2013年6月1日土曜日

平成25年6月21日開催予定のHOYA株主総会招集通知における重大な違法行為

会社は、以下の議案とその提案理由を、今回の株主総会の提案理由でも、一方的に不記載にしています(新株予約権の議案や、河野氏と江間氏の取締役選任議案は会社が提案していないので、反対提案や修正提案を不記載にしても問題ありません)。
会社提案の取締役選任議案の反対提案の議案の要領と提案理由を掲載しないと、明らかに取締役選任議案の決議取消事由になります(東京地方裁判所商事研究会編 『類型別会社訴訟Ⅰ・Ⅱ』の該当部分等を参照)。

特に、以下の議案のうち、取締役の選任議案に対する反対提案やその理由を不記載にすることは、株主による取締役選任権や議案の要領と提案理由の通知請求に対する重大な侵害です。

第11号議案 定款一部変更の件(代表執行役と最高経営責任者の世襲禁止)
[反対提案1]議案の要領:鈴木洋を取締役として選任しない。
[反対提案3]議案の要領:茂木友三郎を取締役として選任しない。
[反対提案4]議案の要領:児玉幸治を取締役として選任しない。
[反対提案6]議案の要領:小枝至を取締役として選任しない。
[反対提案7]議案の要領:麻生泰を取締役として選任しない。

以下の事態は、株主総会の運営という株主と取締役の間の唯一とも言ってよいような機会においてでさえ、取締役会による会社経営の適法化を担保するための最低限の自浄作用が機能していない証拠です。株主の皆様におかれましては、企業統治を適正化するために、少なくとも、鈴木洋氏、茂木友三郎氏(78歳)、児玉幸治氏(79歳)の取締役選任に反対してください。

HOYA株式会社 平成25年6月21日開催予定の定時株主総会の委任状勧誘参考書類

HOYA株式会社 平成25年6月21日開催予定の定時株主総会の委任状勧誘参考書類

私たちは、「HOYA株主の会」(「HOYA企業統治適正化委員会」に名称変更を検討中。暫定代表は株主山中裕を結成し、HOYA株式会社に株主提案を行っています。その目的は、同社の不適切な企業統治を是正し、さらには健全な取締役会のもと、材料科学の研究開発と眼科医薬部門への積極的に投資により、時価総額5兆円を目指せるような経営陣(なお当会ではオリンパス元社長のマイケル・C・ウッドフォード氏を有力な代表執行役候補者として指名委員会に推薦し、はたらきかけている)に刷新することを目的としています。「HOYA株主の会」としては、特に株主の皆さんから、以下の委任状をいただきたいを考えています。
(1)会社提案の取締役候補 鈴木洋、茂木友三郎(指名委員会委員長)、児玉幸治(監査委員会委員長)の3名は選任に特に反対(反対提案に賛成)。取締役候補 麻生泰、小枝至についても、反対(反対提案に賛成)。
(2)指名委員会から独立した取締役候補である高山征治郎弁護士選任議案に賛成(提案者は、高山氏から、社外取締役に選任された場合の就任承諾を得ています)。
氏名 高山 征治郎
生年月日 昭和14年(1939年)1月21日
略歴 昭和43年4月 弁護士登録(東京弁護士会所属)
昭和55年 日本弁護士連合会常務理事、財団法人法律扶助協会常務理事。弁護士として、上場企業を含む数十社の顧問等を務めたほか、法律事務所では、弁護士出身の国会議員である枝野幸男前経産大臣(民主党)や森雅子現少子化担当相(自由民主党)などの以前の上司としても知られる。
(3)企業統治を改善する定款一部変更議案(役員報酬の報酬個別開示、株主提案の議案説明文字数の1000字への増加、白票を会社提案については賛成、株主提案については反対とすることの禁止、執行役を交えない経営会議開催義務、取締役会議長と最高経営責任者の分離、監査委員会における告発窓口の設置、取締役会のためのリーガル・カウンシルの設立、委員会の執行役の承認を受けることなく使用できる予算枠の設置、代表執行役と最高経営責任者の世襲禁止)に賛成。
(4)会社の提出する新株予約権(「ストック・オプションとして新株予約権を発行する件」という議題)の反対議案に賛成、修正議案(「鈴木洋氏には新株予約権を付与しない。」との条項を、新株予約権発行の条件として、会社提案の新株予約権議案に対して明記する修正議案、「取締役本人および第一親等内の親族及び婚族の過去5年間の株式売却に関する情報の開示を条件とする」との条項を、会社提案の新株予約権議案に対して明記する修正議案、「行使価格を固定せずに日経平均株価のインデックス連動型の新株予約権とする追加条件を付与する」との条項を、新株予約権発行の条件として会社提案の新株予約権議案に対して明記する修正議案、「ペンタックス買収の失敗を含む技術経営の成果に関する第三者委員会を設置する」との条項を、新株予約権発行の条件として会社提案の新株予約権議案に対して明記する修正議案)に賛成。

(1)HOYA株価が低迷している理由
この会社の株価が中長期的に低迷している理由について、主力事業であるフォトマスク、マスクブランクス、ガラス磁気ディスク基板、眼内レンズ、コンタクトレンズ小売などの事業は、80年代までに作られたものであり、鈴木洋氏ら現経営陣の実績によるものではない、という理解が重要です。特に初代アイポットに内蔵されたHDDガラス基盤は独占していたので、2000年代半ばまでは高い利益を創出していたものの、その時点で代替品のフラッシュメモリーが近い将来台頭してくることはわかっており、だからこそ当時から別の将来柱となる事業を育てなければいけなかったのに、当時の経営陣である鈴木洋氏らは、一切真剣にこういった課題に取り組みませんでした。その代わりに行ったのは07年のペンタックス買収であり、こういった脈絡のない企業買収が当社の株価に極めてネガティブな影響を与えたのは、もはや誰の目にも明らかです(「HOYA株主の会」代表の山中裕は、2007年の時点でペンタックス買収に反対しています。日経ビジネス「HOYA、ペンタックス後の試練 鈴木洋代表執行役に親族からも批判の声」(2007年5月28日記事)を参照)。また13年来研究開発に脈略無い意思決定が継続し、取締役会によっても放置されています。①小林哲博士によって直近日本物理学会から受賞までしている無機EL研究を脈略なく突如として中止したこと、②見込みのない3C SiCの研究開発を継続したこと、③光通信部品エクスポーネント社への投資の失敗などであり、技術経営に関する支離滅裂な意思決定が継続していることにより、研究開発に事実上まったく成果がありません。またメディア事業の売却もネガティブな中長期的な企業価値からすると意思決定でした(中長期的な技術差別化要素を放棄し、当社はガラス板を供給するだけのメーカーに成り下がる結果になりました)。
詳細は紙面の制限もあり別に譲りますが、私たちとしては、①材料科学の研究開発に注力すること(特にサムソン横浜研究所に転籍した小林哲博士は1億円を払ってでも呼び戻すべき。東工大の細野秀雄教授ら材料科学の専門家を顧問に迎えるべきこと)、②眼科医薬の事業に参入すること(ユタ大学のバラ・アンバッティー博士らを顧問に迎えること)、の2点を特に推奨しています。当社の経営優位性があるのは、第一にガラスを中心とする材料科学分野の研究開発であり、第二には眼科領域です。眼科は特に世界的にも高齢化に伴い高成長を遂げている事業分野で極めて有望です(スイス同業のアルコンの時価総額は5億円近くありました)。ペンタックス買収を行うのであれば、加齢黄斑変性症の新薬候補でも買収するべきだったのです。そして重要な点として、以上のような問題について取締役会はいままで無関心であり、実質的に何の是正措置もとってこなかったことであり、このことこそが株価低迷の根本的な原因なのです。

