2008年5月19日月曜日

HOYAの2007年度営業利益が前年度比11.3%減の発表について(ペンタックス社買収騒動から1年後)

私が伝えたいことは、ある意味で当たり前のことに過ぎませんが、巷の見解が混乱しているので、簡単にまとめ、以下のニュースに対するコメントとします。

「HOYAが反落、前期連結営業利益は11.3%減」の記事http://www.excite.co.jp/News/economy/20080428163900/kabu_20080428100597.html
http://money.jp.msn.com/investor/stock/news/newsarticle.aspx?ac=K20080428031&cc=12&nt=01
HOYA<7741.t>が反落。午後1時に発表した前08年3月期連結決算を受け、株価は一時220円安の2725円まで売られた。 前期決算は営業利益で前々期比11.3%減の950億4600万円と2ケタ減益を計上した。四半期ベースで見た営業利益率は第2四半期(07年7~9月)の26.6%から第4四半期(08年1~3月)には13.3%へと急低下(前期通年では19.7%)しており、嫌気されている。要因は半導体用フォトマスクやHDD用ガラスディスク、光学レンズなどを手掛けるエレクトロオプティクス部門の低迷。一部の主要製品の価格低下や新製品への対応の遅れなどが影響したという。

なお3ヶ月前時点(2008年1月28日)の会社予想は、1011億円とされていました。
HOYA<7741.t>、08年3月期営業利益は1011億円を予想=市場予測は1105億円http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK007818620080128

事態を改善するため、機関投資家のみならず、個人投資家の皆さんも、マスコミ等の不勉強な記者によるスポンサー提灯報道等に惑わされずに、真実を正しく認識して、見つめていただきたいと考えています。2008年年初の株価の暴落を経て、ここ2年で株価が半分近くになったことに関しては、新たな成長戦略を描くには、現状の認識が第一になるはずです。

なお、私がこのようなコメントをするのは、株価が下落していることだけでなく、怒るというよりも悲しくなってしまう現状を鑑み、私の悲しみを、個人株主様も含む一人でも多くの方に共有していただきたいと考えるからです。ちなみに、2008年3月31日のHOYAの株価の終値は、2,340円でした。鈴木洋氏らが経営陣に就任内定した5月末の株価が9990円(4分割修正後の値で2497円)、2000年6月末(30日)の株価は9500円(4分割修正後の値で2375円)ですので、株価は実際には8年間で下がっていますので、結局のところ、8年間でまったく企業価値を増やすことができなかったということです。鈴木洋氏ら経営陣は、本当ならば早急に辞表を提出し、8年間分の全役員報酬を株主に返却すべきですが、そうしないのならば、少なくとも、どうやってこれから5年から7年先のHOYA株式会社の株主価値を増加させていくつもりなのか、はっきり個人株主を含む株主に対して説明するべきです。

現に直近の第四四半期で、ペンタックス部門の赤字転落が、発表されています。 このことは、私が従来懸念していたように、ペンタックス社の買収が、ヒット商品の短期的な成功に上ブレした決算内容を基にした買収価格の設定により、HOYA株主側から見て高値掴みであったということを、いわば裏付けた内容です。すでに私のところには、旧モデルのカメラをアメリカの大手小売店に投げ売りして小売店の顰蹙を買っているなどという情報も入ってきています。

まず議論の出発点として、鈴木哲夫氏(HOYA名誉会長)のコメントを取り上げます。 鈴木哲夫氏は、以下のように述べています。
http://hrm.jmam.co.jp/column/sougyousya/s11_2.html

「経営とは本来、企業価値を生み出していくものであるという考え方が欧米の企業では明確になっている。“企業は株主のもの”であり、経営者は株主から委託を受けて事業を展開しているわけであるから、企業価値を高めて株主に利益を還元していくのが当然」というわけだ。 「企業価値を高めるには日本の企業も自社の強味を生かす中核事業やコア・コンピタンスに集中し、あまり将来性がない事業、収益性が低い事業は整理していく戦略が必要になってくる。つまり『選択と集中の経営』に真正面から取り組み、自社の事業構造を再構築することである」

以上の見解をまず正論として受け入れ、それに照らし合わせて、直近の経営政策を検討してみましょう。

HOYAの中核事業は、①ガラス研磨技術と、②眼科領域であり、コア・コンピタンスでもあります。客観的に言って、この2分野以外の事業で成功したためしがありません。そんなHOYAにとって、あまり将来性のないと思われるデジタル・カメラ事業を買収して経営を行うことに、何か少しでも合理性があるのでしょうか。ペンタックスの内視鏡事業も、北米での市場シェアは数パーセントに過ぎませんし、何か優位性のある技術を持っているわけでもありません。そんなコアから外れた事業のために、1500億円(買収金額の1050億円にペンタックスの抱えていた負債総額を足した大まかな数字)も費やすことがHOYA株主の利益に果たしてなるのでしょうか。

