2008年5月28日水曜日

「5年前から分かっていたこと」

以下の発言について。

ロイターサミット:HOYA、今後数年で10─50億ドルのM&Aが必要
http://ascii.jp/elem/000/000/134/134949/
http://special.reuters.co.jp/contents/techsummit_article.html?storyID=2008-05-21T200139Z_01_NOOTR_RTRMDNC_0_JAPAN-318982-1.xml

[東京 21日 ロイター] HOYA<7741.t>の鈴木洋CEO(最高経営責任者)は21日、ロイター・テクノロジー・サミットの席上で、事業ポートフォリオの分散化を図るため、10億─50億ドル(約1000─5000億円)規模のM&Aを仕掛ける必要があるとの認識を示した。
鈴木CEOは「(手元の)現金が15億ドル(約1500億円)というのは多過ぎる。今後2─3年でかなりの規模の買収をやっていかないといけない」と述べた。現金と借入金による買収を想定しているという。

ロイターサミットでの鈴木洋氏の発言内容は、「5年前から分かっていた事」という私の以前のコメントの論理的正当性を、まさに裏付けた内容です。なぜならば、「(手元の)現金が15億ドル(約1500億円)というのは多過ぎる」というが、それは5年前の2003年の段階でも同じ状態だったからです。

私のコメント:
HOYAの経営課題と事実関係について
2008年1月3日 山中 裕
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoya_08.html

日経ビジネス記事(2007年5月28日):HOYA、TOB合意後の「試練」http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070524/125459

ご承知のとおり、2007年第四四半期の決算で、約1500億円を費やした買収対象の旧ペンタックス社部門の赤字転落が発表されました。株価は2007年第三四半期発表の決算後に急落し、2年間で45%近い下落となっており、お話にならない状態です。「今後2─3年でかなりの規模の買収をやっていかないといけない」というのは、それは5年前以上から分かっていたことにすぎません。株価が急落してからでは、遅すぎるのです。

また余剰資金があったとしても、社内のプロジェクトに資金を使うこともできるわけですから、鈴木洋氏の発言内容は、買収でしか新事業を作れないこと、つまり社内の研究開発能力が低いこと、そこを経営上いままでおろそかにしてきたことも、いみじくも露呈させて、認めた格好です。

このような発言が、最高経営者として適切であるかについても、私はそもそも疑問です。例えば、任天堂(http://www.nintendo.co.jp/)の新世代ゲーム機「Will」や、Boston Scientific社(http://www.bostonscientific.com/)のDES(Drug Eluting Stent:薬剤溶出ステント)は、年間数百億円(あるいはそれ以上)の利益を生むにいたった社内開発の成果ですが、類似の企業価値を増大させる製品開発能力が、HOYA社内にないということを、明言すること自体、いったい何なのかと感じます。
HOYAが優良企業といわれるようになり、最近になり株価が急落したその歴史を見ると、結局のところ、株主価値を増やすということは、地道な研究や製品開発を行うことに尽きるということが結論できると思います。なるべく早く、その任務に適任な人材を、技術開発の担当者に任命すべきです。

「君たち、何か理由があって、会社の価値が増えないように、わざとやっているの?」と聞きたくなるような状況です。だからお願いだから、どうにかしてほしいというのが、私の正直なところです。

HOYA株式会社のホームページ
http://www.hoya.co.jp/

HOYA株式会社(ウィキペディア記事)
http://ja.wikipedia.org/wiki/HOYA

日経ビジネス記事(2007年5月28日):HOYA、TOB合意後の「試練」http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070524/125459

Nikkei BP Net 記事(2007年8月8日):HOYA、TOB成立は単なる一里塚http://www.nikkeibp.co.jp/news/biz07q3/541954/

HOYA株式会社の会社概要のページ
http://www.hoya.co.jp/HOYA_DYNAMIC/index.cfm?fuseaction=company.about

ペンタックスのページ
http://www.pentax.jp/japan/index.php

HOYAの経営に関する私の文章(2008年1月3日)http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoya_08.html

HOYAのCOOに浜田宏氏就任
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoyacoo.html

HOYA株式会社最高執行役に浜田宏氏就任のニュースリリースhttp://www.hoya.co.jp/data/current/newsobj-578-pdf.pdf

HOYA株式会社R&Dのページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_06.cfm

HOYA株式会社の経営理念のページhttp://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_03.cfm

2008年5月24日土曜日

ボストン・レッドソックス戦の観戦記(5月21日22日)

5月20日21日のボストンの大リーグ球団、ボストン・レッドソックス(Boston Redsox)の試合(対カンザスシティー・ロイヤルズ(Kansas City Royals))に行ってきました。カンザス・シティーの監督は、去年まで日本ハムファイターズの監督だった、トレイ・ヒルマン(Trey Hillman)氏。

