com/cms/s/0/d7ee6fb0-1584-11dd-996c-0000779fd2ac.html?nclick_check=1

これは面白い現象でして、後日、加筆してコメントとします。

2008年4月29日火曜日

HOYAの2007年度営業利益が前年度比11.3%減の発表について

以下のニュースについて、私からもコメントしたいと考えています。今週中にこのページを更新したいと考えていますので、宜しくお願いします。

「HOYAが反落、前期連結営業利益は11.3%減」の記事
http://www.excite.co.jp/News/economy/20080428163900/kabu_20080428100597.html
http://money.jp.msn.com/investor/stock/news/newsarticle.aspx?ac=K20080428031&cc=12&nt=01

HOYA<7741.t>が反落。午後1時に発表した前08年3月期連結決算を受け、株価は一時220円安の2725円まで売られた。 前期決算は営業利益で前々期比11.3%減の950億4600万円と2ケタ減益を計上した。四半期ベースで見た営業利益率は第2四半期(07年7~9月)の26.6%から第4四半期(08年1~3月)には13.3%へと急低下(前期通年では19.7%)しており、嫌気されている。要因は半導体用フォトマスクやHDD用ガラスディスク、光学レンズなどを手掛けるエレクトロオプティクス部門の低迷。一部の主要製品の価格低下や新製品への対応の遅れなどが影響したという。

なお3ヶ月前時点(2008年1月28日)の会社予想は、1011億円とされていました。
HOYA<7741.t>、08年3月期営業利益は1011億円を予想=市場予測は1105億円
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK007818620080128

HOYA株式会社のホームページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/index.cfm

HOYAの経営に関する私の文章(2008年1月3日)
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoya_08.html

HOYAのCOOに浜田宏氏就任
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoyacoo.html

HOYA株式会社最高執行役に浜田宏氏就任のニュースリリース
http://www.hoya.co.jp/data/current/newsobj-578-pdf.pdf

HOYA株式会社R&Dのページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_06.cfm

HOYA株式会社の経営理念のページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_03.cfm

2008年4月28日月曜日

牧野洋氏(経済ジャーナリスト)がビデオニュースに登場

もともと私が注目していた経済ジャーナリストである、牧野洋氏が、神保哲夫・宮台真司のビデオニュース・ドットコムに出演しています。
http://www.videonews.com/on-demand/361370/001297.php

「不思議の国のM&A―世界の常識日本の非常識」(牧野洋氏)という著書も出していて、実は結構お勧めだったりします。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532352738/videonewscom-22
「「値段がないまま企業を買う」「わざと損をして持ち株を売る」。そんな摩訶不思議がまかり通る日本のM&A」(上リンクに引用されている、内容(「MARC」データベース)より)について、私もかねてより違和感を持っています。HOYAとペンタックスの買収も、「価格を議論せずに抽象論だけでM&Aを合意するケース」として、槍玉に挙げられています。

しかしながら、なぜこのようなまっとう内容が、日経新聞にのることがなかなかないのでしょうか。

社会学者:宮台真司氏(首都大学東京)のホームページ
http://www.miyadai.com/

宮台真司氏の記事(ウィキペディア)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%AE%E5%8F%B0%E7%9C%9F%E5%8F%B8

ビデオジャーナリスト神保哲夫氏のブログ
http://www.jimbo.tv/

神保哲夫氏の記事(ウィキペディア)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E4%BF%9D%E5%93%B2%E7%94%9F

牧野洋氏と神保哲夫氏の出身校:コロンビア大学のホームページ
http://www.columbia.edu/

牧野洋氏と神保哲夫氏の出身学部:ジャーナリズム大学院のホームページ
http://www.journalism.columbia.edu

2008年4月27日日曜日

鈴木洋氏(HOYA代表執行役最高経営責任者CEO)は、株主総会で株主の質問に時間制限無しで答えよ

私は何も鈴木洋氏が、「箔付けのために行った留学先の大学を、成績不良で中退したから、即経営者失格だ」とか、「シリコンバレーでの投資活動で多額の損害を会社に与えたから、経営者として不適格だ」とか、「日本の同じ規模の会社の世襲で経営者になっている人(例えばエーザイ内藤晴夫社長イオンの岡田元也社長トヨタ自動車豊田章男副社長)と比べても、平均的な学力水準を持ち合わせていない」、などということを、ここであえて、問題にしようとは思いません。またもちろん丹治宏彰氏は、技術担当者として不適格だと思いますが、それは別項で記述します。ただし、私は確信を持って言えますが、このような経営が続くと、株主に多大な損害が与えられ続けることは確実だと思われます。現にペンタックスも、既に散々な結果になっています。私の2008年1月3日時点での見解については、まず以下のページをご参考にしてください。

HOYAの経営に関する私の文章(2008年1月3日)
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoya_08.html

以下の文章も、ご参考にしてください。

HOYAのCOOに浜田宏氏就任についての私の文章(2008年4月12日)
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoyacoo.html

2005年秋の株主分割4分割を経て、多くの方がHOYA株式会社の個人株主になられたと思います。去年(2007年)の6月19日の株主総会に参加された多くの方は、株主総会の議事進行、鈴木洋氏(HOYA代表執行役最高経営者CEO)の対応に、失望されたのではないでしょうか。

比較して、年間1回だけ行われる、Berkshire Hathawayの株主総会では、CEOであるWarren E. Baffet氏が、時間制限無しで、個人株主を含む多くの株主の質問に答えます。経営陣は株主から経営を委託された存在ですから、それは当たり前のことと受け取られているのです。

Berkshire Hathaway社のホームページ
http://www.berkshirehathaway.com/

Warren E. Buffet氏のメッセージ
http://www.berkshirehathaway.com/message.html

別に株主総会で個人株主の質問に時間をかけ、誠実に答えるのは、Berkshire Hathaway社だけではなく、北米の株式公開企業においては、どこの会社でも基本的には同じことです。

「ヤフー、年次株主総会を開催--業績低迷で株主から非難」の記事
http://japan.cnet.com/marketing/story/0,3800080523,20350723,00.htm