(2)当社の執行役の能力と取締役会の不作為の罪
世襲経営者である鈴木洋氏は、昨今の経営者に必要とされている経営学大学院レベルの教育水準もなく、同氏が90年代後半のシリコンバレー滞在中に行った投資は10件余りすべて破産し、会社に数十億円の損害を与えています。もともと鈴木洋氏には、企業買収や新規事業などの投資で価値を創出する実績もなく、それをなしうるかどうかについても疑問を持たざるを得ないことを、強く主張しておきたいと考えています。萩原太郎氏も実質的に取りやめとなった日産自動車の燃料電池部門の開発責任者であり、特に新規事業等に実績もなく、学歴も東大機械工学科卒(学士)であって、その後に研究論文執筆や学会発表などの実績もなく、材料科学と眼科を主力事業とする(するべき)当社の技術担当の執行役としては不適任です。いい加減、当社では経営者の世襲は止めにするべきです。少なくとも、鈴木洋氏の外に、ペンタックス買収に賛成した茂木友三郎(78歳)、児玉幸治(79歳)の2名の取締役は早期に退任するべきで、常識的に考えて、70代後半の取締役が指名委員会や監査委員会のトップに居座っていること自体が極めて異常であり、早く新しい後任を見つけ、地位から去るべきです。また当社は、2010年に丹治宏彰氏(元最高財務責任者、元執行役、元取締役)が退任し、2012年には浜田宏氏(前代表執行役)が退任、そして今年の総会では江間賢二氏(取締役兼最高財務責任者)が退任します。特に浜田氏については、2011年11月に医療部門を強化するために代表執行役になると発表されたのに、翌年の4月には辞めることが発表され、6月の総会には出席もせず退任するなど、異常事態が続きています。このように現在の指名委員会は、後継計画を作成し、執行役を選任する努力を怠っていることは明らかです。
私たちは、少なくとも鈴木洋氏と萩原太郎氏を経営陣から外すべきですで、後任代表執行役として、欧州オリンパス事業を伸ばすことに実績もあるオリンパス元社長のマイケル・ウッドフォード氏が有力な候補だと考えています(同氏からは代理人を通じて「HOYAのことは尊敬しており、取締役会や国内の投資家も歓迎するのであれば、(HOYAの経営者になる)就任を考えたい」というコメントをもらっています)。

(3)不適切な企業統治の状況(株主権に対する不適切な扱いや、株主総会参考書類への虚偽記載)の放置と監査委員会の機能不全
当社取締役会は、株主提案の議案を取り上げないというような、株主権に対する不適切な扱いを複数年にわたって繰り返しています(以下の経緯を参照)。
9年総会 丹治宏彰氏の解任議案を総会に付議しなかった(慰謝料請求訴訟の対象:東京地裁平成24年(ワ)第14392号)。なお丹治氏は10年で当社から完全に退任。
10年総会 20議案のうち、取締役の解任議案、倫理規定の作成に関する定款変更議案等を不記載にした。(同慰謝料請求訴訟等の対象)
11年総会 東京地裁民事8部で一旦は和解成立。その後総会での動議無視、説明義務違反等につき、決議取消訴訟(最高裁係争中)も提起される。
12年総会では、株主提案を一つも取り上げないなどという前代未聞の事態(決議取消訴訟(東京地裁平成24年(ワ)第26403号)が審議中。慰謝料請求訴訟も近日中に提起予定)。
13年総会では、株主提案の提案理由の掲載を拒否していた会社側に対し、ついに仮処分で一部株主側勝訴の決定(東京地裁平成25年(ヨ)第20021号株主提案議案等記載請求仮処分事件)。
詳細については反論があり得るとしても、少なくとも提案者の主張内容は事後的に振り返ってみて、ペンタックス買収への反対や、取締役の再任回数制限9回に関する会社側説明(10年総会株主提案の後の11年総会答弁)、企業統治改善に関する定款変更の提案に40%前後の高い賛成票が得られていることなどから、取締役会は真摯にその主張内容についても対話等を試みるべきであるのに、いたずらに提案者を誹謗するような書面を裁判所に提出し続けています。もともと当社の役員らはなるべく紛争や会社の評判を下げるような事態を避けるべきです。
また当社は11年の株主総会招集通知において、「なお、当社では、昨年の当社第72期定時株主総会にて株主提案がありました株主提案の議案説明分量に関する定款変更、ならびに、社外取締役のみの会議開催に. 関する定款変更に関しましては、提案の趣旨に沿ってより適切な形で社内規定を改定し反映させております。」(11ページ)と株主に誤認させる記載を行いました。会社は株主の株主提案の説明理由につき、一方的に議案に関する説明文を削除しており、4000字までの記載を認めるとした「提案の趣旨に沿って」などというのは明らかに虚偽であり、また「執行役を交えない経営会議」についての報告は、開示資料から「その活動について少なくとも年に1度株主に報告しなければならない」したことはなく、一切見当たりません。このように株主総会参考資料に虚偽の記載をして公然と自浄作用が働かないこと自体が、取締役会や監査委員会の機能不全を表していると言わざるを得ません。
さらに本件株主提案では、ついに東京地裁民事8部(商事部)で、株主提案の提案理由を全文記載することに関する保全事件(東京地裁平成25年(ヨ)第20021号事件)で、一部勝訴の決定を得ることができました。これは前代未聞の裁判所の決定です。株主重視の建前であれば、企業統治で重視されているプロキシアクセス権といわれる、招集通知に株主による株主提案の提案理由を400字だけ記載することに、そもそも取締役会は抵抗するべきではなく、いかに当社の取締役会が企業統治の建前と実際にやっていることがずれているかが示されています。このような状況を積極的に主導している鈴木洋氏や、茂木友三郎氏、児玉幸治氏らは、責任を追及されるべきです。茂木氏再任は、取締役の再任回数制限9回とした11年総会会社側答弁と矛盾しており、児玉幸治氏は事故が多発して営業が一時中断していた東京ドームの監査役であり、また株主権という国際的な投資家が信頼を置いている要素に対し、監査委員長として誤解をまぬかれるような対応を公然と放置し、裁判所から提案理由全文記載を決定される事態を招いている責任も取るべきです。
当社では、中川知子氏という経営企画室幹部(「HOYA従業員持株会」理事長も兼務)が実務を実質的に支配しており、例えば同氏は株主総会参考資料の株主提案に対する取締役(反対)意見のドラフトを作成していることも明言しています。今年の株主提案に関する仮処分でも、中川知子氏が東京地裁民事8部の別室に控えており、会社と鈴木氏・萩原氏らの代理人である手塚裕之弁護士らは、いちいち審問室から出て行って、中川氏にお伺いをたてています。中川氏の行為は取締役会の機能や責任にオーバーライドしており、社外取締役が過半数の委員会設置会社においても、実質的に執行役傘下の一部経営幹部に多くの業務を実質丸投げしているか、少なくとも判断となる事実関係の情報を大きく依存していているため、鈴木氏らの問題のある行動に歯止めが利かないという、不適切な企業統治になっている疑いが濃厚です。このような企業統治は変えなければいけません。また報酬個別開示の議案は11年の総会で48.47%の賛成を得ていますが、取締役会はいまだこれだけ高い株主意思が示された提案内容を、実質的に実行しようとはしていません(中川氏が理事長の「HOYA従業員持株会」と鈴木哲夫氏の議決権行使を除くと、賛成率は50%を超えていたと思われます)。
かかる異常な事態を改善するため、指名委員会から独立した社外取締役候補を1人でも取締役会に送り込むことは、企業統治の改善につながり、ひいては経営行動についても株主の利益につながると考えますので、弁護士に高山征治郎氏に快諾をいただき、取締役候補にすることにいたしました。また特に鈴木洋氏、茂木友三郎氏、児玉幸治氏の取締役再任には反対します。
小枝至氏については日産自動車時代に自分の部下であった萩原太郎氏を代表執行役にしていることに反対している証拠がないこと、麻生泰氏についても鈴木洋氏の義理の兄である金田勝年氏は麻生太郎財務相が小泉内閣外務大臣時代に副大臣を務めるなど密接な人間関係があることなどから実質的に独立性がないと考えられ、また両氏とも不適切な株主提案権に対する扱いに積極的に反対している形跡が得られないことから、当会としては、選任に反対しています。
また新株予約権議案についても、当社は新株予約権を発行しても、株価の上昇につながっていないことに加え、以上のような企業統治や経営戦略の問題が放置されていることから、株主の皆さんに反対の意思表示をしていただきたいと考えています。そうでなければ、問題があることを容認した議決権行使結果になってしまいます。また詳細は記述しませんが、鈴木氏に新株予約権を付与しても、スズキインターナショナルや同氏の父親である鈴木哲夫氏らはその額をはるかに上回るような株式数の売却を行っており、鈴木洋氏親族の株主の売却には、特に監視が必要です。
なお会社提案の新任の取締役候補である内永ゆか子氏、浦野光人氏については、現在までのところ問題がないとは言い切れないにせよ、賛成していただいて結構です。

委任状は、少なくとも6月20日には送達するように、以下に送付してください。
松尾千代田法律事務所 弁護士 松尾明弘 宛て (電話番号 03-5209-0120)
〒101-0041 東京都千代田区神田須田町1丁目19  梅村・明照ビル 3F

