2009年10月23日金曜日

累積投票(cumulative voting)を禁じる会社定款の規定

株主提案などで取締役候補選出の議案が提出された場合にありうる論点として、累積投票(cumulative voting)の是非があります(リンクの英文ウィキペディア記事を参照)。
新会社法の第三百四十二条(累積投票による取締役の選任)を参照してください。

累積投票というのは、各人に1票より多い票を割り当てる投票制度のことです。日本のもし20票が割り当てられると、20票を一人または複数の候補者に投票することができます。例えば小沢一郎に15票、田中康夫に5票とか。 例えば20人の取締役の因数が決まっているとすると、5%の株主が1株20票をすべて集中的に候補者1名に集中させた場合、確実に取締役に代表者を送り込むことができるのです。

累積投票を認めていると、創業家などの少数株主の特殊利害が反映されるので、コーポレート・ガバナンスの観点からよくない注意事項と教科書に書いてありました。日本の古典的な見解では、役員同士の対立を引き起こすのでよくないというのが、その一つの類似した見解です。

一方で、株主民主主義も少数意見を一定レベル尊重するべきなので、少数株主の利害代表者を取締役会に送り込むことに、一定の合理性があるようにも考えられます。 累積投票制度がないと、51%の株主による取締役候補案はすべて可決されて、49%の取締役候補者案はすべて否決されるということになりますので、アンフェアに見えるわけです。少数者の意見を株主総会に反映させることは、議論や議決において、多様性確保という意味での民主主義の理屈、そして株主利益上も、重要なのではないかと思うわけです。取締役間に対立があっても、少なくとも70代以上の元経営者が社外取締役の過半数を占めるという時点で仲良しクラブ化して、ペンタックス買収とかの巨額無駄使いを容認している会よりは、はるかにまともでしょう。 というか複数の取締役間である程度の意見の対立があるのは、むしろ健全なのです。それが民主主義でしょ、ということです。

ちなみに累積投票での役員の選出は、日本の会社法では容認されていますが、多くの上場企業、例えばHOYA株式会社の定款では、累積投票での役員の選出を禁じています。私どもの運動では、次期株主総会での累積投票禁止部分の定款変更の株主提案も視野に入れています。 株主利益を尊重するはずの社外取締役を官僚出身者の天下りや渡りの対象にすることは、断じて許せません。 茂木友三郎さんのような重要な政府委員を務められている方は、そちらに専念すべきでしょう。 そんな片手間にできることでは無いんだよ、ふざけんな。

CFA協会の刊行物によれば、累積投票があることは、基本的には推奨ということだそうです(「上場企業のコーポレートガバナンス 投資家のためのマニュアル」を参照してください)。以下は7ページ目の記載です。

*累積投票 株主は、一名もしくは一部の取締役会候補者に対し、自己の株式に割当てられた議決権数を累積的に投票することができるかどうかを確認しなければなりません(「累積投票」)。

ちなみに、全米の代表的な機関投資家であるカルパースのガバナンス原則についても、以下の文著を参考について下さい。
http://www.calpers-governance.org/docs-sof/marketinitiatives/japanese-global-principles.pdf
累積投票については、「6 株主権利」(20頁)のところで触れられています。勿論、導入を推奨しています。 累積投票については、日本ではマスコミや学会、実務会でも、論点に一般的にはなっていませんが、これが国際的な潮流のように思えます。

ただ機関投資家や学者の間でもある程度の意見の相違があるようなので、累積投票の是非について、より詳しい方、どなたかご教示いただきたいのですが。いずれにせよ、累積投票の実現は、日本の資本市場における蟻の一穴になる可能性ありです。

参照(株主提案の書面の例)
提案1:累積投票を排除する定款規定を削除する。
提案理由:取締役会の仲良しクラブ化によるペンタックス買収の承認とその後の散々な結果により、当社の取締役会には株主価値最大化に照らしての欠陥が明らかになった。従来から経営陣は「株主価値の最大化」や「新規事業は重要」などと言っていたが、ここ10年で実効性のある企業価値の増加が未達成であることは、株価の推移からも明らかである。過去のベンチャー投資はすべて失敗しているし、いまだに何の実績もない丹治宏彰氏が執行役に就いているなど、様々なでたらめが長年放置されている。累積投票制度はこういった欠陥を是正し、少数株主からの代表を取締役会に送り込む可能性を高め、取締役会の多様な意見の確保を行うのに適している。昭和49年の商法改正時と当時では状況が変わっている。コロンビア大学のゴードン教授や、CFA協会、米国最大の年金基金であるカルパースも、株主が自らの意見を反映させる可能性が高められるとして同制度を推奨している。

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