ヤフー社ホームページ
http://www.yahoo.com/

はたしてこの会社(HOYA株式会社)の取締役会では、株主価値の増加に関して、まともな議論がおこなわれているのか、多くの個人株主の方が疑問を持ったのではないでしょうか。個人株主が質問をしようと手を上げているのに、3人程度の質問に短く答えるのみで、一方的に打ち切って1時間少しで株主総会を打ち切ろうとする態度には、株主利益最優先を掲げている企業として、多くの方が疑問に思ったに違いありません。

なぜ個人株主の質問に、時間をかけて、もっと真摯に答えていかないのでしょうか。勤務先を休んで参加しているサラリーマンや、財産の無視できない比重の株式運用先として選んでいる主婦や、老後としてリタイアされた方から、貴重なお金を預かっているという認識と責任感が、足りないのではないでしょうか。 個人投資家の質問に答えることだって、そのやり取りから学べることはあるだろうし、コミュニケーションとは元来そういうものなのではないでしょうか。

(そもそも戦略というものがないのかもしれませんが、)自分の経営戦略の論理的欠陥が、議論から分かるかもしれないではないですか。 キャピタル・リサーチ(Capital Research)やフィデリティ(Fidelity)といった大口の機関投資家にも、一方的に質問を打ち切るような、個人投資家に対してと同じような対応をとっているのでしょうか。そうでなければ、個人株主軽視といわざるを得ませんし、個人株主向けのIR戦略としても、宜しくないでしょう。

私が知る限り、HOYAの役員会でも、株主総会同様の表面的なやり取りで終始し、株主価値にとって本当に本質的であるはずの経営戦略に関する議論は行われないまま、新規事業のあり方など私が提起していたことを含む、重要な問題は放置され続けています。その結果として、2年間で40%の株価下落という結果を招いた経営陣は、何らかの責任を感じなければいけないでしょう。

すでに述べたように、ペンタックス合併以前の問題に、HOYAの現経営陣は、株主価値を効果的に増やすための投資銀行の使い方がわかっていない、きちんとしたディシプリンなしに、アメリカのスタート・アップ企業に投資をしては、破産させているなど、経営能力に疑問を抱かざるを得ない状況が放置されています。これは放置していること自体が、全取締役の責任でもあります。

もし、今年も去年同様の株主総会の議事進行でお茶を濁す気なのならば、新事業が必要なHOYAの経営者として失格だとといわざるを得ません。

HOYA株式会社のホームページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/index.cfm

HOYA株式会社(ウィキペディア記事)
http://ja.wikipedia.org/wiki/HOYA

日経ビジネス記事(2007年5月28日):HOYA、TOB合意後の「試練」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070524/125459/

Nikkei BP Net 記事(2007年8月8日):HOYA、TOB成立は単なる一里塚
http://www.nikkeibp.co.jp/news/biz07q3/541954/

HOYA株式会社の会社概要のページ
http://www.hoya.co.jp/HOYA_DYNAMIC/index.cfm?fuseaction=company.about

ペンタックスのページ
http://www.pentax.jp/japan/index.php

HOYAの経営に関する私の文章(2008年1月3日)
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoya_08.html

HOYAのCOOに浜田宏氏就任
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoyacoo.html

HOYA株式会社最高執行役に浜田宏氏就任のニュースリリース
http://www.hoya.co.jp/data/current/newsobj-578-pdf.pdf

HOYA株式会社R&Dのページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_06.cfm

HOYA株式会社の経営理念のページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_03.cfm

キャピタル・グループのホームページ
http://www.capgroup.com/

フィデリティのホームページ
https://www.fidelity.com/

2008年4月26日土曜日

活躍するインド系アメリカ人(2)

若くして成功した投資家という一例では、ディナカール・シン(Dinakar Singh)氏が有名です。

1990年に名門エール大学(コネチカット州ニューヘブン市にあるブッシュ大統領の出身校)で電子工学を専攻して卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社し、プロップ・デスク(会社の自己勘定でトレーディングを行う部署)で大活躍し、20代後半の若さで、同社歴史史上の最年少で同社のマネージング・ダイレクターになる。現在は、テキサス・パシフィック・グループ(TPG)と共同で設立した投資会社の責任者を務めているとのことですが、別の意味で一定の知名度があるのが、脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)に罹ってしまった娘さんのためにも、同じく金融界で活躍していた奥さんともども、この病気の治療法を研究するための慈善活動に熱心だということ。 

例えば、コロンビア大学の医学部のサイトを検索していると、シン氏の以下のような情報もでてきます。
http://ps.cpmc.columbia.edu/annual/report06/development.html

エール大学のサイト
http://www.yale.edu/

ゴールドマン・サックス証券のサイト
http://www2.goldmansachs.com/

医学研究に個人資産を寄付するというのは、北米では良くあることですし、実にロックフェラーからの伝統ともいえますが、その一翼をアジア系のアメリカ人が担っているわけです。

2008年4月24日木曜日

ビデオニュース・ドットコム インターネット放送局

私が毎週視聴しているインターネット番組のページ。海外で日本のニュースの核心を知るには、非常にお勧めです。1ヶ月525円程度で、これだけ解説を得られるのは大変ありがたいと思っています。

http://www.videonews.com/

以下のように、うたわれています。
http://www.videonews.com/explanation.php
「報道本来の役割を全うするためには、広告に依存しない収益構造が必要となるが、そのためには、多くの視聴者の方々に浅く広くサポートしていただくシステムを作る必要がある」との認識に基づき、ビデオニュース・ドットコムは2001年より有料会員制を採用。一部のプレミアムコンテンツをご視聴いただくためには、1ヶ月525円(税込み)の会員登録が必要となります。視聴者の方々に毎月の会費をご負担いただくことで、スポンサー圧力を受けない良質な報道を目指します。

私が10年以上も前に、大学で宮台真司氏の授業を受けていた頃には、彼はまだ現在のように社会活動を広範には行っていませんでした。これからも、がんばってもらいたいと思います。

社会学者:宮台真司氏(首都大学東京)のホームページ
http://www.miyadai.com/

宮台真司氏の記事(ウィキペディア)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%AE%E5%8F%B0%E7%9C%9F%E5%8F%B8

ビデオジャーナリスト神保哲夫氏のブログ
http://www.jimbo.tv/

神保哲夫氏の記事(ウィキペディア)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E4%BF%9D%E5%93%B2%E7%94%9F

