2010年5月27日木曜日

眼科医薬に進出しないHOYA経営陣への疑問

私は常々疑問に思っているのは、HOYA株式会社の経営方針として、眼科医薬への参入を行わないことです。まさにこのことは、私が経営陣や取締役会の能力に疑問を持たざるを得ないという理由の一つでもあります。ペンタックスの買収資金の1500億円があったならば、おそらく加齢黄班変性症の有望な新薬候補をいくつも買えただろうと思うと、忸怩たる思いがあります。

まず眼科というのは国際的に見てどのような事業分野だと認識されているかというと、市場規模が急成長しており、また眼科医薬に関して低リスク高リターンです。これはどのような意味かと言うと、まず高齢化に伴い先進国では、加齢黄班変性症(AMD)、緑内障、白内障などの疾患になる患者数が急増しています。また糖尿病関連も眼に来ますので、眼科領域です。先進国は人口構成が高齢化しているので、これら分野は経済成長率をはるかに上回るスピードで市場としては成長しています。特に加齢黄班変性症(AMD)については、網膜の血管が繁殖することによって失明となる病気で、色素の弱い白人に多いが、日本でも食生活の欧米化により急増しています。この疾患は、現在のところ抗がん剤の転用による薬が認可されていますが、今のところ疾患の進行を遅くする程度の効き目しかなく、眼科の医療現場ではさらなる新薬が待たれています。市場規模は1兆円を越えるし、年成長率も15%とかの分野です。またほとんどの眼科医薬は、他の疾患の転用薬剤なので、毒性のチェックなどが不必要であり、開発や臨床の失敗のリスクが相対的に低いので、「低リスク高リターン」なのです。

このような背景のもと、眼科分野は世界の製薬会社や医療機器メーカーが参入してくる分野となっています。例えばアメリカにアルコン(Alcon)という会社がありますが、現在の時価総額は眼科専業の会社であるのに4兆円くらいです。もともとスイスのネスレが親会社だったのですが、最近同じくスイスのノバルティスという製薬会社が25%の株式を取得し、さらにネスレから残り50%の株式を買い取る権利を有しています。これは眼科新薬が他の疾患の転用であるという点にから、製薬会社が持つ製品のパイプラインを眼科に応用していくことを狙っているもので、戦略的には極めて合理的だと言えます。また別の眼内レンズメーカーであるAMOという会社は医療機器製薬大手のアボット社に買収されましたが、これも他の医薬を眼科分野にすばやく応用し、眼内レンズと組み合わせてマーケティングするという戦略を具体化したものだと思います。このように世界のライフサイエンスのリーディングカンパニーが参入してくる非常に魅力的な分野になっている、しかもHOYAは国内の眼内レンズの市場ではそれなりの地位を占めているにも関わらず、その経営資源を無駄に放置している状態になっています。

ちなみに取締役候補の一人であるBala Ambati博士は、加齢黄班変性症(AMD)の原因因子の一つに関する基礎研究で世界の第一人者の一人であり、またもう一人の取締役候補であるPaul Ashton博士はこの分野では有名な網膜に移植する薬物伝達デバイスの開発者です。

以上のような状態ですので、優れた眼内レンズをすでに商品として持っているHOYAは、眼科医薬に進出するのに極めて優れた位置にいると言えます(余談ですが6月に退社する元取締役の丹治宏彰氏は、以前この眼内レンズ事業を売却しようとしました。技術担当としても企画担当としても不適格だと言わざるを得ません)。同じ加齢黄班変性症の新薬を開発しても、製薬会社が売るのとHOYAが売るのでは、その効率性も違ってくるはずなのです。このような経営資源を持つ企業は、世界にほかにありません。それにもかかわらず、鈴木洋氏ら経営陣は眼科医薬部門への進出を何ら行おうとしていませんし、ペンタックスのカメラ部門に代表される資本効率の悪い部門に資源と資本を投入し続けています。このような現状を変えなくては、小生は考えている次第です。このような文脈から、Bala Ambati氏の提案も読んでください。当社の持つ経営資源である眼内レンズの開発や販売能力を、眼科分野での新薬の開発(優れた新薬候補の買収を含む)と組み合わせれば、私は北米を中心に5年から7年以内に世界を席巻できると考えています。

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