勧誘者の連絡先
HOYA株式会社株主 山中 裕(HOYA創業家出身株主)
Twitter アカウント @yutakayamanaka、ブログ yutakayamanaka.blogspot.com
HOYA株主の会のFacebookページ(HOYA株主の会で検索し、いいね!をお願いします。)
https://www.facebook.com/pages/Hoya%E6%A0%AA%E4%B8%BB%E3%81%AE%E4%BC%9A/282677501858247?fref=ts
一人でも多いHOYA株主の皆さんとともに、新しい日本の企業統治と資本市場の歴史を作っていきたいと考えています。
以上。

2012年3月31日土曜日

HOYA株式会社の新旧取締役10名に会社法303条第一項違反の過料を課してもらう通知をしました

先日、東京地方裁判所民事8部商事過料係に、HOYA株式会社の取締役ら6名(鈴木洋、浜田宏、江間賢二、椎名武雄、茂木友三郎、小枝至の6名の被審人)に会社法303条第一項違反の過料制裁事由(会社法第976条第十九項)があるので、過料制裁を課していただくべく通知を行いました。斉藤書記官様、ご苦労様です。 なおさいたま地方裁判所の管轄内に住所のある河野栄子取締役、横浜地方裁判所に管轄のある児玉幸治取締役、塙義一元取締役、及び横浜地方裁判所川崎支部に管轄のある丹治宏彰元取締役には、それぞれの管轄の裁判所に通知を行っています。

事件番号を以下に示しておきます。
東京地方裁判所 平成24年(ホ)第40018号 被審人 鈴木洋
東京地方裁判所 平成24年(ホ)第40019号 被審人 浜田宏
東京地方裁判所 平成24年(ホ)第40020号 被審人 江間賢二
東京地方裁判所 平成24年(ホ)第40021号 被審人 椎名武雄
東京地方裁判所 平成24年(ホ)第40022号 被審人 茂木友三郎
東京地方裁判所 平成24年(ホ)第40023号 被審人 小枝至 
さいたま地方裁判所 平成24年(ホ) 第151号 被審人 河野栄子 
横浜地方裁判所 平成24年(ホ) 第188号 被審人 塙義一
横浜地方裁判所 平成24年(ホ) 第189号 被審人 児玉幸治 
横浜地方裁判所川崎支部 平成24年(ホ) 第43号 被審人 丹治宏彰

過 料 制 裁 を 求 め る 通 知 書
 平成24年3月22日 
〒100-8920 東京都千代田区霞が関1-1-4 東京地方裁判所民事8部 商事過料係(ホ) 御中 
通 知 人 山中 裕
被 審 人 鈴木 洋
被 審 人 浜田 宏
被 審 人 江間賢二
被 審 人 椎名武雄
被 審 人 茂木友三郎
被 審 人 小枝 至 