2008年4月14日月曜日

HOYA株主の失われた8年

2000年6月に私の従兄弟でもある、鈴木洋氏が最高経営者(CEO)になったときの株価が2375円。そして今現在で、2008年4月の株価は、高値2815円から安値2400円の間で取引されています。つまるところ、長期保有をする投資家に対して、8年間の間に、鈴木氏はほとんど企業価値を増やせなかったわけです。本当に残念なことですが、事実は事実として受け入れるべきでしょう。決して、変な言い訳をしないように。

ペンタックス買収がHOYAの成長戦略として、すべてにおいて疑問であることもあるが、結局のところ、特に2000年以降の間に、企業の価値を真の意味で上げるR&Dや設備投資を行ってこなかったことが、その原因に尽きます。

日経新聞が何を血迷ったか、「成長企業の軌跡(2)HOYA(株価上昇率8位)(ブラックマンデー20年) 」などという記事を去年の10月ころに書いていましたが、ここ2年間の間で株価がほぼ半分になってしまったことで、2000年以降の株価の上昇率は、日本企業の月並みなものになってしまいました。もう一度言っておきますが、HOYAが90年代に優良企業になれたのは、70年代から80年代に、ガラス研磨技術をプラットフォームにした事業開発を行って、差別性のある製品を世に出し、そこに重点投資をしたからです。鈴木洋氏は本社の経営者になった2000年以降、まったく新規事業の開発を誠実に行いませんでした。

2000年以降も、途中までは経常利益は伸びていましたが、そのこと自体は2000年以前の経営判断の結果で、2000年6月の時点で株価に予想され、すでに反映されているものだったことも、ここで確認しておく必要があります。鈴木氏は記事上で、以下のようにコメントしています。「バブル崩壊時の経営陣が、そこから始まる長期の経済低迷、いわば“失われた十年”を予見していた」。自分の責任である「HOYA株主にとっての失われた8年」を、次期株主総会できちんと誠実に総括し、株主の質問に長時間をかけてでも、誠実に答えてほしいと思います。

2008年4月12日土曜日

私が問題にしている記事

以下について、鈴木氏が90年代後半に主導した投資活動は、すべて破産に終わって、株主価値に損害を与えた。2000年代に入っても、前述のExponent Photonics社や、Radiant Images社の投資など、全く成果を挙げていない。それにも関わらず、このような記述を世間に垂れ流している事自体が、株主に対する背信ではないか。

すでに別のところで詳しく述べたように、HOYAが高収益企業になったのは、フォトマスクしかり、マスクブランクしかり、ガラス磁気ディスク基盤事業しかりで、80年代までの技術開発の成功に負っているからであって、ベンチャー投資や社外取締役制度は、そのこととはまったく関係ない。

編集長インタビュー  HOYA社長●鈴木 洋( 2003/10/18 ) 
interviewer●辻広雅文(本誌編集長) 
http://www.arukikata.ne.jp/daigaku-net/news_152.html

――米国の社長時代、ベンチャーへ積極投資しましたね。
鈴木 ためになったのは、ベンチャーキャピタルやコンサルタントと一緒に取締役としてベンチャー経営にかかわったことです。それまでの仕事は、HOYAという枠組みの一部にすぎなかった。しかし、ベンチャーは野原にポツンといるのに似て、どこへでも動ける。選択の幅がすごくある。業態転換、撤退、大リストラ、合併、なんでもあり。でありながら、5年先のビジョンはある。非常に異質なおもしろい経験でした。

HOYAのCOOに浜田宏氏就任

表題の件については、すでにいくつかのメディアで報道されています(例えば以下のリンク)が、私からもコメントしたいと思います。

HOYA:COOにリヴァンプの浜田宏氏
http://mainichi.jp/select/biz/news/20080404k0000m020038000c.html

すでに別のところで述べているように、私はHOYAの最高経営者としては、実績ある専門経営者を雇うべきだと考えていたので、浜田氏が最高執行責任者に就任することは、ほとんど私の理想に近い人事。なお私は従来より、樋口泰行氏(前ダイエー代表取締役、現マイクロソフト日本法人代表執行役最高執行責任者)や、藤森義明氏(GE本社上席副社長)などの名前を具体的にあげて、専門経営者の採用を主張してきた。ただし、HOYAの株主価値が8年間の間に、一向に上昇しない理由は、新規事業への正しい投資がここ8年間にわたって、まったく行われていないことに集約されるため、仮に浜田氏が有能な実務家だったとしても、この点が改善されなければ、本質的な問題の解決にはならないことを、株主は理解しておく必要がある。また浜田氏自身がおそらく認識しているように、本人はもともと理系のバックグラウンドを持った経営者ではないので、それを補完する人材が必要。

数年前の株主向け資料に、ベンチャー投資と社内の技術開発を「両輪」として、新規事業の創出に取りくむ旨が、鈴木氏の署名入りで、記述されている。ならば、90年代終わりころからのベンチャー投資がすべて破産に終わっていることの現状と、抜本的な解決案を、鈴木洋氏はきちんと誠実に、株主に説明してほしい。失敗することが悪いのではなく、失敗するようなアプローチを、反省もなく放置していることと、まったくうまくいっていない投資をあたかも先端的なことをやっているように、週刊誌の対談でしゃべっていることは、株主に対する背信行為。 この時期から、新規事業の創出に成功していないから、HOYAの株価は2年で半分になってしまった。
http://www.arukikata.ne.jp/daigaku-net/news_152.html

また技術担当者の丹治宏彰氏は、ここ8年にわたってなんら新規事業の創出における実績を示せなかったし、投資案件もすべて失敗に終わっているので、本人のためにも、なるべく早く交代させるべき。2006年1月13日に発表している出資先であるエクスポーントフォトニクス社(Xponent Photonics)は破産した上で、HOYAが二束三文の知的所有権を買い取った結果に終わった模様(以下のリンクを参考)だし、2004年に買収したRadiant Images社も、日本の同業の会社に特許等の権利を安値で売却して終わりにした。新規事業や投資のセンスがない人が、その担当についているのは、すでにいままでの8年間で明らかなように、株主にとっては不幸なことです。

