2011年5月31日火曜日

なぜ東京地裁民事8部で株主敗訴の判決が東京高裁で逆転勝訴になるのか

東京地裁の民事8部(通称商事部)ででた株主敗訴の判決が、東京高等裁判所(東京高裁)に控訴されると逆転で勝訴するケースが多々あります。山口三尊先生のレックスホールディングの事件が典型です。原弘産の日本ハウズイングの株主名簿閲覧請求事件もそうですし、同じく山口先生のサイバードもそうです。さすがにカネボウ事件だけは、あまりにひどいケースということで、一審の東京地裁民事8部でも株主勝訴です。確かに地裁レベルでは変な判決は結構ありますが、これだけ勝率に差があるのはなんか変?というのは明らかです。

先日和解した小生の株主提案に関する仮処分事件も、少なくとも債権者(株主側)の一部は認容する決定を出すつもりだったことは、担当の裁判官は口頭で小生に伝えています。あまりにひどいケースは、株主側請求でも認めていますね。なお東京地裁民事8部とほかの裁判所での商事事件でも、勝率が明らかに違うことは判例等を研究していると感じるところでもあります。小生の決議取消訴訟の裁判例と明らかに相反する「否決の決議の取消の利益はある」という判決文を書いたのは、山形地裁の裁判官です。

私の取消訴訟の判決などは、裁判所が明らかに説明義務に関する事実認定を曲げており、異常だといわざるを得ないと思いました。ただ裁判官たちも法律の訓練を伊藤塾などの司法試験予備校等で受けてきた人たちですので、事後的に検証されてぼろくそに言われると自分たちの立身出世にかかわりますから、さすがに「脅迫がない」とか、「適法な株主提案をとりあげなかったことが適法だ」というような意見は言っておらず、「取消事由ではない」といっただけです。この点は、はっきりと裁判での書面を示して、皆さんに判断していただきたいと思います。ただこの裁判は、形式的には原告敗訴ですが、実質的に勝訴です。鈴木洋氏は小生の質問を株主総会の議事録に掲載せずに、「原告は質問権を行使していない」などと述べたかと思うと、福井裁判長から総会当日の録画資料等の提出を求められると、質問したことにはするなど、支離滅裂ぶりを明らかにしています。会社側のめちゃくちゃな株主総会運営と主張を法廷の場で結果的に暴いていますが、最後に裁判官たちは「会社の総会運営方法がめちゃくちゃであっても、株主総会の決議の取り消し事由にはしない」と言っただけですからね。ぜひ訴訟記録を閲覧してみてください。個人的には、正論を貫こうとしていたにみえた福井章代裁判官から大門匡裁判官への変更には納得いきませんが。

それではなぜ東京地裁民事8部の判決が高裁で逆転する傾向にあるのでしょうか?(山口三尊先生はこのような背景を踏まえて、「民事8部は高裁の受付係」といっていました。)

①裁判官の天下りへのインセンティブです。民事8部の裁判官が、大手渉外事務所へのパートナー弁護士へ転身の下心を持つと、会社側に不利な判決を出すとそのような転身に悪影響を及ぼすと考えるみたいですね。法曹の天下りにはまだあまり注目が集まっていないので、これから若林亜紀さんに書いてもらいますので。

代表的なのはこの人(高山祟彦弁護士)ですが。裁判官だった人物が、次に物理的に同じ法廷(民事8部601号法廷)で弁護士として出てくることには、大いなる違和感を持たざるを得ないですが、いかがでしょうか?(以下山口三尊先生ブログより)
(ТМI総合法律事務所)高山祟彦弁護士:元東京地裁商事部の判事として、カネボウ営業譲渡差し止め事件で、株主敗訴の決定を書く。その後弁護士となりシャルレの代理人として、株主と敵対。

また法務省民事局付などというポジションがあり、私の相手方の泰田啓太弁護士(松尾・桃尾・難波法律事務所、当時は検事としてですが)や、山口三尊先生曰く「日本で最も株主の利益を侵害してきた」太田洋弁護士(西村あさひ法律事務所)などがかつて所属しています。この法務省民事局なるものは、法制審議会で御用学者を並べて法務官僚に都合のいい立法とするための局であり、特捜検察と並んで速攻おとり潰しにするべき不要な存在だと思います。政治主導の流れの中で、議員立法を強化する流れからいけば、議員立法をサポートする衆議院や参議院の法制局こそがエリートコースになるべきだと思うのですが。

議員が国民のために働かないのならば、自分で法案の素案を作って各議員の事務所を回るしかありません。今夜、知人と日本版ERISA法の立法をしようという話になりました。

②また日本の商法・会社法では、株主の権利が強く明確に規定されているという点があります。したがって、東京地裁民事8部の裁判官が解釈を捻じ曲げて会社側有利な判決を書いても、高裁の判事は株主の明文上規定された権利をそのまま適用して、逆転判決になることが多いのです。

③一つには裁判官の人事の問題があります。裁判官は任官すると地方の裁判所の判事をやらなければいけないなど、会社法や商法だけやっているわけではありませんし、一方で実務の世界はどんどん進んでいくので、裁判官がどんなに頭がよくて勉強をする気のある人でも、さすがについていけないということはあるのだと思います。裁判官は、日本の霞が関の官僚と同じように、特に専門性がないのですね。保全事件では裁判官と言葉を交わす頻度が高いのですが、(非公開の場ですが)その中で実務の感覚では変な発言を裁判官がすることは結構あります。

④あと③とも関連していますが、会社法と商法の経験が少ないために、民事8部の裁判官は企業法務を担当する大手弁護士事務所と勉強会などと称する交流会をやっています。そんなことが許されるのか、と言いたい。

しかし裁判所は、その権力の構造では、所詮は法律の解釈権を持っているにすぎないので、いくら東京地裁民事8部の裁判官が天下りの方向に目が向いていても、選挙で落とせる国会議員に国会で立法させてしまえば、すべてとは言えないにせよかなりの部分が解決します。やはり「資本市場改革関連法案」の立法活動しかないのでしょう。我々の年金を守るために、市民が立法をする仕組みを作りましょう。

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