上記載の御庁管轄の6名の被審人らについて,会社法第976条第十九項に定める過料制裁の事由(平成21年,平成22年,平成23年度のHOYA株式会社の定時株主総会にて,会社法第303条第一項の規定による請求があった場合に,その請求に係る事項を株主総会の目的としなかった)があると思われるので,御庁による過料制裁を求める。かかる被審人らは,3年連続で通知人の株主による議題の提案権(会社法303条)や議案の株主への通知請求権(会社法305条)を侵害する行為を行っており,違法行為を継続しているものであり,社外取締役らもかかる違法行為を知りながら,公然と放置しており,我が国の上場企業として前代未聞であるとい言わざるを得ない状況が公然と放置されているのである。すでに複数の株主総会決議取消訴訟が提起されている(東京地裁平成22年34202号株主総会決議取消請求事件,東京高等裁判所(ネ)第3824号株主総会決議取消請求控訴事件,平成23年(ネオ)第963号株主総会決議取消請求上告事件,平成23年(ネ受)第931号株主総会決議取消請求上告受理申立事件,最高裁判所第一小法廷平成24年(オ)第261号,平成24年(受)第316号,東京地方裁判所平成23年(ワ)第24003号株主総会決議取消訴訟を参照)が,違法行為を行った時点での最高執行役である被審人鈴木洋だけではなく,社外取締役を含む6人すべての被審人に過料を科されたい。 なお被審人鈴木洋は,最近になってシンガポールへ登記上の住所を移転させているが,会社法303条第一項違反を根拠に会社法976条第十九項に定める過料制裁は,非訟事件手続法(明治31年6月21日法律第14号)の第161条によれば,「過料事件(過料についての裁判の手続に係る事件をいう。)は,他の法令に別段の定めがある場合を除き,当事者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。」とされるため,過料制裁の対象者が海外に住所を転出した場合には,提出以前の直近の住所地を管轄する裁判所が過料制裁を科すべきである。これは海外に転出すれば過料の制裁を回避できるというのは,法の趣旨に反することから当然のことである。なお被審人鈴木洋は練馬区石神井町所在の住居をそのままにしており,同人の実体上の住所は依然として東京都練馬区にあると見なすべきである。 記 第一 はじめに 被審人鈴木洋は,HOYA株式会社(東京都新宿区)の取締役および代表者最高執行役であり,被審人浜田宏と被審人江間賢二は,それぞれ同社の最高執行責任者と最高財務責任者を兼ねる取締役である。 その他の被審人である椎名武雄,茂木友三郎,小枝至は同社の取締役である。被審人椎名武雄は平成23年6月の定時株主総会で取締役を退任するまでの期間16年間取締役であった。被審人茂木友三郎は,平成21年冒頭から現在に至るまで(違法行為が継続している間)一貫して取締役である。被審人小枝至は,平成21年6月16日の総会で新任の取締役として選任され,就任し,現在まで取締役である。 同社では,平成21年6月の定時株主総会より,通知人の株主提案権を侵害しており,会社法303条第1項に違反する不正行為が行われている。 通知人は,HOYA株式会社の300議決権以上の株式を所有する株主である。 第二 平成21年度6月総会での違法行為による過料制裁の事由 平成21年6月16日に行われた株主総会において,300議決権以上を保有する株主である通知人から,丹治宏彰取締役の解任議案が提起されていた(甲第一号証を参照)にもかかわらず,被審人らは5月22日という株主総会の直前になって突如として連絡書(甲第二号証を参照)を通知人に送付し,かかる株主提案の議案を招集通知に掲載せず,株主総会での目的事項である議題・議案にもしなかった(甲第三号証を参照)。このことは,会社法303条に違反し,通知人の株主提案権を侵害する行為である。よって係る行為は,会社法第976条第十九項に定める過料制裁の事由となるので,御庁におかれては,小枝至を除く5人の被審人らに対して,過料の制裁を科されることを通知人は求めるものである。 なお被審人らは,かかる対象の取締役が本株主総会を持って退任するため,解任議案を株主総会に付議しなくてもいいという見解を表明しているようであるが,①会社法339条第1項は取締役の解任は「いつでも,」できるとしているのであり,②丹治宏彰取締役の取締役としての任期は本総会終結の時までであり,解任議案提出時には依然として取締役である,という2点から,当然ながら取締役の解任議案を付議しないことは違法であることは疑いがない。 また,③会社提案で招集通知には取締役候補者でなくとも,あらためて修正議案が株主総会当日に(被審人らにより予告なく)提出される可能性があること,④解任と退任では登記上の取り扱いも違ってくること,⑤解任議案が否決されないと,解任の訴え(会社法854条を参照)が起こせない,などを考えると,かかる被審人らの見解は妥当性を欠くものであり,かかる主張を認める判例ら裁判例も存在しない。 もともと会社法が認める株主の議題提案権,議案の要領の通知権は,株主間のコミュニケーションを円滑にするという立法趣旨があり,かかる適法な取締役の解任議案の株主提案を付議しないのは,違法というより他ない。なお平成21年度6月の株主総会では,被審人らは解任議案の対象である丹治宏彰を取締役から退任させたうえで,執行役として選任するという脱法的な行為を行っているが,解任議案が招集通知に記載されて株主間で議論していれば,かかる脱法的な人事は,米国のERISA法などにより我が国の生命保険会社よりもはるかに強い受託者責任を課されている投資家である外国人機関投資家が議決権の過半数を占める,HOYA株式会社の株主においては容認されなかった可能性が高い。さらに付け加えれば,丹治宏彰の人事については,平成22年度6月総会をもって丹治宏彰は執行役からも退任している。 以上のとおりであるので,平成21年度6月総会での違法行為については,小枝至を除く5名の被審人ら(鈴木洋,浜田宏,江間賢二,椎名武雄,茂木友三郎)に過料制裁の事由がある。 第三 平成22年度6月総会での違法行為による過料制裁の事由 平成22年6月に行われた株主総会において,300議決権以上を保有する株主である通知人から株主提案がなされていたにもかかわらず,被審人らは強要や脅迫が疑われるような行為で59の議案を20に削減させ,さらに議題として取り上げることを約束していた20の議案のうち5つの議案を招集通知に掲載せず,株主総会での目的事項である議題・議案にもしなかった。このことは,会社法303条に違反し,通知人の株主提案権を侵害する行為である。よって係る行為は,会社法第976条第十九項に定める過料制裁の事由となるので,御庁におかれては,6人の被審人らに対して,過料の制裁を科されることを通知人は求めるものである。以下において,平成22年度6月総会での違法行為に関する詳細を述べる。 平成22年6月に行われたHOYA株式会社の株主総会においては,300議決権以上を保有する株主である通知人(甲第四号証を参照)から,2月より59の議案からなる株主提案書が提出されていた。最終的な提案書については,平成22年4月22日付けの甲第五号証を参照されたい。被審人らは,指揮系統上の部下である中川知子ら(具体的には中川知子,本山雄一,岩田良子の3名の株主総会事務局の従業員。なお中川知子は,実質的に最高執行責任者である被審人浜田宏を超える実質的な権限を持っているとされる)に,「4月22日付書面にていただいております59議案につきましては,弁護士から権利濫用の可能性が非常に高い旨の見解が出されているところです。また,事務局としても,59議案全部を株主総会に付議することは,円滑な総会運営を阻害するものであって,他の株主様の利益を侵害するおそれが高いと考えており,この意見を取締役会に申し上げるつもりです。したがいまして,59議案全体の付議の可否を取締役会に諮った場合には,その全部につき不適法な株主提案として否決される可能性は低くないことを申し添えます。」(甲第6号証を参照)などという文書を送付させた上で,4月30日午前10時より,株主名簿の閲覧に訪れた通知人を岩田良子以外は面会の約束がないのにも関わらず,東京都江東区東砂の三菱UFJ信託銀行のビルの一室で取り囲ませた。 HOYA株式会社の幹部社員である中川らは,通知人が甲第五号証で提出した最初の20個の議案のみを取り上げることを頑として譲らず,どの議案の取り下げを行うかについて通知人の任意で行うことを一切認めなかった。実際に本山は,取り下げる議案をどれにするかについて,「ならないですけど,会社としてはこの20 できていますから山中様から,これで考えます。これに同意されるかどうかですから,その間はありません」「それは会社としては致しません。それは書かれているとおりです」「できないというかしないんです」(甲第十号証13ページ)などと言っており,冒頭の20議案以外の取り下げを強要している。またHOYA株式会社の幹部である中川知子は,通知人に対して再三に強い口調で「10万個,10万個議案を提出してきた人がいるとしますよね,10万個ですよ,10万個。それはやんなきゃいけないんですか」「10万個と100個はどう違うんですか」(甲第十号証7ページ)などと言って,ペンで机をしきりに叩き付けるなどの方法により通知人を恫喝しており,一株主という弱い立場である通知人が,自分の提出している適法な株主提案が,中川らの主導により招集通知に記載されないのではないかと畏怖するに十分である程度であることは明らかである。なお通知人は,ただHOYA株式会社従業員の岩田良子に対して,そのように言うのであれば従わざるを得ない旨を電話で伝えたのみで,書面で同意をしたこともない。その後,提案している株主提案議案が不掲載になることの恐怖におびえていたため,積極的に議案削除について抗議しなかったというだけである。このような一連の行為は,害悪の告知,脅迫であって,被審人らあるいは中川ら告知者は,株主提案を招集通知に記載し,議題にかけることを支配・左右し得る立場にあった(最判昭和27・7・25刑集6巻7号941頁)ので,脅迫罪の成立は疑いない。加えて,不法行為(民709条)も成立すると考えられる。さらにこのような脅迫手段を用いて株主提案権の行使を妨げたことは,正当な「権利の行使を妨害した」こととなり,強要罪(223条)も成立すると解するべきである。したがって,「議案数を減らさないとすべての株主総会全体を不適法なものとして不掲載にする」などと言って脅迫し,議案数を20に削減することを強要した(なお幹部社員中川知子らがかかる発言を行ったことに関しては,通知人と被審人らとの間で争いがない。甲第十二号証の2頁の「内容の発言をしたことは認め」などとする記載を参照)ことは,削減された39の議案に関して通知人による株主による議題の提案権(会社法303条)を被審人らが侵害したことを意味する。もともと通知人は59個の議案を提出していたのであり,かかる議案を「かかる議案の付議を取締役会に諮った場合には,すべての議案を不記載にする」旨を通告する文書を送付するなどしており,かかる脅迫行為により,通知人に株主提案の議題を20個に削除するように強要した。かかる行為は違法であり,株主提案の不記載にあたる会社法違反といわざるを得ないので,係る行為についても6名の被審人らに過料を科されることとされたい。 なおHOYA株式会社の従業員であった本山雄一は,甲第十号証にあるようなやり取りの中で,どの議案を取り上げるかを任意で行うことや,議案の併合等を認めないことを通知人に口頭で通告しているが,翌年の平成23年度の株主総会の運営では,会社は通知人の株主提案権の行使期限が過ぎたあとでも任意で議案の合併を行っている(甲第十五号証,甲第十八号証,甲第十九号証,甲第二十号証などを参照)。なおHOYA株式会社の従業員である本山雄一は,かかる不祥事の発生により同年の秋に同社から退社を余儀なくされているが,被審人らが行った株主総会運営の問題や違法性を被審人らが認識していることの傍証となることは明らかである。 さらに被審人らは,少なくとも甲第五号証記載の冒頭の20議案の招集通知への掲載を約束していたにもかかわらず,5月11日付の文書(甲第七号証「株主提案に関する連絡書(8)」)にて15議案のみを付議することを通知する文書を通知人に送付するに至り,インデックス型コールオプションの利用義務(甲第五号証14頁の議案79),企業倫理に関する特別調査委員会の設置(甲第五号証14頁の議案100),倫理規定の作成(甲第五号証13ページの議案76),取締役の株式保有義務(甲第五号証12ページの議案57),取締役5名解任の件(甲第五号証の議案111)の各議案を一方的に削除して株主総会を行うなどという,上場企業において前代未聞の行為を行った(甲第八号証「第72期定時株主総会招集通知」,及び甲第九号証「定時株主総会議事録」を参照)。なお,かかる5つの議案の付議を行わなかったことに関しては,通知人と被審人らの間で争いがない(甲第十一号証「答弁書」,甲第十二号証「準備書面(1)」を参考にされたい)。また,かかる被審人らによる行為は,通知人が同総会の決議取消訴訟を提起するにいたっており,現在最高裁判所第一小法廷で係争中である(事件番号は,平成24年(オ)第261号,平成24年(受)第316号)が,被審人らが行った違法な総会運営は,すでに会社法実務の関係者の笑いものになっている。 取締役の解任議案は,すでに平成21年度6月の被審人らの違法行為(上の(1))で述べたように,かかる議案の付議を行わなかったことは違法であることは議論を待たない。なお倫理規定の作成やインデックス型オプションの利用の議案については,平成23年6月21日の株主総会で係る議案と同趣旨,あるいは趣旨を含む株主提案(甲第二十号証の第16号議案「定款一部変更の件(取締役会による倫理規定の作成等)」と第21号議案「定款一部変更の件」(インデックス型ストック・オプションに関する議案)を参照)の付議を行っているので,取締役会自体が平成22年度の定時株主総会の違法行為を事後的に認めたのといってもよい。なお59議案から20議案への削減自体が違法行為で過料の対象となることは明確であるが,さらに掲載を約束したはずの20議案のうち5議案の不記載についての不当性について,より詳細に記述しておきたい。 (1) 議案111「取締役5名解任の件」を招集通知に記載せず,かつ総会で付議しなかったことについて 当たり前のことではあるが,会社法では取締役を「いつでも」解任することができる(会社339条)と規定している。委員会設置会社のように取締役の任期が一年とされ定時株主総会の終了をもって任期を終える取締役であっても,このような法的取り扱いはなんら変わるところがない。株主提案に係る議案について,当該株主は自己の議案の通知請求権を認められている(会社305条)。解任議案の内容を招集通知に掲載しなかったHOYA株式会社の対応は,このような通知人の株主としての権利を侵害している。またこれによって他株主が本議案の内容を知り,議案に対して投票する権利も侵害されたと言わざるを得ない。この他,実務上,解任と任期満了による退任では登記における取り扱いも異なることも重要である。このように解任議案を付議することの法的必要性は極めて高く,被審人らが主張する「法的必要性がない」とは考えられない。また法的必要性がないことが提案権を拒絶するいかなる正当事由に該当するのかについても,まったくもって不明である。 また仮に,被審人らが言う通り解任議案を付議する法的必要性がなかったとしても(通知人はこれを認めるものではない),法的必要性のない提案が適法な提案とならないと考える根拠も存在しない。なお取締役に対する解任の訴えを提起するためには,解任議案が否決されなければならない(会社854条1項)。大会社であり,支配株主が存在せず,かつ公開会社のような会社(HOYA株式会社がまさにそのような会社である)で,株主の総会招集請求権(会社297条)により役員の在任期間中に株主が臨時株主総会を開催することはコスト等を考えると困難であり,解任議案を付議するとすれば,株主は定時株主総会を活用することに合理性があるのであるが,定時株主総会で会社が解任議案を付議しなくていいのであれば,違法行為を行っている取締役らを追及する手段が限りなく限定されてしなうこととなる。以上のような理由から定時株主総会で解任議案を付議する意義は大きい。 通知人は,本総会という会議体において,取締役の職務に関する善管注意義務違反,忠実義務違反等などについての不法行為を問題として議論することを意図していたため,解任議案を提出し,提案理由も事前に参考書類に記述しておき,またその具体的な問題について,事実を指摘するなどの方法で,より突っ込んだ議論をする準備をしていたのである。もし取締役選任議案において,近日中に任期終了となる取締役の解任議案を株主総会に議案として取り上げなくても「法的必要性がない」(HOYA株式会社準備書面3ページ)などという理由で問題がないという暴挙がまかり通るのであれば,少数の株主が,株主総会という会議体で,いまだ公になっていない取締役の違法行為を他の株主に明らかにし,他の株主の賛同を得て,違法行為を行っている当該取締役を解任するといったことも実質的に不可能になる。 また新任の取締役が会社と委任契約を結ぶ前には,前年度の取締役が実質的に職務を行うことになるが,混乱時には株主総会で選出されたはずの取締役候補が誰も取締役に就任しないという事態も発生しうる。この場合混乱収拾時までは前年度の取締役が実質的に取締役として職務を行うことになるが,このうち違法な行為等を行っている取締役は当然解任し,一切の執務を行うことを停止する法的関係にしておくことに株主の利益があるわけであり,任期が切れる場合でも解任議案を付議せず参考書類に理由も載せないという被審人らの対応には,重大な瑕疵があるといわざるを得ない。 (2)議案79「定款一部変更の件(オプション発行時のインデックス型コールオプションの利用義務)」を招集通知に記載せず,かつ総会で付議しなかったことについて  議案79 定款一部変更の件(オプション発行時のインデックス型コールオプションの利用義務) は,「議案の要領 「ストックオプションを取締役,執行役及び当社の内部関係者に発行する場合,日経平均株価や産業分野の株価とリンクするインデックス型コールオプションを利用しなくてはならない」という条項を定款で規定する。」(甲5号証)とそもそも記載されており,通知人は,総会でインデックス型コールオプションの利用義務に関する議案を提出していた。インデックス型コールオプションとは,行使価格が日経平均や業種別の指数(インデックス)に連動する新株予約権(コールオプション)のことを言う。米国ではNASDAQやS&Pの株価指数に連動する金融商品の売買が広範に行われており,投資家-とりわけ機関投資家―であれば,インデックス型コールオプションが何を意味するかは容易に理解できるだろう。