Xponent社のサイト
http://www.xponentinc.com/index.htm

Radiant Images社創業者のCardinal Warde教授の情報(文中に、“It's no wonder his company, Radiant Images, responsible for the management of the liquid crystal display (LCD) in micro displays that made the 3D images possible, was bought by a Japanese company, Hoya Corporation.”とあります。)
http://www.nationnews.com/story/291203758602647.php

下のリンクを参照。「「GE-PON」用光トランシーバの初年度の売上を6億円と見込んでおります」と書いていますが、2007年までにいくら売り上げがあったか、株主に説明してほしい。Radiant Images社の件も同様。鈴木氏は口先ではなく、本当に反省することから始めなくてはならない。
http://www.hoya.co.jp/CACHE/japanese/news_content_newsobj297.cfm

他にも、例えば以下のニュース(2002年5月発表の、HOYA、SiC其板の開発、製造子会社を設立について)でも、2002年における「半導体素子材料であるSiC基板の開発・製造・販売を行う子会社『HOYA アドバンスト セミコンダクタ テクノロジーズ』」の設立について、「設備投資金額は2004年度までに合計で26億円。設備投資の内訳は以下の通り。2002年度が工場の基礎工事費、装置などに7億2000万円。2003年度は結晶成長装置の増設、デバイスの試作装置などに7億6000万円。2004年度は量産設備に11億3000万円。設立5年後には、売上高40億円と株式上場を計画している」とありますが、6年たっても何の成果もないことは、利益に貢献するような事業の創出が行われていないことから、明らかです。

HOYA、SiC其板の開発、製造子会社を設立(2002年5月28日)
http://www.edresearch.co.jp/mtb/0205/111.html

HOYAの事業領域は、ガラス等の材料科学と、眼科を中心とした医療領域の2つの異なる領域があるので、無機材料の専門家で半導体製造装置を扱っている人間に、眼科の新しい治療法のことはわかるはずがない。少なくとも技術開発に関して限定して、材料科学を担当する責任者と、眼科領域を担当する責任者の、別々の2名に担当させるべき。

また以前から言っているように、ペンタックス社の買収はHOYA株主の価値を毀損したので、反省してきちんとその事実を認めること。2011年3月にのれん代を除く営業利益率を18%にすることを目指すといっているが、できないことを株主に示すこと自体が、失礼な話ではないか。

HOYA株式会社のホームページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/index.cfm

HOYAの経営に関する私の文章(2008年1月3日)http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoya_08.html

HOYA株式会社最高執行役に浜田宏氏就任のニュースリリースhttp://www.hoya.co.jp/data/current/newsobj-578-pdf.pdf

HOYA株式会社R&Dのページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_06.cfm

HOYA株式会社の経営理念のページhttp://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_03.cfm

2008年4月8日火曜日

会社にとっての経営者の重要性

私の観察してきた客観的な事実からも、会社が伸びるかどうかは経営者の能力、資質と人間性に大きく依存します。ほとんどそれだけといってもいいと思います。だから経営者は重要なのです。
経営者が無能だと、会社は伸びることはないか、某ガラス会社のように、たまたま会社の事業基盤のファンダメンタルズが良くて業績が短期的に伸びていても、中長期で大きく成長することは、まずないでしょう。

たとえば、1970年当時、同じような光学機器を製造開発するメーカーだった、キャノンの売り上げは350億円程度、ペンタックスが150億円程度だったと記憶します。35年たってそれがどのような差を生んだかということです。1989年の富士フィルムとキャノンの時価総額を、ほぼ20年たった後の時価総額と比較しても同じことが言えます。

多くの日本の企業が、なんら株主価値の創出を行えていない間に、海外では、大きく株式発行時価総額や株価を上げている会社がいくつもあります。一刻も早く、日本でも有能な経営者が活躍して、資本主義の優れたところを活かせる社会になることを、個人的には望んでいます。

HOYAの経営に関する私の文章(2008年1月3日)

以前の文章を転載しておきます。なお誤字脱字等を若干訂正しました。

HOYAの経営課題と事実関係について
2008年1月3日 山中 裕

◆概略

 去年(2007年)の6月ころから、私がHOYAの経営の問題についてどのように考えるか、多くの方からご質問を受けましたが、時間的な制約もあり、すべてのお答えに対応できる余裕がなく、しかしながら、現在HOYAは経営上の曲がり角にあることは明らかで、またなぜHOYAがこのような高収益企業になったか、そして現在どのような問題を抱えているかという点について、HOYAという会社を誤解している方が、機関投資家、個人株主やマスコミ関係者の皆様でさえほとんどだと思いますので、問題意識を広く共有認識していただいて、前向きな議論を誘発することは意義のあることだと考えます。したがって、以下で私の考え方をご説明することにします。

(1) 私の問題提起について

 まず最初に、私の問題提起がどのようなところにあるかを説明します。端的には、現HOYA経営陣が2005年を基準とした場合に、今後10年間で株主価値を大きく伸ばすような経営を行えているかという点です。共に画像処理をメインの事業にしてきた富士フィルムとキャノン。1989年12月時点でのキャノンの時価総額は1兆3000億円、富士フィルムの時価総額は、1兆9000億円でしたが、現在キャノンの時価総額は8兆円強、富士フィルムの時価総額は2兆円あまりにすぎず、3倍以上の差がついてしまっています(この例は、岩崎日出俊氏の『投資銀行日本に大変化が起こる』(PHP研究所)25ページを参考にしました。この本はすばらしい本ですので、興味のある方はお読みになることをお薦めします。以下では、いくつかの例を岩崎氏の著書から引用します)。

 HOYAは確かに1990年から2005年までの株価成長率は年間15%を超えていましたが、ここ直近2年間の上昇率は日経平均すら下回っています。現在のHOYAの時価総額は約1兆5000億円ですが、2015年や2020年までに、1989年から2005年までの富士フィルムとキャノンのどちらのシナリオになるかといえば、キャノンのように業績が伸びるとは資本市場で評価されておらず、その結果として、HOYAが大スポンサーの日本経済新聞からさえも、「最近二年間の株価の伸び悩みを見ると、投資家の成長期待に十分応えているとは言い難い面もある」と言及されるにいたっています。