ボストン・レッドソックスのホームページ
http://boston.redsox.mlb.com/index.jsp?c_id=bos

カンザスシティー・ロイヤルズのホームページ
http://kansascity.royals.mlb.com/index.jsp?c_id=kc

ヒルマン監督のサイト
http://www.baseball-reference.com/bullpen/Trey_Hillman

20日(水)は、2005年アメリカンリーグのサイヤング賞(Cy Young Prize)のバルトロ・コロン(Bartolo Colon)のレッドソックスでの初先発。初回にアメリカン・インディアン初の大リーガーの人気選手ジャコビ・エルスバリー(Jacoby Ellsbury)の先頭打者ホームランが飛び出す。2回表に1点、5回表に1点ずつとられて逆転を許すも、5回裏にジェイソン・バリテック(Jason Varitek)のホームランで追いつくと、一挙に4点、7回裏にもエルスバリーがヒットですかさず盗塁、ダスティン・ペドロイア(Dustin Pedroia)のヒットで得点。6回からハンセン(Craig Hansen)、ロペス(Javier Lopez)、デルカーメン(Manny Delcarmen)、ティムリン(Mike Timlin)の継投で1点に抑え、勝利。

バルトロ・コロンのページ
http://en.wikipedia.org/wiki/Bartolo_Col%C3%B3n

ジャコビ・エルスバリーのページ
http://en.wikipedia.org/wiki/Jacoby_Ellsbury

ジェイソン・バリテックのページ
http://en.wikipedia.org/wiki/Jason_Varitek

21日(木)は、1時半ころの開始。それまでハーバード大学の本屋などを物色する。試合はまず松坂大輔投手が登板。これまで7勝0敗としているが、初回にいきなり1点取られ、投球回数も30球を越える(注:大リーグの場合、投手分業が徹底しており、投手生命の維持の観点もあり、先発は100球程度をめどにして降板するのが一般的)が、2回の裏になんとJD ドリュー(JD Drew)が満塁ホームランで4点。3回裏にも1点をとるも、5回表に2失点で追い上げられ、6回表途中で松坂は降板して、ロペスに交代。ロペスは何とか抑える。ところが6回裏に、ペドロイアの2点2塁打と、主砲ラミレス(Manny Ramirez)敬遠後のローウェル(Mike Lowell)の満塁ホームランでさらに4点として、11-3として試合を決めたかに見えた。ところが、今年のレッドソックスはブルペン投手がいまいちピリッとせず、7回のハンセンが2失点、8回ここまでのシーズンは比較的良く、防御率2点台前半のアーズマ(David Aardsma)が運の悪いヒット2本後の、3ランホームランで3点を失い、11-8となる。9回表には抑えの守護神パペルボン(Jonathan Papelbon)を投入。今年のパペルボンは、2回連続で救援に失敗した記憶がよみがえる。2アウト後からヒットで2人ランナーが出て、一打同点のピンチ。3番のゴードン(Alex Gordon)の打球は左翼に飛ぶ大きなあたりで、特に左翼がグリーンモンスターと言われる狭い球場だけにヒヤッとさせられるが、エルスバリーが取ってアウトで試合終了。

なお岡島秀樹選手は、今回は試合では見ることができなかった。ロイヤルズは、薮田安彦選手が登板。今回は相手のチームだが、個人的にはがんばってほしいと思う。

松坂大輔選手のページ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BE%E5%9D%82%E5%A4%A7%E8%BC%94

マイク・ローウェルのページ
http://en.wikipedia.org/wiki/Mike_Lowell

ジョナサン・パペルボンのページ
http://en.wikipedia.org/wiki/Jonathan_Papelbon

マニー・ラミレスのページ
http://www.mannyramirez.com/home.htm

薮田安彦選手(ロイヤルズ)のページ
http://ballplayers.jp/yabuta/

以上のとおりで、両ゲームともそれなりにスリルのある試合であり、特に一試合2満塁ホームラン(Grand Slam)が見れたのは幸運。

大リーグで特に思うのは、観客に若い女性が多いこと。観客席からのゲームの盛り上げ方が、ロック・コンサートに似ているように思える。ロック・コンサートとK1を同時に体験しているようなものと言ったら言い過ぎか。けれども、選手の動きがよりダイナミックであり、そこにも面白さを感じる。

またこれはフェンウェー・パーク(Fenway Park)の特徴でもあるのだが、ファールゾーンが小さく、観客席と球場内部の間の柵などもないので、選手が近く見えるし、ファールのときに選手を触れたりすることもある。

またここでは今回は詳細は省略するが、エンターテーメントとしてのスポーツビジネスとしての運用方法も、一つ一つ面白いと感じる。若い女性の皆さんも、ぜひボストンまで遊びに来てください。