このような新株予約権は日本企業ではまだ利用されている例をあまり知らないが,経営者報酬の分野ではこれを推奨する研究論文が米国では存在する。例えば,今から10年以上前の1999年に発刊されたハーバード・ビジネス・レビューにおいて,アルフレッド・ラパポート名誉教授(ノースウェスタン大学ケロッグスクール)は,インデックス型コールオプションの利用を既に推奨していた。Alfred Rappaport, “New Thinking on How to Link Executive Pay with Performance,” Harvard Business Review77(1999):91-101.日本語訳として,「新・報酬制度:ディスカウント・インデックス・オプション」ダイヤモンド・ハーバードビジネス1999年10-11月号76頁以下参照(甲第二十三号証を参照)。同様に,Mark A. Klawson and Thomas C. Klein, “Indexed Stock Option: A Proposal for Compensation Commensurate with Performance,” Stanford Journal of Business & Finance 3 (1997): 31-50という論文もある。 被審人らは,インデックス型コールオプションが「具体的に何を意味しているかが全く不明確」であるというが,この苦し紛れの言い訳は,近時のストック・オプションをはじめとする業績連動型報酬制度とコーポレート・ガバナンスに関して取締役会の構成員が不勉強なだけであり,「日本には存在しない法律用語」だから付議しないなどという理屈が通るはずがない。「インターネット」という用語が日本で普及し始めた初期のころ,実務において「インターネット」という用語を用いた事例がないという理由で,「インターネット」という用語を使用した株主提案は付議しなくてよいのであろうか。通常の法律専門家や株主総会の実務担当者は,そのような解釈はしないであろう。会社法の分野で全米における論文の引用回数がトップ・クラスであるハーバード・ロースクールのルシアン・ベブチャック教授は共著者であるジェセ・フリード教授と共にその著書(Lucian Bebchuk=Jesse Fried“Pay without Performance”(Harvard University Press, 2004)。以下この文献Bebchuk=Fried(2004)と引用する)において,Indexed Optionの利用を明確に推奨している。現在下関市立大学で教鞭をとっている溝渕彰准教授(商法担当)は,Bebchuk=Fried(2004)の翻訳を福瀧博之教授(関西大学法学部教授)と共同で行っているが,Bebchuk=Fried(2004)の翻訳に際して,この用語について「インデックス型オプション」という訳語を使用している(甲第二十四号証を参照)。提案で用いられたインデックス型コールオプションはこれと同じ意味である。少なくとも機関投資家やハーバード・ロースクールの留学から帰ったばかりの若手裁判官(ハーバード・ロースクールのL.L.Mプログラムにはほぼ毎年,現役の日本人裁判官が入学し,その多くがベブチャック教授の授業を受講して来た。ハーバード・ローライブラリーの日本人ライブラリアンによると,2011年9月にハーバード・ロースクールのL.L.Mプログラムに入学した日本人全員(裁判官も含む)がベブチャック教授の授業を取ったという。授業ではベブチャック教授の著書やそれに関連した文献等の講読が要求されている。日本人の判事だけでもこれまで10人以上が当該授業を受講したと推定できる)や弁護士などの法律家,機関投資家の関係者などであれば,インデックス型コールオプションと言われて何を意味するのかすぐに理解できるはずである。被審人らや株主総会事務局の担当者そして顧問弁護士が欧米のコーポレート・ガバナンスの最新動向に関して無知であることは,本議案を株主総会の議案として付議しないことを正当化する理由にはならない。 なお本議案は,機関投資家等の専門知識のある投資家には高く評価される議案である。議決権行使助言会社として世界シェア第一位で,HOYA株式会社の機関投資家に対しても多大なる影響力があるInstitutional Shareholder Services Japan(ISS Japan)の石田猛行氏も口頭で良い議案であると興味を示していた。 (3) 議案57「定款一部変更の件(取締役の株式保有義務)」を招集通知に記載せずかつ総会で付議しなかったことについて 今日,一般的に,取締役に自社株(コール・オプションも含む)を付与すれば,取締役が経営陣を監督するインセンティブが高まると言われている。真面目に監督を行わないと経営陣が不正を行い,あるいは非効率な経営を行うため株価が下落し,その損失を,自社株を保有する取締役が引き受けることになるからである。 本提案は,株主と取締役の利益相反を避けるために,取締役に「就任した後」に取締役に一定の株式保有を義務付けるという提案である。取締役になる者の資格を株主に限定しているものではない。すなわち,取締役就任時点で取締役候補者が株主であることを要求するものではない。また取締役の資産状況により平均年収3倍程度の当社株式の保有が難しい場合には,代替措置を報酬委員会で作成し取締役会で承認すればよいとしている。すなわち,株式を所有しない取締役が存在する可能性を排除していないものである。従って本提案は取締役の資格を完全には株主に限っていない。例えば報酬の一部を新株予約権=コールオプションで与えてその売却を長期間制限することも考えられる。あるいは権利行使し取得した株式の売却を長期間制限することも考えられるだろう。これにより取締役に株式を保有させた場合と同様のインセンティブ効果が期待できる。少なくともこのような提案が,法令に違反した議案でないことは明らかである。 (4) 議案76「定款一部変更の件(倫理規定の作成)」を招集通知に記載せず,かつ総会で付議しなかった件  本件議案76は,「定款一部変更の件「議案76 定款一部変更の件(倫理規定の作成),議案の要領 「取締役会は,会社の業務執行に関する倫理規定を毎年作成して承認し,株主に公表しなくてはならない」という条項を定款で規定する。」」という提案であり,かかる提案を記載しない理由はどこにも存在しない。 倫理規定の作成は,経営陣の違法な行動に歯止めをかける効果を持ち得る。このため,米国の企業では倫理規定を作成して署名させるということは頻繁に行われている。実際にCFA協会の発行している「上場企業のコーポレート・ガバナンス」ガイドでは「企業が倫理規範を作成しているかどうか,また適切な倫理的枠組みを維持していることが,その企業の行動に示されているか確認しなければなりません」としている。更に,「実質的には倫理規範は,企業やその製品または株主を害するような企業代表者の行為を阻止しようとする企業のリスク・マネージメント指針の一部を反映するものです」として倫理規範の目的を定めている。HOYA株式会社のような代表執行役の不正行為に何ら内部的な歯止めがかからないような状況の時こそ,リスク・マネージメント(リスク管理)の方法としての倫理規範を定める意味がある。 旧来よりHOYA株式会社は,コンタクトレンズの未承認物質の混入問題,産業廃棄物の違法廃棄問題,公正取引委員会から排除勧告を受けたコンタクトレンズのシプラス偽造事件,ドイツでの独占禁止法にかかわる競争阻害行為など,度重なる不祥事を繰り返している。倫理規定を作成する意味は少なくなく,このような趣旨から本提案を行ったものである。  実際に例えば,米国公認会計士の試験の参考書では,経営陣の企業倫理が低い場合には,監査法人が監査契約を当該会社と結んでくれなくなる可能性について言及がある。また仮にも説明理由に何か問題がある記述があったとしても,その場合には議案の要領の説明理由の該当箇所を修正すればいいのであり,議題自体を会議の目的とすることを株主が請求している場合に,かかる議題を会議の目的にしなくていいことを正当化する理由にはならない。 (5)議案100「定款一部変更の件(企業倫理に関する特別調査委員会の設置)」を招集通知に記載せず,かつ総会で付議しなかったことについて 議案100は,「議案100 定款一部変更の件(企業倫理に関する特別調査委員会の設置) 議案の要領 「前取締役および前社長で相談役である山中衛氏の行為と企業倫理に関する特別調査委員会を株主総会後に設置し,その調査結果を設置後3カ月以内に株主に公表しなければならない」という条項を定款で規定する。」」という内容であり,通知人は,被審人らの行動に対して倫理的に問題があるとの情報を得ており,これを問題視していた。経営陣の行動について倫理的に問題があると認定されれば,監査法人から監査契約の打ち切りを通告されるリスクもあり,看過される問題ではないと考えられたからである。もっとも仮に事実関係などで本提案の議案の説明理由に異議があるのであれば,提案株主である通知人と十分協議し,訂正や削除を求めれば良く,一方的に議案を付議しないなどという判断を行うのは,違法である。 なお会社法は,取締役会の下に任意の委員会を設置することを定款で定めることも容認していると解される。本議案のように特別調査委員会の設置を定款で規定することも当然可能と解すべきである。また仮にも議案の要領やその提案に対応する説明理由に問題があったとしても,議題そのものを取り上げなくてよいことを正当化する理由にはならないことは明らかである。 第四 平成23年度6月総会での違法行為による過料制裁の事由 さらにHOYA株式会社の取締役である鈴木洋をはじめとする被審人らは,通知人が行った株主提案に対し,通知人から平成23年2月の時点で株主提案書の送付を受けている(甲第十四号証を参照,なお最終的な4月時点での株主提案は甲第十五号証を参照)にもかかわらず,4月に突如として大半の議案を不記載にすることを通告する文書(甲第十六号証「株主提案に関する連絡書(6)」を参照)を送り付けるに至っている(なお通知人の個別株主通知は甲十三号証を参照)。 かかる違法行為については,通知人によって御庁に保全申し立て(平成23年(ヨ)第20042号)を行ったところ,御庁から和解勧告があり,和解が一部成立している(甲十七号証,甲十八号証,甲十九号証などを参照)。しかしながら,通知人らは,通知人提出の株主提案の議題・議案の内容を一方的に自ららに都合のいいように内容を変更して株主提案に付議するなどの違法行為に及んでいる(平成23年度の定時株主総会招集通知は甲第二十号証を参照)。定時株主総会の招集通知と通知人の株主提案の間で,議案が異なっていることは,以下を参照されたい。なお被審人らが「当社では,去年の当社第72期定時株主総会にて株主提案がありました株主提案の議案説明分量に関する定款変更,ならびに,社外取締役のみの会議開催に関する定款変更については,提案の趣旨に沿ってより適切な形で社内規定を改定し反映させております」(甲二十号証11頁)などと虚偽の記載をしたうえで,株主提案について一議案4000字までの説明字数を認めていた旨を社内外に公表しながら,通知人の議案の多くの提案理由を一方的に削除し,あるいは元の意味を損なう程度に改ざんしている違法行為の詳細については,甲二十一号証を参照されたい。 株主提案の原稿 議題3 定款一部変更の件(取締役会規模の毎年の見直し義務) 議案の要領 「取締役の人員を10名以下とする。」とする定款規定を削除する。「取締役会または指名委員会は,最適な取締役会の規模について毎年見直し,株主に開示しなくてはならない。」という条項を,定款に規定する。 会社側参考書類の記載 第3号議案 定款一部変更の件(取締役会規模の見直し) 議案の要領 「取締役の人員を10名以下とする。」とする定款規定を削除する。 コメント 提案議題の内容を一方的に変更。議案の要領を一方的に変更し,「「取締役会または指名委員会は,最適な取締役会の規模について毎年見直し,株主に開示しなくてはならない。」という条項を,定款に規定する」の部分を一方的に削除。取締役会または指名委員会が,最適な取締役会の規模について毎年見直し,株主に開示する旨の趣旨が一方的に失われている。 株主提案の原稿 議題21 定款一部変更の件(取締役会議長と最高経営責任者の分離) 議案の要領 「取締役会の議長と最高経営責任者が,兼任することを原則として禁止し,取締役議長は社外取締役がならなくてはならない。特別の場合の例外については,株主総会招集通知または参考書類において,兼任が株主にとって最大利益であることを説明する株主への開示を書面で必要とし,代わりに指導的社外取締役を指名しなくてはならない。」という条項を,定款で規定する。 会社側参考書類の記載 第8号議案 定款一部変更の件(取締役会議長と最高経営責任者の分離) 議案の要領 「取締役会の議長と最高経営責任者が,兼任することを禁止し,取締役会議長は社外取締役がならなくてはならない。」という条項を,定款で規定する。 コメント 議案の内容を同一性が全く失われる程度に,一方的に変更。 なお和解調書では,「債権者と債務者は,債権者が提案した甲第3号証の2記載の各議題並びに議案の要領のうち,3,6,9,10,11,14,18,21ならびに42に相当するものが平成23年6月に開催される予定の債務者の第73期定時株主総会の招集通知に記載されること(中略)を相互に確認する」(甲第十九号証での(別紙)和解条項)とあるように,議案3(議題3 定款一部変更の件(取締役会規模の毎年の見直し義務) 議案の要領 「取締役の人員を10名以下とする。」とする定款規定を削除する。「取締役会または指名委員会は,最適な取締役会の規模について毎年見直し,株主に開示しなくてはならない。」という条項を,定款に規定する。)と議案21(議題21 定款一部変更の件(取締役会議長と最高経営責任者の分離) 議案の要領 「取締役会の議長と最高経営責任者が,兼任することを原則として禁止し,取締役議長は社外取締役がならなくてはならない。特別の場合の例外については,株主総会招集通知または参考書類において,兼任が株主にとって最大利益であることを説明する株主への開示を書面で必要とし,代わりに指導的社外取締役を指名しなくてはならない。」という条項を,定款で規定する。)について,「相当するもの」とあるように,議題の変更を認めるものではない。 日本の会社法の伝統的な議論では予想されていない違法行為を被審人らが行ってため混乱を回避するために説明を加えておくと,議案3においては「取締役会または指名委員会は,最適な取締役会の規模について毎年見直し,株主に開示しなくてはならない。」という条項を,定款に規定する。)」という部分が欠落しているので原文の趣旨が損なわれていることは容易に理解できるが,議案21において「原則として禁止し」「特別の場合の例外については,株主総会招集通知または参考書類において,兼任が株主にとって最大利益であることを説明する株主への開示を書面で必要とし,代わりに指導的社外取締役を指名しなくてはならない。」という部分の改竄がなぜ問題なのかと言えば,機関投資家の議決権行使の実務においては,「禁止」と「原則禁止であり,特別な場合の例外については,書面での開示を必要とする」というのは本質的に異なる議案とされる。すなわち会社の所有者であり,かかる投資から経済的な利益を得ることを目的とする投資家の立場からすれば,社外取締役に就任する人間がいなくなるなどの非常事態がありうることを考慮すると,定款で「取締役会議長と最高執行責任者が兼任することを禁止」する議案には,かかる慣行が最高経営責任者の暴走を抑止したりする取締役会の監督機能を向上させるとしても,非常事態に誰も取締役会議長をやる人がいなくなってしまったら取締役会の運営自体が成立しない恐れがあるとして,賛成票を投じることに躊躇する余地があるが,「原則禁止」であるが「特別な場合(例えば最高経営責任者以外の取締役全員が辞任してしまった場合)の例外については,書面の開示をすればよい」とある場合にはかかる心配がないので,賛成票を投じやすくなるのである。従ってかかる議案の中身の改竄は,現経営陣が株主提案の賛成票を低下させ,株主総会を有利に進めるための方策として機能する結果となっており,極めて不当である。 会社法303条第1項は「株主は,取締役に対し,一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次項において同じ。)を株主総会の目的とすることを請求することができる」とあるが,通知人の請求した議題と(機関投資家の議決権行使に影響がある程度に)実質が異なる議題・議案を会議の目的としたことは,会社法303条に違反し,通知人の株主提案権を侵害する行為である。よって係る行為は,会社法第976条第十九項に定める過料制裁の事由となるので,御庁におかれては,6名の被審人らに対して,過料の制裁を科されることを通知人は求めるものである。 なお被審人椎名武雄,被審人茂木友三郎,被審人小枝至らは,委員会設置会社の取締役として執行役の解任権限など強大な権限を持ち,また被審人浜田宏や被審人江間賢二も取締役であると同時に執行役であり,脅迫まがいの言動を繰り返す中川知子の直接の指揮系統上の上司が浜田宏であることや,被審人江間賢二が古参の役員であること,かかる違法行為の直接の証拠がさいたま地裁川越支部から送付されてきていること(事件番号平成23年(ヨ)第27号)などを考慮すれば,かかる行為に気が付き,さらに抑止することは容易であり,かかる違法行為を放置していること自体が,取締役の善管注意義務や忠実義務に違反するものであり,会社法303条第1項が「株主は,取締役に対し,一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次項において同じ。)を株主総会の目的とすることを請求することができる」とあり,かかる違反に対して会社法第976条第十九項が過料の制裁を規定していることからして,最高執行役鈴木洋以外の被審人らについても,過料制裁を回避できる事由にはなりえない。一方的に株主提出の議案の文面を変更するなどということは前代未聞であり,かかる行為がまかり通るのであれば,その他の多くの真面目に株主総会運営をやっている上場企業の努力はいったい何なのだということになる。以上のような被審人らの係る行為は,公序良俗に反するうえ,会社法303条に違反し,違法であるので,御庁においては,6名の被審人らに対し,過料の制裁を科されることにされたい。 第五 まとめ  以上のように,被審人らは継続して通知人の会社法303条第1項に定められた請求を無視し続けており,会社法第976条第十九項に定める過料制裁の事由に該当することは明らかであり,悪質であるので,早急に過料を科されたい。 