 なぜこのような資本市場の評価を受けるにいたったかというと、①現在の主力事業の将来性が明るくない。成長性が低く、長期的に減益の可能性すら強い、②新規事業の創出実績がなく、その見通しもない、という2点に集約されます。①については、以下で詳しく述べますが、まず稼ぎ頭のHDD用のガラス磁気ディスク事業の市場が、フラッシュメモリーという代替品に5年以内に取って代わられる可能性が強いこと、第二にフォトマスク事業の競争環境が趨勢的に悪化しており、成長が見込めないこと、それらを補う事業ポートフォリオ転換を実現できていないことが原因です。②については、現在のHOYAの主力事業は、70年代に獲得したガラス研磨技術の応用であり、すべてが80年代後半までに創出されたもので、いくつかの理由により90年代以降は新規事業の創出実績がないこと、特に余剰資金の再投資先が明らかな課題とされた2000年代以降に経営陣による成果がまったくないことが理由になります。株価は短期では市場での需要や思惑によって上下しますが、中長期的には会社の株主価値をある程度正確に反映するものですから、ここ2年の株価の伸び悩みは、重要な課題を経営陣に提起しているといえます。1990年までに新規事業を創出し、90年代に成長事業に重点投資をしたHOYAの株価は、仮に日経平均の動きに関わらず、2005年までの15年間に高いパフォーマンスを創出しましたが、今のHOYAの経営では、これから10年で同様なパフォーマンスを生み出せるでしょうか。

 IBMのガースナー前会長は、ハードからソフトへの事業転換を、投資銀行を使いこなして年間平均10件近くのM&Aを行い、ロータスやチボリなどの数多くの優良ソフトウェア会社を次々に買収して、在任中に株主価値を10倍、時価総額15兆円に高めました(岩崎氏著書39ページより)。HOYAにとっては70年代に獲得したガラス研磨技術は現在の事業を作り上げたコアとなる技術ですが、もうこの技術に頼ってはいられません。事業構造を転換し、再び株主価値を大きく創出するような経営を行わなければいけないのに、5年近く課題が放置されているのが実情です。

(2) HOYAが高収益企業になったからくりについて

 どのようにしてHOYAはROAが一部上場企業でトップ級の高収益企業になったかについて、ほとんどの皆さんは誤解しています。HOYAは社外取締役が過半数を占めるなど、いくつかの点で特長のある点がありますが、決して「社外役員が過半数だから」「ガバナンスが先端的だから」「CEOが若いから」「財務が優れているから」、高収益企業になったわけではないのです。高収益企業になった最大の秘密(からくり)は、1970年代に非常に差別性があり、つまりほかの会社が参入しようとしても容易ではない、かつ市場での応用性がある(つまり現在の事業を作り上げることのプラットフォームとなる)ガラス研磨技術を、偶然と幸運もあり、獲得できた点にあります。関連して、現在の事業は実ににすべて、80年代までに作られたものであり、90年代以降には、実効性のある形で、買収にせよ、社内のR&Dにせよ、新規事業の創出に成功したことはないという事情もあります。

 主力事業のうち、ガラス磁気ディスク基板事業、フォトマスク事業、ブランクス事業の稼ぎ頭トップ3はいずれも、ガラス研磨技術の応用商品であり、この3事業で現在収益の7,8割稼いでいます。HOYAの創業事業はクリスタル事業、2番目がめがねレンズ事業です。90年代に当時の主力事業であるめがねレンズ事業から発生するキャッシュを、80年代までに獲得したガラス研磨技術に基づいて、新規事業開発がなされていたオプトエレクトロニクス事業に果敢に再投資し、大きく育て上げたから、現在のHOYAがあります。ナノレベルのガラス研磨という技術は、30年近い社内でのノウハウ等の蓄積があり、他社にはまねが簡単にはできず、したがってその商品は市場シェアが必然的に高いので高い収益をあげられ、しかも一旦確立した優位性を維持するための技術開発への再投資がさほど必要ないという特性があるので高い資本効率が実現しているにすぎません。このような技術特性を持つ応用商品の市場が、半導体産業の発展と平行して規模が拡大していったから、私の祖父兄弟が知多半島から出てきてはじめた保谷市(現在の西東京市)の片田舎のガラス工場が、経常利益1000億円以上の会社になったのです。従って、他の会社でも社外役員を過半数にしたり、CEOを若くしたり、財務を革新的にしたら、ROAが20%を超える数百億円の利益を生む事業部をいくつか作れるかというと、それは違います。一般に、企業経営は「きちんとした理論的なバックボーンと、それに基づく戦略のもとに、M&Aや資金調達、設備投資を展開していけば、企業価値は向上していく」(岩崎氏著書208ページ)ものですが、HOYAの場合は、幸運の結果もあって30年以上前に獲得したガラス研磨技術の応用を軸に、適切な事業選択と再投資がされていったから大きく成長することができたのです。

 逆に言うと、社外役員が過半数でも、CEOが若くても、財務が革新的でも、必要な設備投資がされなかったり、有望な(内部外部を問わず)事業機会に投資がされなかったり、割高な企業買収を行ったり、本業とは関係がなく優位性のない事業にお金を無駄につかったりしたら、会社はそれ以上成長しないでしょう。いまのHOYAは後者のような状況にあります。従って、ここ15年のHOYAが優れた会社に見えていたとしても、実際の経営に対する評価は(特に2000年以降について)、ガラス研磨技術の圧倒的な優位性という過去の遺産に胡坐をかいてなにもせずに、いざフラッシュメモリーの脅威でガラス磁気ディスク基盤事業が脅かされるなど、成長性に疑問がついてしまった今になって、何をしていいのかよくわかっていない小田原評定化しているという評価が適切だと思われます。

 言い換えると、HOYAのガラス研磨技術はそれだけ圧倒的に優位性があるものだったのです。2度と簡単に手に入るような技術ではありません。ガラス研磨技術の優位性は、経営陣の無能力、戦略やビジョンの欠如、投資銀行の使い方の無知、オペレーションの無能などのそれらディスアドバンテージをすべて補っても余りあるくらいの圧倒的なものでした。しかしながら、セラミックスの領域でも、陶磁器の分野は今後も応用が見込まれますので、例えば森村グループの会社(日本ガイシ、TOTO、日本特殊陶業、ノリタケ)は軒並み最高益に近い状況を更新していますが、ガラスの分野はさして将来性がなく、ガラス研磨にしか優位性のないHOYAの将来性は比較して暗いといわざるをえまえん。