2008年5月20日火曜日

鈴木哲夫氏による経営改革は結局のところ失敗

鈴木哲夫氏による経営改革は結局のところ失敗
2008年5月20日 山中 裕

私の伯父である鈴木哲夫氏は、私の祖父の山中茂氏が病気で倒れてから、40年以上HOYA(旧保谷硝子)の経営に携わってきました。会社が世の中に受け入れられて発展できたのは、鈴木哲夫氏とその世代の経営者の経営手腕に負うことが大きかったのは事実ですが、様々な事柄に関して、客観的に見なければ、発展的な議論を行うことはできません。

2007年度第三四半期、第四四半期の大幅減益の決算内容と、年初来の株価の急落により、HOYAの経営陣は2000年以降に企業価値の増大に完全に失敗してしまったことが明らかになりました。残念なことですが、取締役半減や社外取締役制度の導入は、他の日本の会社にも同様の形態が導入されるきっかけになった貢献はあながち否定できませんが、HOYAの企業価値を増やすことには、結局のところ、まるで役に立ってこなかったというのが真実です。

すでに述べたように、2008年3月31日のHOYAの株価の終値は、2,340円でした。鈴木洋氏らが経営陣に就任内定した2000年5月末の株価が9990円(4分割修正後の値で2497円)、2000年6月末(30日)の株価は9500円(4分割修正後の値で2375円)ですので、株価は実際には8年間で下がっていますので、結局のところ、8年間でまったく企業価値を増やすことができなかったということです。一部マスコミの提灯報道があろうとも、株価は経営者にとっては通信簿のようなもので、企業価値を中長期的には反映する指標であり、決して誤魔化しが効かない。

同様にいくつかの場所で私が述べたように、すでに観察能力の欠如したマスコミ報道により、世間では完全に誤解されているわけですが、私が言いたいことを簡潔にまとめておきます。私の問題提起が、今後の株主利益の増加にとって、少しでもプラスに働けばと思っています。

①HOYAが高収益企業になったのは、70年代初頭に獲得したガラス研磨技術のおかげ。ガラス研磨技術の応用商品は、技術的な参入障壁が高いため、高収益となった。80年代に地道に事業として育て上げ、90年代に急成長の原動力となるべく、花を咲かせたことによる。材料科学メーカーの技術開発のタイムスパンのあるべき姿をあらわしている。マスクブランクス、フォトマスク、ガラス磁気ディスク基盤、光学レンズの四天王は、いずれも80年代後半までに開発された商品である。真に賞賛されるべきは、鈴木哲夫氏らによる70年代から80年代の経営姿勢であって、ガラス研磨技術の圧倒的な優位性と、そこから出てくる潤沢なキャッシュ・フローにより、90年代後半以降のお粗末な経営が、外から見えにくかったと言うのが真相。

②90年代後半以降15年近くにわたって、HOYAには新規事業の創出実績がない。鈴木洋氏が現地法人責任者時代にシリコンバレーで行った投資は、ほとんどすべて破産に終わり、企業価値に多大な損害を与えた。優良案件の獲得の仕方、投資銀行の使い方、技術開発型企業の評価の仕方、ベンチャー投資界での人脈の作り方など、すべてにおいて合格点を与えられないような惨めな内容。

③2000年代前半より、大手機関投資家からも、余剰資金の使い方についてクレームがつけられていたが、成長率鈍化が明らかになった2005年ころからも、経営陣は何も手を打てなかった。代替品であるフラッシュ・メモリーの台頭などにより、既存事業の将来性が危ういことは、2004年にはすでに内部関係者にも認識されていた。そこでようやく行ったのが、1500億円での戦略なき高値掴み的なペンタックス社の買収。経営陣は株主価値に多大な損害を与えた。

④社外取締役は取締役会を仲良しクラブ化しており、執行にあたる役員の監督機能を果たしているとは到底いえない。私は②や③にある問題について、以前より気がついていたが、結局のところ、株価が2年で45%急落する以前に、何も手を打てなかったということ。株価が急落して気がついてからでは遅すぎる。北米の上場企業ならば、善管注意義務違反と指摘されてもおかしくない。

⑤社内R&Dも、実質すべて失敗に終わっている。2004年買収のRadiant Images社の競合他社への知的所有権売却は、株主総会で問題にすべき内容。3CSiC事業の子会社も2007年に上場予定と5年前に発表も、まったく成果がない。売り上げ初年度数億円を見込むとしたXponent Photonics社は、見事に破産に終わった模様。技術担当者を交代させなければ、何のために指名委員会があるのかわからない。

⑥まとめると、いかに鈴木哲夫氏が以下で述べていた「持ち株会社化で本社は投資家に、少数で戦略練り企業価値を図る」という考え方自体は決して誤りではないが、実態を伴っていなかったということが結論できる。「HOYA株主にとっての失われた8年」を、決して「15年」にしてはならない。