眼科領域は、有望な分野だとみられています。なぜ自分が得意な分野に投資を行わないのでしょうか。経営陣と取締役会は、次の株主総会で以上の点を、時間をかけて誠実に説明していただけないでしょうか。

以前より私が述べているように、HOYAの利益金額はおおよそ1000億円ですので、この会社の成長率を高めて、最終的な株価を高めるには、数百億円の利益を生む事業投資を行う必要があり、分母が1000億円で分子が数十億円では、株価にほとんどインパクトがない。このことは、日経ビジネス記者の安部俊廣氏も良くわかっていなかったようだが、私はすでに疑問を呈しています。 なおこのような程度のことは、欧米トップ15のビジネススクールをでたMBA新卒でも、それら学校のトップ50%ならば誰でも普通に指摘できる内容のはずで、経営陣がそれらを良く分かっていないのならば、HOYA経営陣は、欧米トップ15のMBA取得者のレベルに達していないことを意味しています。ならば、今のまま経営を続けるのではなく、欧米トップ15くらいのビジネススクールで再訓練を受けてきてほしいのです。

日経ビジネス記事(2007年5月28日):HOYA、TOB合意後の「試練」http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070524/125459/

以下が、私がそもそもの疑問を呈した文章。
HOYAの経営に関する私の文章(2008年1月3日)
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoya_08.html

「HOYAの企業戦略上、ペンタックス社の買収によって、2015年までに数百億円の利益を出す事業を創出しなければいけないという点です。現在のHOYAは、経常利益で1000億円強であり、ガラス磁気ディスク基盤事業等のダウンサイドを補い、かつ成長率を底上げする(言い換えると1990年から2005年までの年間15%成長、あるいは少なくとも年10%成長を実現する)には、大体2015年までに数百億円、たとえば500億円以上の利益を出すような事業を作り上げる必要があります。15%成長を維持するには、2015年に2000億円の経常利益を出していなければいけません。言い換えると、数十億円の利益では、HOYAの株価に与えるインパクトはほとんど無視されてしまいます。買収が成功と言えるためには、数百億円の利益を出す事業を10年後に作れたかどうか、その見通しを3、4年以内に株主に示すことが必要です。このような思考方法を、北米の株主資本主義の洗礼を受けた経営者は行います。 

従って、2007年5月28日の日経ビジネスの記事「HOYA、TOB後の『試練』」という記事の末尾部分に、私は疑問を持ちます。鈴木洋氏は2007年5月末での記者会見で、「カメラ事業は存続する。ただ、量を追っても将来性はない。ニコンやキャノンを追うことは考えていない。小さいながら輝くカメラメーカーになる必要がある」と述べています。これはHOYAのカメラ事業は、K10DやK100Dの動向如何(かりにペンタックス統合後に非常にうまく経営ができたとしても)に関わらず、数百億円の利益を創出する事業領域としては、対象外であることを意味しています。同様に、同記事末尾にあるような内視鏡事業の展開の可能性でも、数百億円の事業を創出する事業分野にはなりにくいと思います。まとめると、「数百億円の利益を出す事業を10年後に作れたかどうか、その見通しを(少なくとも)3、4年以内に株主に示すこと」がポイントなのです。詳細はここでは割愛しますが、その他の方法をもってしても、内視鏡分野でHOYAが数百億円の利益を創出する事業を創出できる可能性は、現状ではゼロに近いと考えられます。」

鈴木洋氏は、以上の疑問に答えたことが、以下を参考にしても、一度もないといえます。仮に「戦略的に手を打って行くのはこれからという所にやっと来ました。試運転が終わって、これから本腰入れてやらないといけないと思っています」といっても、それがそもそも数百億の利益を生めるのかという問題。ここまでくると、分母が1000億円であることを忘れているのか、四則演算ができないのか、もしかして本当に後者なのかと疑いを持ちたくなってきます。そもそも昨年の一連の騒動で、ペンタックス創業家や金融庁に根回しすらできないことをさらけ出したわけですから、社内外へのコミュニケーション能力が欠如しているわけですから、東大駒場キャンパスの文科系1年生向けの発表と議論の仕方の訓練の場である基礎演習を、まず聴講してくるべきなのかもしれません。

http://www.hoya.co.jp/data/current/briefingsubobj-272-pdffile.pdf

「<ペンタックス:カメラ・内視鏡>・ 一眼レフカメラでは、交換レンズが大幅に伸びて、カメラ本体も上手く行っていますが、コンパクトカメラは数量は前年並みで、単価は6 割程度(40~50%価格下落)で、原価割れで処分しないといけない状況もあり、昨年モデルの在庫を処理したりしました。・ コンパクトをやめるわけにはいきませんが、リソースを一眼レフに一生懸命シフトしています。一眼レフの方に軸足を動かしつつあるのですが、残った方の足をすくわれた感じでした。もう少し早く対応していればよかったという悔いも残るところです。・ 一眼レフ交換レンズや内視鏡など、部分的にはいい収益を出しているものもありますが、4Q はコンパクトカメラのところでやられてしまい、赤字になってしまいました。このような間違いを繰り返さないためにも、コンパクトカメラは自社生産はやめて、ODM にして、しかも無理して台数を売らない、規模を追わない、その分リソースを一眼レフや交換レンズに振り向けていくようにしたいと思います。