(3) 5年以上も前から新事業育成が急務だったHOYAの経営

 主力事業の見通しが順調な会社であれば、新規事業の必要性は相対的には高くありません。例えば、キャノンのカメラ、複写機、プリンターの主力3事業は、今後5年から10年で大きく崩れる可能性はおそらくないでしょうから。しかしHOYAの場合は、ガラス磁気ディスク基盤事業は、代替品のフラッシュメモリーが台頭し、中長期のいつかは代替するということは、実に事業を始めた80年代後半の時点でさえ認識されていました。いわんや、2000年代前半では、いまは伸びているが、いずれ10年スパンでは確実に代替されるということは、はっきり分かっており、HOYAの経営課題においては、2000年代前半の時点ですでに、新規事業創出の必要性は、他企業と比較しても、非常に高かったといえます。鈴木洋最高執行役自身が2004年のアニュアルレポートにて、「(余剰資金を自己株式の取得や配当金増額により還元する)資本配当政策だけでなく、中長期での成長力を見越した需要を満足させる事業への投資が後手にならないよう、従来の収益構造とは異なる投資が後手にならないよう、従来の収益構造とは異なる(事業)ポートフォリオへと変えていかなければならないと考えています。そのためには新規事業の取得・発掘が必須の条件になります。従来から懸案となっていますこの課題に関しては、今後も取り組んでまいります」と述べています。鈴木氏自身が、「従来から懸案となっていますこの課題」と、2004年時点で述べていますので、私の主張は自ずと明らかです。

 ガラス磁気ディスク基盤事業は、HDD業界は高容量化のための垂直磁気方式への新方式への対応に手間取り、2007年度第一四半期の業績が悪化していましたが、より重要な課題は、フラッシュメモリーという代替品が存在することです。現在のHOYAの稼ぎ頭であるガラス磁気ディスク基盤は、主に2.5インチのHDDの基盤に使われています。2.5インチのHDDは、アップル社のヒット商品であるアイポットなどの携帯音楽再生機器や、ノート型のパソコンに掲載されており、HOYAはこの分野で、80%以上の市場シェアを持っています。アルミよりもガラス基板のほうが、衝撃に強く、高容量化にも優れていたために、90年代から急速に普及が進みました。注意深い皆さんはすでにお気がつきかと思いますが、アイポットナノではフラッシュメモリーが掲載されており、HDD(及びその用途のガラス基板)は掲載されていません。フラッシュメモリーは、書き換え回数が有限であるという限界があるために、個人利用でも動画再生のビデオを頻繁にダウンロードしたり、書き換えが頻繁な企業サーバーのデータベースなどの用途には向かないものの、通常のインターネットと電子メールだけのPCユーザーには、起動時間やコスト、高容量化がメリットが大きく、2.5インチHDDの市場の多くは、フラッシュメモリーに5年以内に代替される可能性がほぼ確実と思われています。したがって、この事業は今がピークであり、中期的には大幅に減益になる可能性が強いといえます。いわばHOYAが置かれている状況は、CDが登場する時のレコード針の会社、デジタルカメラが普及する時の写真フィルムの会社と似た状況で、こうなることは5年前から分かっていたことです。

 論理的に考えれば、主力事業の成長率が高いうちに、そして主力事業が大きくキャッシュを出している間に、次の世代の稼ぎ頭を育成する必要性があり、このことは5年前から当然社内関係者には理解されていました。特に2000年代前半に、既存事業外への大きなM&Aや投資が必要だったことは明確です。そのような戦略を実行しなかったために、直近2年間の株価の低迷というコストを株主は甘んじて受けなければならなくなっているわけです。新事業の必要性に対し、7年間もなんら答えを出せなかったことを、まず取締役会は事実認識として受け入れる必要があります。末尾の別紙からも窺い知れるように、HOYAの経営陣は90年代後半以降は、新規事業の創出に成功していないというのが真実です。なお鈴木洋氏は、2003年10月のダイヤモンド誌の辻広雅文編集長(当時)によるインタビューの中で、「この会社は、収益性が高くても成長余力が乏しいことが問題で」、「株主の期待に応えるには、5年くらいのスパンで新しい事業を継ぎ足して、急角度の成長を達成しなくてはならない。それが私の仕事です」と述べています。友人としても、きちんと仕事をしてほしいと思っています。

(4) 1000億円以上のコストを払ったペンタックス社買収がHOYA株主の価値を毀損したことを取締役会は認めるべき

 鈴木洋氏がペンタックス社の創業事業の売却を示唆する発言を行ったことと、その後の経緯については、様々に面白おかしくも取り上げられましたし、発言自体は本人の発言趣旨云々を問わず、買収対象会社に不快に思う人間がいることは明らかなので、不適切だと考えられますし、資本拘束条項を見落として、合併のスキームを発表したのも初歩なミスで論外です。しかしこれら以外にも、きわめて本質的な問題がありますので、そのことについて、言及しておきます。第一に、資本政策についてです。HOYAとペンタックスは、当初は株式交換での合併を方針としました。MBAの1学期のコースで習うように、株主資本はコストの高い資金調達の方法であり、低金利の借り入れが可能で、かつ余剰資金を抱えているわけですから、果たして株式交換での買収がHOYA株主の利益になるかという点がそもそも標準的なMBAのカリキュラムで習うことからして、疑問です。現にその後の騒動勃発以前にも、合併発表後のHOYAの株価は低落していきました(関連して、「GEはなぜソニーを買収しないのか」というコラムを岩崎氏が90ページに書いていますので、そちらを参考にしてください。「HOYAが株式交換でペンタックスを買うことがHOYAの株主利益にかなわないか」と読み替えて、岩崎氏のコラムを読まれることをお勧めします)。HOYA経営陣が、株主の代表者としてのアメリカ型の経営者の標準的な思考方法を理解できていないことを如実にあらわしたと思います。

