2010年5月14日金曜日

退任した取締役の報酬を開示させることの企業統治での意味

すでに一部で報道されているように、「退任した取締役の過去10年間の報酬を開示させる定款改正議案」を含む複数の株主提案を、平成22年6月18日に予定されているHOYA株式会社の株主総会に行いました。

なぜ退任した取締役の報酬開示が必要か、それは企業統治のきもは、①まず誰を取締役として選任するか、②そうやって選ばれた取締役にどのようなインセンティブをあたえるか、ということになります。

金融庁主導の内閣府令により、今年4月から1億円以上の報酬を得る取締役の報酬開示が義務付けられます。これは政権交代により、経団連から献金をほとんど貰っていない民主党政権が誕生したことの成果(金融庁は国民新党亀井静香大臣)です。しかしながら私から見れば、極めて不十分であり、取締役の家族に報酬を支払ったり、報酬でない手段で実質的にお金を渡す(例えば取締役の兄弟が国会議員だったら、そこに政治献金やコンサルタント報酬として渡すとか)などの方法が、今後ますます活発になると思います。経営者や取締役と株主の間でのプリンシパル・エージェント関係から生じる最大の問題は、業績努力とは無関係な報酬を、経営者や取締役が受け取ることです。本人らの能力や努力から発生した業績向上以外の理由で、彼らの報酬が上がるのは、社会的厚生の観点からはロスになるのです。基本的に、取締役と執行役の報酬は、基本的には全額株主に開示すべき、どんなに譲っても上位4名は開示するべきです。

今後この会社のみならず、退職してから顧問料やコンサルティング収入などの形で以前の取締役に報酬を渡すという形式がはびこってくると思いますので、この件については、今後より詳細な議論していこうと思います。例えば富士通秋草直之氏が取締役を退任しても、報酬を受け取っていたら、株主としては本当は困るわけです。現に秋草氏らが退任させようとした野副州旦氏(前富士通社長)に、辞める際の口止め料として二億円だかを渡すとか言っていたのをよく覚えておきましょう。私は以前より丹治宏彰氏の取締役と執行役からの退任を求めてきましたが、もし2010年6月の執行役退任後(注:取締役は2009年にすでに退任)も報酬をもらう扱いになっていたら、HOYA株式会社も似たようなものと言わざるをえません。このような状況の放置は、年金の運用先としての資本市場の瀕死を意味すると思います。第一生命さん、日本生命さんの議決権行使担当者の方も、ぜひご考慮のほど宜しくお願いします。

というか、鈴木哲夫名誉会長と山中衛相談役の2名の元取締役の退任後の報酬については、最高執行役鈴木洋氏と彼らは親族であるので、当然開示が求められるべきでしょう。鈴木洋氏の自宅の名義が鈴木哲夫氏であること、すなわち父親の家に住んでいるわけだから、当然です。報酬について関心のある人は、Lucian Bebchuk教授の共著を読んでください。なお私は、経営者の報酬が大きい自体を問題にはしていません。もし今後当社の株価が10年で10倍になれば、最高執行役の報酬が年間100億円でもかまわないと思っています(株主価値を増大させる優秀な経営者には能力相応の報酬を払ってもいいというのが、欧米の機関投資家の標準的な考え方です)。真の意味での問題は、経営者の努力とは無関係な報酬を、取締役や執行役が受け取ること、これを監視するために報酬の個別開示も必要だし、取締役退任後に報酬を受け取っている場合に非公開となっているのは問題なのです。

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