証拠方法 甲一号証 「丹治宏彰取締役の解任等」に関する平成21年度株主提案(平成21年4月14日) 甲二号証 連絡書(平成21年度5月22日)(HOYA株式会社株主総会事務局) 甲三号証 第71期定時株主総会招集通知(平成21年度) 甲四号証 個別株主通知(平成22年度) 甲五号証 通知人による平成22年度株主提案(平成22年4月22日) 甲六号証 株主提案に関する連絡書(7)(平成22年4月28日) 甲七号証 株主提案に関する連絡書(8)(平成22年5月11日) 甲八号証 第72期定時株主総会招集通知(平成22年度) 甲九号証 定時株主総会議事録(平成22年度) 甲十号証 「株主総会事務局による脅迫・強要行為について」 甲十一号証 「答弁書」(平成22年10月21日) 甲十二号証 「準備書面(1)」(平成23年1月20日) 甲十三号証 個別株主通知(平成23年度) 甲十四号証 通知人による平成23年度株主提案書(平成23年2月14日) 甲十五号証 通知人による平成23年度株主提案書(平成23年4月18日) 甲十六号証 株主提案に関する連絡書(6)(平成23年4月21日) 甲十七号証 証拠説明書(3) 甲十八号証 審尋調書(第1) 甲十九号証 和解調書 甲二十号証 第73期定時株主総会招集通知(平成23年度) 甲二十一号証 「議題と議案の説明理由の削除について」 甲二十二号証 定時株主総会議事録(平成23年度) 甲二十三号証 「新・報酬制度:ディスカウント・インデックス・オプション」 甲二十四号証 Bebchuk=Fried翻訳