編集長インタビュー 
人物 鈴木 哲夫氏[HOYA会長]
持ち株会社化で本社は“投資家”に 少数で戦略練り企業価値向上図る
http://bizboard.nikkeibp.co.jp/kijiken/summary/19981130/NB0968H_408644a.html
問 この不況下で、HOYAの今年9月中間期の連結税引き後利益は92億円と半期として過去最高を記録しました。鈴木さんは40年近く経営トップの座にありますが、4年ほど前から取締役の数を半減させたり、事業分野を再編したりと、経営改革を進めています。今回の最高益はその成果という見方もあるわけですが、経営改革を決断したきっかけは何だったのですか。

以下は、参考のページです。

HOYA株式会社のホームページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/index.cfm

HOYA株式会社(ウィキペディア記事)
http://ja.wikipedia.org/wiki/HOYA

日経ビジネス記事(2007年5月28日):HOYA、TOB合意後の「試練」http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070524/125459/

Nikkei BP Net 記事(2007年8月8日):HOYA、TOB成立は単なる一里塚http://www.nikkeibp.co.jp/news/biz07q3/541954/

HOYA株式会社の会社概要のページ
http://www.hoya.co.jp/HOYA_DYNAMIC/index.cfm?fuseaction=company.about

ペンタックスのページ
http://www.pentax.jp/japan/index.php

HOYAの経営に関する私の文章(2008年1月3日)http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoya_08.html

HOYAのCOOに浜田宏氏就任
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoyacoo.html

HOYA株式会社最高執行役に浜田宏氏就任のニュースリリースhttp://www.hoya.co.jp/data/current/newsobj-578-pdf.pdf

HOYA株式会社R&Dのページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_06.cfm

HOYA株式会社の経営理念のページhttp://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_03.cfm

キャピタル・グループのホームページ
http://www.capgroup.com/

フィデリティのホームページ
https://www.fidelity.com/

2008年5月19日月曜日

HOYAの2007年度営業利益が前年度比11.3%減の発表について(ペンタックス社買収騒動から1年後)

私が伝えたいことは、ある意味で当たり前のことに過ぎませんが、巷の見解が混乱しているので、簡単にまとめ、以下のニュースに対するコメントとします。

「HOYAが反落、前期連結営業利益は11.3%減」の記事http://www.excite.co.jp/News/economy/20080428163900/kabu_20080428100597.html
http://money.jp.msn.com/investor/stock/news/newsarticle.aspx?ac=K20080428031&cc=12&nt=01
HOYA<7741.t>が反落。午後1時に発表した前08年3月期連結決算を受け、株価は一時220円安の2725円まで売られた。 前期決算は営業利益で前々期比11.3%減の950億4600万円と2ケタ減益を計上した。四半期ベースで見た営業利益率は第2四半期(07年7~9月)の26.6%から第4四半期(08年1~3月)には13.3%へと急低下(前期通年では19.7%)しており、嫌気されている。要因は半導体用フォトマスクやHDD用ガラスディスク、光学レンズなどを手掛けるエレクトロオプティクス部門の低迷。一部の主要製品の価格低下や新製品への対応の遅れなどが影響したという。

なお3ヶ月前時点(2008年1月28日)の会社予想は、1011億円とされていました。
HOYA<7741.t>、08年3月期営業利益は1011億円を予想=市場予測は1105億円http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK007818620080128

事態を改善するため、機関投資家のみならず、個人投資家の皆さんも、マスコミ等の不勉強な記者によるスポンサー提灯報道等に惑わされずに、真実を正しく認識して、見つめていただきたいと考えています。2008年年初の株価の暴落を経て、ここ2年で株価が半分近くになったことに関しては、新たな成長戦略を描くには、現状の認識が第一になるはずです。

なお、私がこのようなコメントをするのは、株価が下落していることだけでなく、怒るというよりも悲しくなってしまう現状を鑑み、私の悲しみを、個人株主様も含む一人でも多くの方に共有していただきたいと考えるからです。ちなみに、2008年3月31日のHOYAの株価の終値は、2,340円でした。鈴木洋氏らが経営陣に就任内定した5月末の株価が9990円(4分割修正後の値で2497円)、2000年6月末(30日)の株価は9500円(4分割修正後の値で2375円)ですので、株価は実際には8年間で下がっていますので、結局のところ、8年間でまったく企業価値を増やすことができなかったということです。鈴木洋氏ら経営陣は、本当ならば早急に辞表を提出し、8年間分の全役員報酬を株主に返却すべきですが、そうしないのならば、少なくとも、どうやってこれから5年から7年先のHOYA株式会社の株主価値を増加させていくつもりなのか、はっきり個人株主を含む株主に対して説明するべきです。

現に直近の第四四半期で、ペンタックス部門の赤字転落が、発表されています。 このことは、私が従来懸念していたように、ペンタックス社の買収が、ヒット商品の短期的な成功に上ブレした決算内容を基にした買収価格の設定により、HOYA株主側から見て高値掴みであったということを、いわば裏付けた内容です。すでに私のところには、旧モデルのカメラをアメリカの大手小売店に投げ売りして小売店の顰蹙を買っているなどという情報も入ってきています。