 第二に、HOYAの企業戦略上、ペンタックス社の買収によって、2015年までに数百億円の利益を出す事業を創出しなければいけないという点です。現在のHOYAは、経常利益で1000億円強であり、ガラス磁気ディスク基盤事業等のダウンサイドを補い、かつ成長率を底上げする(言い換えると1990年から2005年までの年間15%成長、あるいは少なくとも年10%成長を実現する)には、大体2015年までに数百億円、たとえば500億円以上の利益を出すような事業を作り上げる必要があります。15%成長を維持するには、2015年に2000億円の経常利益を出していなければいけません。言い換えると、数十億円の利益では、HOYAの株価に与えるインパクトはほとんど無視されてしまいます。買収が成功と言えるためには、数百億円の利益を出す事業を10年後に作れたかどうか、その見通しを3、4年以内に株主に示すことが必要です。このような思考方法を、北米の株主資本主義の洗礼を受けた経営者は行います。

 従って、2007年5月28日の日経ビジネスの記事「HOYA、TOB後の『試練』」という記事の末尾部分に、私は疑問を持ちます。鈴木洋氏は2007年5月末での記者会見で、「カメラ事業は存続する。ただ、量を追っても将来性はない。ニコンやキャノンを追うことは考えていない。小さいながら輝くカメラメーカーになる必要がある」と述べています。これはHOYAのカメラ事業は、K10DやK100Dの動向如何(かりにペンタックス統合後に非常にうまく経営ができたとしても)に関わらず、数百億円の利益を創出する事業領域としては、対象外であることを意味しています。同様に、同記事末尾にあるような内視鏡事業の展開の可能性でも、数百億円の事業を創出する事業分野にはなりにくいと思います。まとめると、「数百億円の利益を出す事業を10年後に作れたかどうか、その見通しを(少なくとも)3、4年以内に株主に示すこと」がポイントなのです。詳細はここでは割愛しますが、その他の方法をもってしても、内視鏡分野でHOYAが数百億円の利益を創出する事業を創出できる可能性は、現状ではゼロに近いと考えられます。従って、1000億円以上のコストをかけた事業戦略としては、常識的に考えて合格点はつけられず、それが株価の下落という評価を受けている理由です。以上の点を取締役会は早く認識して、本当に株主のためになる経営を行わなければいけないでしょう。

(5) HOYAの経営陣の認識には、何が足りないか。どういう側面が、株主に対して誠実ではないか。

 以上である程度述べたように、現在のHOYA経営陣は、株主利益を実現するための基本的な思考ができていないません。ガラス研磨技術の応用に頼ってきた今までの事業ポートフォリオには限界があることをまず認めて、価値の創造を行う正しい方法を認識し、実行するべきです。私が問題だと思うのは、鈴木洋最高執行役の姿勢です。鈴木洋氏は先に引用したダイヤモンド誌のインタビューの中で、辻広氏の「米国の社長時代、ベンチャーへ積極投資しましたね」という質問に対して、「ためになったのは、ベンチャーキャピタルやコンサルタントと一緒に取締役としてベンチャー経営にかかわったことです。それまでの仕事は、HOYAという枠組みの一部にすぎなかった。しかし、ベンチャーは野原にポツンといるのに似て、どこへでも動ける。選択の幅がすごくある。業態転換、撤退、大リストラ、合併、なんでもあり。でありながら、5年先のビジョンはある。非常に異質なおもしろい経験でした」などと述べています。しかしながらこのころ、鈴木氏が主導して行った投資活動は、10社あまりすべて破産したのが実態で、失敗から何も学んでいないこともあるが、このような株主利益に損害を与えた投資行動があったにもかかわらず、あたかも先端的なベンチャー投資を行っているかのような印象を無責任に株主に与えているのは不誠実です。そもそもこの時期から現在に至るまでの間、新事業の創出に成功していないから、株価の伸び悩みというコストを株主は現在払っているわけで、きちんと反省して、自分に何が足りなかったか真剣に考えるべきです。

 なおHOYAは2004年にMITのCardinal Warde教授らが設立したRadiant Imagesという会社を買収していますが、それに関する意思決定の経緯は、株主にまともに説明できるようなものではなかった模様で、鈴木氏らは同様の過ちを繰り返しています。外部の企業を買収して会社を成長させるための、確固としたディシプリンに基づいて経営を行っていないからこのような結果が繰り返されます。

 外部の技術をM&Aによって獲得することで株主価値を創出することは可能です。一例をあげると、内視鏡手術器、使い捨てコンタクトレンズ、携帯血糖値測定器などの事業を獲得してきたジョンドン・アンド・ジョンソンや、ロータスなどのソフトウェア会社を買収してきたIBMです。このためには、情報収集において投資銀行をフル活用するなどの経営上の手腕が必要になりますが、鈴木洋氏にはその実績がなく、自分に何が足りないかもよく認識していないと言えます。鈴木氏は2007年6月5日配信のロイターのインタビューの中で、「内視鏡と周辺機器を組み合わせて、そうした特定の領域で診断から治療までを可能にするような事業を展開したい」として、「外部と組み合わせることになるだろう。M&Aもあるだろうし、ベンチャーを買収したり、ライセンスを受けるなど、いろんな枠組みがある」と述べています。しかしながら、鈴木氏には外部の会社を買収したり、ライセンスを受けることで企業価値を創出してきた実績が残念ながらありません。

 「HOYAは案外、技術力がなく、自ら新事業を手がけるよりも、M&Aをした方が手っ取り早かった」と書かれたことがあります。よくよく財務関係の書類を見ていただけば分かるように、HOYAは30億円程度しか新規分野のR&Dに予算がありません。アメリカでもマイクロソフト、インテル、グーグルのような会社は膨大な金額を社内の技術開発に費やしていますが、シスコ・システムズのように社内でのR&Dを行わず、外部からの導入に依存する会社もあります。そのためには、外部技術の評価能力や買収後の経営能力などが必要とされるのですが、HOYAの経営陣は社内の技術研究開発にお金をかけていない上に、M&Aで外部技術を獲得して新事業を創出する能力を持っているとはいえませんので、問題です。

◆最後にQ&A

Q1 HOYAに技術力はあるか?

 この答えは私ならばこのように答えます。1970年代に獲得したガラス研磨技術の優位性は圧倒的である。したがって、マスクブランクス事業、ガラス磁気ディスク事業は他社の参入が難しいので、利益率が高い。(若干語弊があるが)その他の領域での技術優位性はほとんどないといってもよいので、たとえば日本板硝子との合弁の子会社だったNHテクノグラス社はガラス研磨とは別の領域なので、優位性をもてなかった。

Q2 ほかの創業家のメンバーに言いたいことは?