2012年1月27日金曜日

大谷禎男弁護士(元東京地裁民事8部統括判事)は適切な対応を

さる1月12日午前10時より、東京地裁民事8部の601号法廷で、小生が原告である決議取消訴訟の第4回口頭弁論(被告:HOYA株式会社)が開かれました。
ちなみに裁判長は福井章代裁判長、合議のためあと2人の佐藤隆幸、川勝庸史の各裁判官が担当しています。川勝庸史裁判官は、以前の株主提案を一方的に削除する会社側の一方的な通告書が送られてきた際の保全事件も担当しています。
前回までに被告から提出されている株主総会当日の反訳書に改竄があるという主張に、さすがの裁判官たちも驚いたのか、この日で弁論が終結する予定であったのに、結審はせずに、3月15日に改めて期日が入るという結果になりました。

被告側の弁護士は、当日姿を現さない松尾眞弁護士以外には、泰田啓太(元検事、元法務省民事局)、鈴木毅、脇田未菜子(元判事補)の3氏(桃尾松尾難波法律事務所)ですが、さすがに改竄のある反訳書を提出することは、弁護士としての最低限のルールに反すると言わざるを得ないと思います。
しかもかかる被告の代理人は、平成22年度定時株主総会を巡る決議取消請求事件でも、挙手している発言者がいるのに<挙手なし>などと表示するなど、同じように改竄のある反訳書を提出していますので、これで2回目です。
ここまでくると、弁護士としてあるまじき非行だと言わざるを得ません。

実は桃尾松尾難波法律事務所には、大谷禎男氏という東京地裁民事8部の統括判事を務めた経験を持ついわいるヤメ判の弁護士が、カウンシルとして所属しています。自分の経歴がかかる違法性のある同僚弁護士の拍づけに利用されている側面があるのですが、さすがにかかる問題のある行動が野放図に放置されている現状に対し、一定の行動をとるべきだと思います。もし大谷氏に微塵もの良心があるのであればですが。

なお松尾眞弁護士には、かかる違法行為の連発に対し、すでに第一東京弁護士会に懲戒請求をしています。

2012年1月6日金曜日

大塚和成弁護士が、HOYA株主総会決議取消訴訟の地裁判決を正当に批判

カネボウ事件(価格決定)の株主側の代理人等を務めた大塚和成弁護士が、小生が原告として敗訴したHOYA株式会社株主総会決議取消請求訴訟の地裁判決(大門匡裁判長)を批判する記事(「否決の決議と株主総会決議取消しの訴え」(HOYA株主総会決議取消請求事件)「銀行法務21 No.734」2011年9月号)を書いています。