まず議論の出発点として、鈴木哲夫氏(HOYA名誉会長)のコメントを取り上げます。 鈴木哲夫氏は、以下のように述べています。
http://hrm.jmam.co.jp/column/sougyousya/s11_2.html

「経営とは本来、企業価値を生み出していくものであるという考え方が欧米の企業では明確になっている。“企業は株主のもの”であり、経営者は株主から委託を受けて事業を展開しているわけであるから、企業価値を高めて株主に利益を還元していくのが当然」というわけだ。 「企業価値を高めるには日本の企業も自社の強味を生かす中核事業やコア・コンピタンスに集中し、あまり将来性がない事業、収益性が低い事業は整理していく戦略が必要になってくる。つまり『選択と集中の経営』に真正面から取り組み、自社の事業構造を再構築することである」

以上の見解をまず正論として受け入れ、それに照らし合わせて、直近の経営政策を検討してみましょう。

HOYAの中核事業は、①ガラス研磨技術と、②眼科領域であり、コア・コンピタンスでもあります。客観的に言って、この2分野以外の事業で成功したためしがありません。そんなHOYAにとって、あまり将来性のないと思われるデジタル・カメラ事業を買収して経営を行うことに、何か少しでも合理性があるのでしょうか。ペンタックスの内視鏡事業も、北米での市場シェアは数パーセントに過ぎませんし、何か優位性のある技術を持っているわけでもありません。そんなコアから外れた事業のために、1500億円(買収金額の1050億円にペンタックスの抱えていた負債総額を足した大まかな数字)も費やすことがHOYA株主の利益に果たしてなるのでしょうか。

眼科領域は、有望な分野だとみられています。なぜ自分が得意な分野に投資を行わないのでしょうか。経営陣と取締役会は、次の株主総会で以上の点を、時間をかけて誠実に説明していただけないでしょうか。

以前より私が述べているように、HOYAの利益金額はおおよそ1000億円ですので、この会社の成長率を高めて、最終的な株価を高めるには、数百億円の利益を生む事業投資を行う必要があり、分母が1000億円で分子が数十億円では、株価にほとんどインパクトがない。このことは、日経ビジネス記者の安部俊廣氏も良くわかっていなかったようだが、私はすでに疑問を呈しています。 なおこのような程度のことは、欧米トップ15のビジネススクールをでたMBA新卒でも、それら学校のトップ50%ならば誰でも普通に指摘できる内容のはずで、経営陣がそれらを良く分かっていないのならば、HOYA経営陣は、欧米トップ15のMBA取得者のレベルに達していないことを意味しています。ならば、今のまま経営を続けるのではなく、欧米トップ15くらいのビジネススクールで再訓練を受けてきてほしいのです。

日経ビジネス記事(2007年5月28日):HOYA、TOB合意後の「試練」http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070524/125459/

以下が、私がそもそもの疑問を呈した文章。
HOYAの経営に関する私の文章(2008年1月3日)
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoya_08.html

「HOYAの企業戦略上、ペンタックス社の買収によって、2015年までに数百億円の利益を出す事業を創出しなければいけないという点です。現在のHOYAは、経常利益で1000億円強であり、ガラス磁気ディスク基盤事業等のダウンサイドを補い、かつ成長率を底上げする(言い換えると1990年から2005年までの年間15%成長、あるいは少なくとも年10%成長を実現する)には、大体2015年までに数百億円、たとえば500億円以上の利益を出すような事業を作り上げる必要があります。15%成長を維持するには、2015年に2000億円の経常利益を出していなければいけません。言い換えると、数十億円の利益では、HOYAの株価に与えるインパクトはほとんど無視されてしまいます。買収が成功と言えるためには、数百億円の利益を出す事業を10年後に作れたかどうか、その見通しを3、4年以内に株主に示すことが必要です。このような思考方法を、北米の株主資本主義の洗礼を受けた経営者は行います。 

従って、2007年5月28日の日経ビジネスの記事「HOYA、TOB後の『試練』」という記事の末尾部分に、私は疑問を持ちます。鈴木洋氏は2007年5月末での記者会見で、「カメラ事業は存続する。ただ、量を追っても将来性はない。ニコンやキャノンを追うことは考えていない。小さいながら輝くカメラメーカーになる必要がある」と述べています。これはHOYAのカメラ事業は、K10DやK100Dの動向如何(かりにペンタックス統合後に非常にうまく経営ができたとしても)に関わらず、数百億円の利益を創出する事業領域としては、対象外であることを意味しています。同様に、同記事末尾にあるような内視鏡事業の展開の可能性でも、数百億円の事業を創出する事業分野にはなりにくいと思います。まとめると、「数百億円の利益を出す事業を10年後に作れたかどうか、その見通しを(少なくとも)3、4年以内に株主に示すこと」がポイントなのです。詳細はここでは割愛しますが、その他の方法をもってしても、内視鏡分野でHOYAが数百億円の利益を創出する事業を創出できる可能性は、現状ではゼロに近いと考えられます。」