Q:今年度、各事業はどのようになっていくのでしょうか?売上の伸びの見込みイメージは?

A:(鈴木CEO)ペンタックスは、内視鏡は今のところ順調ですし、少なくとも今後2~3 四半期は今のように売上を伸ばしながら、収益率を上げていくという構造は変わらないでしょう。問題はカメラです。コンパクトカメラのモデル数を減らしていくのはいいが、それではトップラインが縮んでいくだけですので、トップラインを如何に一眼レフで埋めて行くかということが一番チャレンジングでしょう。プラス・マイナスゼロになる危険もありますが、プラスにしていくのが努力のしがいがあるところでしょうか。

Q:昨年ペンタックスの買収を発表してから、それにあわせて業績もあまり良くなく、全体的に会社の勢いが減衰した感じがしますが、このような状況において、会社として通期の見込みを出さないことが、さらに不透明感を増しているように思いますが、社長として、会社の勢いが増したり、増益が見えてくる時期はいつ頃だと思っていますか?買収案件でペンディングになっているものや、ペンタックスのリストラなども含めて、そういう時期はいつ頃と考えているのでしょうか?

A: (鈴木CEO)ペンタックスはまだまだこれからですが、連結して半年経って、良いところも悪いところも見えてきて、戦略的に手を打って行くのはこれからという所にやっと来ました。試運転が終わって、これから本腰入れてやらないといけないと思っていますので、浜田執行役にも頑張っていただこうと思っています。」

そもそも戦略のない買収は、失敗に終わります。ジャック・ウェルチ率いるGEが、買収対象とするのは、市場シェア1位か2位の事業。ペンタックス社の内視鏡部門は、2位に大きく引き離された業界3位であり、優位性のある技術を保有しているわけでもない。業界3位以下の会社を買収していいのは、その会社の独自技術が破壊的であり、近年中に既存の競合関係を破壊できる場合のみ。

財務担当者の江間氏は、そもそもペンタックス買収に反対だったとされるが、それは標準的かつ常識的判断。ならばなぜ取締役会で徹底的に反対しなかったのか。取締役はCEOの部下ではなく、株主に責任を負う存在。取締役会が株主利益のためにきちんと機能していなかったことを如実にしめしていたわけで、善管注意義務もはなはだしい。年長の社内役員として、きちんと責任とけじめをとってほしい。私は2007年5月に、ペンタックス買収に反対する手紙を、社外役員に送っていた。そこでは株主利益の最大化を真剣に考える事業会社の経営陣に、投資銀行がアドバイスをするように、論理的に説明をしていたはずだが、6月に直接面会したある役員の方は、「ペンタックスの従業員の過半数がHOYAとの合併に賛成」などということを、合併賛成の根拠にあげていた。株主の代理人としての取締役の役割は、それぞれの経営判断を株主利益の観点から冷静に判断して、賛否を決めることであるはずで、この役員の方は、グローバルな金融市場でのあるべき立ち振る舞いをよく理解できていないわけで、資本市場の要求を理解し、時代の流れにそった人物を、取締役にしなくてはいけないのではないか、そう考えるわけです。

HOYA株式会社のホームページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/index.cfm

HOYA株式会社(ウィキペディア記事)
http://ja.wikipedia.org/wiki/HOYA

日経ビジネス記事(2007年5月28日):HOYA、TOB合意後の「試練」http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070524/125459/

Nikkei BP Net 記事(2007年8月8日):HOYA、TOB成立は単なる一里塚http://www.nikkeibp.co.jp/news/biz07q3/541954/

HOYA株式会社の会社概要のページ
http://www.hoya.co.jp/HOYA_DYNAMIC/index.cfm?fuseaction=company.about

ペンタックスのページ
http://www.pentax.jp/japan/index.php

HOYAの経営に関する私の文章(2008年1月3日)
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoya_08.html

HOYAのCOOに浜田宏氏就任
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoyacoo.html

HOYA株式会社最高執行役に浜田宏氏就任のニュースリリース
http://www.hoya.co.jp/data/current/newsobj-578-pdf.pdf

HOYA株式会社R&Dのページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_06.cfm

HOYA株式会社の経営理念のページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_03.cfm

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