2008年9月13日土曜日

医療制度についての小論(1)

アメリカの医療制度を知りたいという依頼を受けることがあります。 その中では、李啓充氏(元ハーバード大学医学部助教授)の著書が、特に参考になります。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/search-handle-url?%5Fencoding=UTF8&search-type=ss&index=books-jp&field-author=%E6%9D%8E%20%E5%95%93%E5%85%85

アメリカの医療制度は、高度に市場化されているため、弊害といえる側面が多くあるのは、紛れもない事実です。そもそも経済的な理由で医療保険に入っていない人が、とてつもなく多いのです。ただ、医療システムのより包括的な理解という意味では、李氏の著作や講演の内容に付け加えることがあるともいえます。

例えば、
①有用な新薬や医療機器には、純粋に需要と供給の論理で高い値段がつくということ(逆に有用だけれども対象が多くの途上国の患者という場合は、イノベーションの動機が働きにくいということであり、こういったワクチンなどにお金を出そうと言うのがビル・ゲイツ夫妻の財団の発想である)。
②政府関係の医療研究予算がとにかく膨大。
③バイ・ドール法の制定以降、政府予算の研究成果を民間大学や企業の所有として、実用化しようとする金銭的インセンティブが強い。NIH(National Institute of Health)の存在意義は、多いに学ぶべき。日本型NIHの設立を提唱したいと思っています。
④以上を背景として、ほとんど7割から8割の新しい新薬や医療機器の誕生は、北米からだといえる。

企業経営という意味でも、日本ではなじみがないかもしれませんが、北米の医療機器(Medical Device)大手企業の持っている時価総額は巨大です。日本の医療機器メーカーでは、テルモとオリンパスがかろうじて1兆円近い時価総額を持っている程度ですが、例えば以下の時価総額リスト(4月時点)を見てください。 ここ30年の間、医療分野の市場は約15%の成長率だったわけで、ここにのって成長したいくつかの例が、Boston ScientificとかJohnson & Johnsonとかいう会社なのです。

Johnson & Johnson 20兆円
Medtronic 5兆7000億円
Alcon 4兆7000億円
Baxter 4兆円
Stryker 2兆7000億円
Coviden 2兆4000億円
富士フィルム 2兆2000億円
Beckton Dickinson 2兆1000億円
Boston Scientific  2兆円
St. Jude Medical 1兆6000億円
HOYA 1兆3000億円
テルモ 1兆1000億円
CR Bard 1兆円
オリンパス 9600億円

医療コストの爆発的な増大、民営化に適した分野と適さない分野、患者と医者の情報の非対称性など、思いついただけでもいくつも問題があります。北米では経済学研究についても、基本的に重要なのは応用分野でどれだけ貢献できるか(たとえば政策に採用されるようなアイデアを出したか)ですので、医療経済の分野は多くの優秀な学者が、本気でさまざまな問題に関する実証や応用研究を行っています。私は経済学部で医療経済の授業を受けた覚えがありませんし、極東のどこかの国の「理論を極める」とかいうのとは、発想が違うのです。

つまるところ、国民の平均の教育水準が高くても、アカデミズムがこのざまでは、この国に明るい未来はありません。

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