鈴木洋氏は、以上の疑問に答えたことが、以下を参考にしても、一度もないといえます。仮に「戦略的に手を打って行くのはこれからという所にやっと来ました。試運転が終わって、これから本腰入れてやらないといけないと思っています」といっても、それがそもそも数百億の利益を生めるのかという問題。ここまでくると、分母が1000億円であることを忘れているのか、四則演算ができないのか、もしかして本当に後者なのかと疑いを持ちたくなってきます。そもそも昨年の一連の騒動で、ペンタックス創業家や金融庁に根回しすらできないことをさらけ出したわけですから、社内外へのコミュニケーション能力が欠如しているわけですから、東大駒場キャンパスの文科系1年生向けの発表と議論の仕方の訓練の場である基礎演習を、まず聴講してくるべきなのかもしれません。

http://www.hoya.co.jp/data/current/briefingsubobj-272-pdffile.pdf

「<ペンタックス:カメラ・内視鏡>・ 一眼レフカメラでは、交換レンズが大幅に伸びて、カメラ本体も上手く行っていますが、コンパクトカメラは数量は前年並みで、単価は6 割程度(40~50%価格下落)で、原価割れで処分しないといけない状況もあり、昨年モデルの在庫を処理したりしました。・ コンパクトをやめるわけにはいきませんが、リソースを一眼レフに一生懸命シフトしています。一眼レフの方に軸足を動かしつつあるのですが、残った方の足をすくわれた感じでした。もう少し早く対応していればよかったという悔いも残るところです。・ 一眼レフ交換レンズや内視鏡など、部分的にはいい収益を出しているものもありますが、4Q はコンパクトカメラのところでやられてしまい、赤字になってしまいました。このような間違いを繰り返さないためにも、コンパクトカメラは自社生産はやめて、ODM にして、しかも無理して台数を売らない、規模を追わない、その分リソースを一眼レフや交換レンズに振り向けていくようにしたいと思います。

Q:今年度、各事業はどのようになっていくのでしょうか?売上の伸びの見込みイメージは?

A:(鈴木CEO)ペンタックスは、内視鏡は今のところ順調ですし、少なくとも今後2~3 四半期は今のように売上を伸ばしながら、収益率を上げていくという構造は変わらないでしょう。問題はカメラです。コンパクトカメラのモデル数を減らしていくのはいいが、それではトップラインが縮んでいくだけですので、トップラインを如何に一眼レフで埋めて行くかということが一番チャレンジングでしょう。プラス・マイナスゼロになる危険もありますが、プラスにしていくのが努力のしがいがあるところでしょうか。

Q:昨年ペンタックスの買収を発表してから、それにあわせて業績もあまり良くなく、全体的に会社の勢いが減衰した感じがしますが、このような状況において、会社として通期の見込みを出さないことが、さらに不透明感を増しているように思いますが、社長として、会社の勢いが増したり、増益が見えてくる時期はいつ頃だと思っていますか?買収案件でペンディングになっているものや、ペンタックスのリストラなども含めて、そういう時期はいつ頃と考えているのでしょうか?

A: (鈴木CEO)ペンタックスはまだまだこれからですが、連結して半年経って、良いところも悪いところも見えてきて、戦略的に手を打って行くのはこれからという所にやっと来ました。試運転が終わって、これから本腰入れてやらないといけないと思っていますので、浜田執行役にも頑張っていただこうと思っています。」

そもそも戦略のない買収は、失敗に終わります。ジャック・ウェルチ率いるGEが、買収対象とするのは、市場シェア1位か2位の事業。ペンタックス社の内視鏡部門は、2位に大きく引き離された業界3位であり、優位性のある技術を保有しているわけでもない。業界3位以下の会社を買収していいのは、その会社の独自技術が破壊的であり、近年中に既存の競合関係を破壊できる場合のみ。

財務担当者の江間氏は、そもそもペンタックス買収に反対だったとされるが、それは標準的かつ常識的判断。ならばなぜ取締役会で徹底的に反対しなかったのか。取締役はCEOの部下ではなく、株主に責任を負う存在。取締役会が株主利益のためにきちんと機能していなかったことを如実にしめしていたわけで、善管注意義務もはなはだしい。年長の社内役員として、きちんと責任とけじめをとってほしい。私は2007年5月に、ペンタックス買収に反対する手紙を、社外役員に送っていた。そこでは株主利益の最大化を真剣に考える事業会社の経営陣に、投資銀行がアドバイスをするように、論理的に説明をしていたはずだが、6月に直接面会したある役員の方は、「ペンタックスの従業員の過半数がHOYAとの合併に賛成」などということを、合併賛成の根拠にあげていた。株主の代理人としての取締役の役割は、それぞれの経営判断を株主利益の観点から冷静に判断して、賛否を決めることであるはずで、この役員の方は、グローバルな金融市場でのあるべき立ち振る舞いをよく理解できていないわけで、資本市場の要求を理解し、時代の流れにそった人物を、取締役にしなくてはいけないのではないか、そう考えるわけです。