 私はいわいる事業家家系に生まれましたので、似たような境遇の人たちと幼少期より付き合いがありますが、日本のほかの事業を営む家系と比べても、私の親族は教育水準が低すぎると断言できます。現在は経済が右肩上がりの高度成長期と比較して、経営判断に必要とされる知識が複雑化しており、経営者にとって情報処理の能力が非常に重要になっていますので、一般論としては、2世3世でも経営者になろうという人間は、きちんと大学の学部時代にも勉強してコアとなる知識を身につけて、海外のトップのビジネス・スクールのMBA(経営学修士号)くらいは持っていたほうがいい。HOYAは技術を基礎とする会社だから、学部の選考もどちらかというと理系のほうがいいでしょう。留学先の大学を成績不良で中退というのは論外。倅を後継者にするのならば、周囲は机にかじりついてでも勉強させるべきで、それに耐えられないのならば、機関投資家のお金を預かって経営している会社の後継者は別の人(例えば任天堂の岩田聡社長のようなプロ経営者)にしなくてはいけない。大学院や大学で得られるネットワークも重要なので、小学生時代からそのような人脈ができるように本人に努力させるべきです。たとえば明治時代から世界でノリタケの陶磁器を売っていた老舗商社の経営者である森村さん一族がもっているような国際的なネットワークを、私の親族は持っていません。HOYAは眼科というすばらしい事業分野を持っているのに持ち腐れになっており、第二の任天堂になれる可能性があるのですが、そのような可能性が未実現なのは、経営者の能力の問題です。

 もちろん事業家の家に生まれたとしても、企業経営者になる必要はなく、パリス・ヒルトン姉妹のように芸能界で成功するとか、森敬さん(森ビル創業者の森泰吉郎氏の長男、元慶応大学理工学部教授)のように、学術界に入って活躍して、家業との関わりはアドバイスを与えるという関係にするということもありうる。しかし私たちのような境遇に生まれることは、幼少のときより事業というものを肌で感じることができ、学生時代から先輩の経営者の方々と接することができるなど、非常に有利な側面がありますので、それを生かせるかどうかは本人次第です。ただし組織上多くの人の上に立つということのために、周囲がついてくるための正統性を確保するためには、若いときからそれなりの覚悟があったことを、何らかの実績で示すべきでしょう。そうでなければ、経営を継ぐべきでも継がすべきでもありません。配当生活をしていれば生活には困らないでしょうから、周囲に損害を与えないようにすべきです。

HOYAの各事業が作られた年代:めがねレンズとクリスタルは、70年代以前に基礎が作られ、70年代にガラス研磨技術の応用としてブランクス事業が創出された。80年代にフォトマスク事業、ガラス磁気ディスク事業、オプティクス事業、眼内レンズ事業と現在の主力事業のほとんどが創出されたが、90年代以降は新事業が創出されていない。

ノバルティスによるアルコン買収

つい先ほど、以下のようなニュースが入ってきました。アルコンは記事にあるように、食料品大手ネスレの上場子会社で世界最大の眼科関連企業で、時価総額は4兆円にもなります。ある会社が1000億円程度の買収で世間を騒がせてすったもんだしている間に、世界規模では、より大きな戦略的な動きがあったのです。
以下のニュースは、HOYAのこれからの経営にとっても重要な意味を持つのですが、おそらく日本のアナリストやマスコミの方は良くわかっていらっしゃらないと思いますので、近日中にこのブログ上で、お話したいと思っています。

http://www.nikkei.co.jp/news/main/20080407AT2M0701X07042008.html
スイス製薬大手、総額4兆円の大型買収・ネスレの眼科医薬子会社
 【フランクフルト=後藤未知夫】スイス製薬大手のノバルティスは7日、食品世界最大手のネスレから眼科医薬品子会社のアルコンを買収すると発表した。年内をめどにアルコンの25%の株式を取得し、さらに52%の株式を買い増す権利を持つことで合意した。総額で約390億ドル(約4兆円)の大型買収となる。
 アルコンは、1945年に米テキサス州で薬局として創業し、点眼薬やコンタクトレンズケア商品など眼科分野の最大手メーカー。78年にネスレが買収し、77%の株式を保有する。昨年の売上高は約56億ドルで、従業員数は約1万4500人。
 合意によると、ノバルティスは約110億ドルでアルコンの25%の株式を取得後、2011年7月までに約280億ドルで52%の株式を追加取得する権利を持つ。他の株主が保有している残りの23%の株式を取得する義務は負わない。 (07日 23:28)

2008年4月7日月曜日

HOYAの経営課題と事実関係について

とりあえず、去年からいろいろと問い合わせのあった件については、以下に私の見解を述べていますので、ご参考にしていただきたいと考えています。

HOYAの経営課題と事実関係について
2008年1月3日
http://www5.atpages.jp/ymnk/top.html

私はHOYAの現経営陣は、ペンタックス買収がHOYA株主の立場からみて失敗(=株主価値を毀損する結果になった)であることを、なるべく早く認めるべきだと考えています。そちらの方が、株主に対して誠実というものです。現に2006年12月に5000円近くあった株価は、2008年4月現在で2500円程度に、実に2年でほぼ半分に急落する結果になっており、現経営陣が就任した2000年6月からほとんど株価が上がっていないという結果になっていることを、まず事実関係として受け止めるべきです(ちなみにこの2年間に日経平均自体も下落したが、20%程度の下落率です)。

鈴木洋CEOは、2011年3月期でペンタックスののれん代を除く営業利益率を18%(現在は3.6%)を目指すなどと言っています(2008年1月28日の説明会)が、このような実現不可能な目標を株主に提示すること自体が不誠実ではないかと考えています。ペンタックス社のファンダメンタルな競争力を考慮すると、どんなスーパーマン的経営者が問題解決に当たっても不可能な業績の向上であり、基礎的な条件が買収金額に合わない案件を実行してしまう意思決定のしくみが、そもそも大問題なのでしょう。

私も別にこの問題だけを日々の生活で扱っているわけではないのですが、一刻も早く株主の皆さんのためになる経営に変わってもらえることを願っています。

ご挨拶

ニューヨークの日々の生活から、見て聞いたこと、いろいろと考えたことを、こちらでお話していきたいと考えています。今後ともよろしくお願いします。