少し長くなりますが、大塚論文の本論ではないが、重要な一部を引用します。
「会社が株主提案を拒否しても、可決された議案と議題が異なれば、当該可決決議の取消原因とはならないとも判示している。そこで、株主提案が無視された場合、当該株主提案と議題を同じくする会社提案がなされなければ、当該株主は、株主総会決議取消しの訴えを提起することができない。そうすると、会社が適法な株主提案を無視し続けても、提案株主が株主総会の招集請求権(会社法297条)や取締役解任の訴え(同法854条)が定める議決権数を保有していなければ、司法的救済の途が閉ざされるとの問題が生じる。この場合、株主に残された手段としては、名目的慰謝料として1円の支払いを求めて取締役及び会社に対して損害賠償請求をすることくらいであろうか。」

以上にあるように、HOYA株式会社の最高執行役の鈴木洋や経営幹部の中川知子は、株主提案の議題を一方的に削除しても、会社提案の取消事由にならないという地裁判決を悪用することを思いついたようで、次の年の株主総会前の4月には小生の株主提案の大半を一方的に削除することを通知する文書を送り付けてきました。係る行為は違法行為であり、決して許すべきではありません。もし株主提案の議題を削除しても会社提案の取消にならないというのであれば、橋下徹大阪市長による関西電力への株主提案も、関西電力が拒否して決議すればいいということになっています。

なお以上の地裁判決は、あまりに問題があるということで、高裁で一部修正されています。高裁はまた、事実関係のあてはめがおかしいのですが。
高裁判決の問題点は、2つ上げると以下になります。
①インデックス型のストックオプションは、会社提案の
②解任議案と取締役選任(再任)議案は密接な関係があります。

この地裁の大問題の判決文を書いたのは、大門匡、秋吉信彦、岡部弘の3名の裁判官(東京地裁民事8部)です。現在本事件は最高裁に上告しています。民事8部はいい加減にしなさい。

2011年8月7日日曜日

HOYA株式会社の株主提案の成果

HOYA株式会社の株主提案の成果

2009年 丹治宏彰氏の解任議案の提出(株主総会前に丹治宏彰氏は技術担当者から退任した)
2010年 15議案の株主提案(決議取消を東京高等裁判所で係争中)
2011年 20議案の株主提案(決議取消を東京地方裁判所で係争中)

2009年株主提案の成果
10年近くの間、研究開発にまったく成果のなかった丹治宏彰氏の最高技術責任者からの交代(なお丹治宏彰氏はその後1年間だけ企画担当執行役と横滑りし、2010年6月18日に執行役からも退任)。なお会社は一方的に不記載とする文書を送付してきた。

2010年株主提案の成果
株主提案の説明文字数増加の議案の実質化(2010年8月に株式取扱規則の改定により形式上は実現。ただし会社側は一方的に説明理由の削除等を行っている)
執行役を交えない経営会議をやっていると表明している(2011年6月の株主総会参考資料)

2011年株主総会での成果
年齢が40代の取締役候補も含む取締役候補者の選任を表明せざるを得なくなったこと
社外取締役の再任回数9回までの制限の明確化(議長答弁を引き出すことに成功)
取締役会仲良しクラブ化の象徴である椎名武雄氏の退任(2011年6月21日株主総会で実現)

その他全体的な成果
個人による株主提案がポジティブに社会的に評価されるようになったこと(2011年6月のみずほFGに対する株主提案が、国内の投資家からも高い支持を集めるようになった。東京電力の株主総会の社会問題化)
委員会設置会社の企業統治の問題点の指摘
投資家による議決権行使の問題が注目されるようになり、国会(衆議院財政金融委員会)でも取り上げられるようになったこと

2011年7月23日土曜日

日本版ERISA法制定の必要性と議決権行使について

以下、日本版ERISA法(従業員退職所得保障法)の概略を提示します。なお本件に関して助言を受けたい政策担当者(当然ながら衆参の国会議員も含む)は、ぜひ小生の電子メール(yy2248[at]columbia.edu [at]を@に変えてください)まで、ご遠慮なくご連絡ください。

     日本版ERISA法制定の必要性と議決権行使について

国民の最大の政治的関心事は、年金問題である。日本人の年金資産のかなりの部分が日本株等で運用されていることを考慮すると、労働者・年金受給者の受益権の保護を明文化し、資本市場の効率化を行う政策を採用することが、極めて重要である。

また、年金受託者(運用会社等)に対して、受益者の利益になるための株主総会での議決権行使を義務付けることが重要だと考える。日本の富を増やす構造改革のための、社会的なインフラ整備の一環である。

1. 現状

大前提として、日本の株式市場は、過去10年間あるいは20年間で、先進国中最低のパフォーマンスを記録しているという事実が存在する。年金の少なからぬ部分が日本株で運用されている現実を考えると、日本の株式市場(=資本市場)を活性化することは、日本人の年金資産を守り増やすために、非常に重要なことである。このため、日本の株式市場に於いて、経営者や取締役が株主の利益を考慮して行動する様な規律を導入することが、決定的に重要である。
しかしながら、米国に於いては、後述のように、年金資産の運用に於いて、その保有株式の議決権行使のガイドラインが受託者責任の観点から厳格に定められているのに対して、日本に於いては、法令上の規定は存在しない。

2. 日本版ERISA法の制定

従って、日本版ERISA法を制定する必要がある。
内容は、米国版ERISA法(後述)と同様なものが望ましいが、日本に特有の問題として、生命保険会社の一般勘定の存在がある。一般勘定資産も、その運用成果次第で保険契約者の受取る配当が異なってくるという点に於いては、年金資産と同様な性格を持つと言える。しかしながら、現実には、一般勘定の資産を用いて生命保険会社が行っている株式投資に於いては、生命保険会社はそれらの株式を基本的には政策投資として扱っており、契約者の利益は無視されているのが実情である。従って、日本版ERISA法の制定に際しては、生命保険会社の一般勘定もその対象に含めることが必要である。

3. ERISA法とは

米国で1974年に制定された従業員退職所得保証法(ERISA:Employee Retirement Income Security Act of 1974)の通称。企業の退職給付制度を包括的に規制する連邦法。
受給権の保護を最大の目的としている。具体的内容として、加入資格・受給権付与の基準、情報の開示、最低積立基準の設定、受託者責任の明確化と強化、制度終了保険などが導入された。

4. ERISA法で定める受託者責任について

ERISA法第404条に於いては、受託者の忠実義務を以下の様に定めている。

(1)(前略)受託者(fiduciary)はもっぱら加入員および受益者の利益のために以下のように、制度に関する義務を果たさなければならない。
(A)下記のみを目的とすること
(ⅰ)加入員および受益者に給付を行うこと
(ⅱ)制度管理のために合理的な経費を支出すること
(B)当該状況下で、同様の立場で行動し同様の事項に精通している思慮深い人(a prudent man)が同様の性格および目的を有する事業の運営にあたり行使するであろう注意、技量、思慮深さおよび勤勉さ(the care, skill, prudence, and diligence)を用いること。
(以下略)

5. 受託者責任と議決権行使の関係について

ERISA法で定める受託者の忠実義務に、年金資産で保有する株式の議決権を適正に行使することも含まれることが、1988年に化粧品大手エイボンの年金基金の受託者に対して米労働省から出された所謂「エイボン・レター」に於いて明確化された。エイボン・レターのポイントは以下の通りである。

①議決権行使と受託者責任との関係
・年金基金が保有する株式の議決権の行使は、受託者がなすべき資産運用行為に含まれる。
②議決権行使に関する権限と責任
・投資顧問会社等の運用機関に投資を委任した場合には、もっぱら運用機関議決権
行使の義務と責任を負う。
・ただし、基金規定に明記しておけば、指名受託者(基金規定で定められた責任者)が議決
権行使権限を留保できる。その場合には、指名受託者がその義務と責任を負う。
・指名受託者は投資顧問会社等の運用機関の議決権行使を監視しなければならない。労働省としては、行使、監視の各行為について、(手続きや基準の)文書化・記録の保存が必要と考える。
③議決権行使の基準
・受託者は、思慮深く、もっぱら加入者の利益ために議決権を行使しなければならない。
つまり、投資の価値に影響を与えるであろう要素を考慮して、加入者の退職所得に関する利益を無関係な事項に劣後させてはならない。

参考文献
『企業年金運営のためのエリサ法ガイド』石黒修一著 中央経済社2008年
『年金資産運用のためのエリサ法ガイド』石黒修一著 中央経済社2003年
『エリサ法の政治史 米国企業年金法の黎明期』ジェイムズ・A・ウーテン著 みずほ年金研究所