HOYA株式会社のホームページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/index.cfm

HOYA株式会社(ウィキペディア記事)
http://ja.wikipedia.org/wiki/HOYA

日経ビジネス記事(2007年5月28日):HOYA、TOB合意後の「試練」http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070524/125459/

Nikkei BP Net 記事(2007年8月8日):HOYA、TOB成立は単なる一里塚http://www.nikkeibp.co.jp/news/biz07q3/541954/

HOYA株式会社の会社概要のページ
http://www.hoya.co.jp/HOYA_DYNAMIC/index.cfm?fuseaction=company.about

ペンタックスのページ
http://www.pentax.jp/japan/index.php

HOYAの経営に関する私の文章(2008年1月3日)
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoya_08.html

HOYAのCOOに浜田宏氏就任
http://yutakayamanaka.blogspot.com/2008/04/hoyacoo.html

HOYA株式会社最高執行役に浜田宏氏就任のニュースリリース
http://www.hoya.co.jp/data/current/newsobj-578-pdf.pdf

HOYA株式会社R&Dのページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_06.cfm

HOYA株式会社の経営理念のページ
http://www.hoya.co.jp/japanese/company/company_03.cfm

2008年5月18日日曜日

飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長)がビデオニュースに登場

代替エネルギー等に関するエネルギー政策の第一人者の飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長)が、2008年5月7日のビデオニュース・ドットコムに出演しています。4年ほど前に同じ番組に出演したときから、私はやはり注目していたのです。

http://www.videonews.com/on-demand/371380/001310.php

以下が飯田氏の経歴ですが、『北欧のエネルギーデモクラシー』は、やや古いもののお勧めの文献です。

飯田 哲也:いいだてつなり(環境エネルギー政策研究所所長)

1959年山口県生まれ。83年京都大学工学部原子核工学科卒業。同年神戸製鋼入社。電力中央研究所勤務を経て96年東京大学大学院先端科学技術センター博士課程単位取得満期退学。00年NPO法人環境エネルギー政策研究所を設立し、所長に就任。92~06年日本総合研究所主任研究員を兼務。90~92年スウェーデンルンド大学環境エネルギーシステム研究所客員研究員。著書に「北欧のエネルギーデモクラシー」、編著「自然エネルギー市場 新しいエネルギー社会のすがた」など。

環境エネルギー政策研究所のページ
http://www.isep.or.jp/

『北欧のエネルギーデモクラシー』 飯田 哲也 (著) (2000年出版)
http://www.amazon.co.jp/北欧のエネルギーデモクラシー-飯田-哲也/dp/4794804776

21世紀において、エネルギー政策は、国際関係においてですら、極めて重要な役割を果たすことが確実です。 風力においてもバイオマス等についても、日本はそれなりの技術的な資源を持っています。しかも、脱化石燃料の経済基盤を持つことは、日本という社会のソフトパワーを高めることにもなるはずなのですが、市民の側の認識がいまひとつなのかもしれません。

もし日本で政権交代を争う選挙があれば、野党の側は、本当はこういった話題を争点にすべきなのかもしれません。科学技術政策とも、大いに関係する問題なのです。例えば、同じ公共事業を行うにも、道路を掘りかえしたを繰り返すのではなく、次世代脱化石燃料の研究基盤を整える研究に関する時限付き研究費をつけるとか、いろいろ方法はあるはずです。

番組のウェブサイトによれば、「中でもドイツの伸びが突出しており、2030年までにエネルギーの45%を再生可能エネルギーで賄う目標をたてている」としています。

2008年5月6日火曜日

日本のサイエンスがアメリカに勝てない理由

以下の文章は未完成ですが、議論をするために、不完全な原稿を公開していきます。

件名の問題については、まず日本において、ノーベル賞を受賞するような研究者の数が少ないこと、技術系のベンチャー企業で大きく成功した会社がほとんどないことなどについて、本質的な問題に関しての理解をしなければ、解決策となる政策を立案することはできません。

私の提案は、

①ライフサイエンス分野における日本型NIH(National Institute of Health)の創設
②複線型教育システムの創設
③グラントシステムのアメリカ化

などを念頭にしています。

これら問題は、今後の日本社会のありかたという意味で極めて重要だと思いますので、近いうちに、このブログ上で説明したいと考えています

例えば、NIHについては、私が調べた範囲で、以下の文献くらいしか参考文献がありません。
『アメリカNIHの生命科学戦略 全世界の研究の方向を左右する頭脳集団の素顔』
掛札堅著(講談社)
http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2574411
アメリカのライフサイエンスが、基礎研究においても応用研究や産業化においても圧倒的に優れているのに、ほとんど啓蒙書的な文献がないのは、関心が今のところあまりもたれていないことと関係しているように思えます。

なお、ヴァネヴァー・ブッシュという科学者(元MIT工学部長)が、戦時中の大学と軍の科学の関係の構築に、重要な貢献をしています。 軍産複合体といわれる関係や、軍による科学技術の資金援助について、大きな役割を果たした人物です。 戦後は、NSF(National Science Foundation)の創設にも、大きな役割を果たしています。

ヴァネヴァー・ブッシュについて(日本語版ウィキペディア記事)
http://ja.wikipedia.org/wiki/ヴァネヴァー・ブッシュ

(英語版ウィキペディア記事)
http://en.wikipedia.org/wiki/Vannevar_Bush

日本人が遺伝的にサイエンスに劣っているわけではありません。いくつかの例を挙げると、生物学では利根川進(MIT教授)、増井禎夫(トロント大学名誉教授)、柳沢正史(テキサス大学)、西塚泰美(元神戸大学学長)、岸本忠三(元大阪大学学長)、物理学では中村修二(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)、飯島澄男(NEC特別主席研究員)、外村 彰(日立製作所フェロー)、十倉好紀(東京大学教授)、化学では野依良治(名古屋大学教授)、新海征治(九州大学工学部教授)、数学では広中平祐(元ハーバード大学教授)、伊藤清(京都大学名誉教授)、経済学でも雨宮健(スタンフォード大学)、宇沢弘文(元シカゴ大学・東京大学教授)など、国際的に高い評価を得た研究者は日本人でもいるわけです。

ただ北米と比べて量が少ないし、応用研究を産業化する仕組みについても、問題が多いのですが、政策担当者で正しい概観図的な理解をしている人材は、残念ながらほとんどいないのです。

またバイ・ドール法(Bayh-Dole Act、正式名称はUniversity and Small Business Patent Procedures Act )についても、誤解があります。ちなみに、法律のなかにあるドールというのは、クリントンに1996年に大統領選挙で敗れたドール上院院内総務のことです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Bayh-Dole_Act

まずなぜ、北米では優れたサイエンティストが数多く誕生するのかということです。一つにはそもそもサイエンティストの絶対数が多いということがありますが、日本では教育システムに問題があります。客観的に言って、アメリカの初等中等教育のレベルは先進国で最低と言われていますし、特に数学の教育水準が低いと言えます。アメリカの一般的な大学1年生の数学の水準は、控えめに言って日本の中学2年生くらいです。しかしながら、大学院教育は世界で一番優れていることは、これも控えめに言っても、明らかです。

まず大学院博士課程(注:日本と異なり、博士課程の入学に修士号を保持している必要なし)の1年目では、どの分野でも、専門科目について徹底的に叩き込まれます。そして1年目の終わりから2年目にかけて、それら専門科目の試験があり、ある程度の点数を取らなければ、博士課程から追い出されます。これを強いインセンティブとして、学生は怠けることができなくないシステムになっています。

また博士号を取得後、分野によってはポスドクという就業期間を経ると、助教授として大学等で採用されますが、助教授は任期制(たとえば7年)であり、その間に優れた業績を上げて認められなければ、準教授や教授が所有する、ティニュア(Tenure)といわれる終身教授権を得ることはできません。だから若いときは必死になって働かざるを得ないので、優れた業績を上げるサイエンティストが出やすいわけです。

さらに留意点としては、科学技術の優位と軍事的な優位性は表裏一体の関係にあるということも、ひとつの事実として認識することが肝心です。生命科学や材料科学の基礎研究にしても、生物兵器やステルスに関係する電波吸収材料と関係があったりするわけで、軍事優位を維持することはアメリカの派遣戦略上重要な要素ですあり、だからこそアメリカ連邦政府は基礎研究に力を入れる必要があるわけです。 また日本の科学技術や関連する製造技術も決して捨てたものではないので、かつて石原慎太郎氏が『Noと言える日本』で主張していたように、日本企業なしでは、アメリカも武器調達業績上、一定の制限が発生するのは一面の事実かと思えます(もちろん、このことは、日本だけでなく、ドイツやフランス等の国や企業でも同じことです)。

現在のようなシステムが、アメリカでいつ形成されたかということについては、いくつかの議論があり、定かにわかっているわけではありませんが、第二次世界大戦後に重要な転機があったように思えます。

なお軍事技術と産業用の技術に関する点として、例えば近年は、上場企業で行われる研究は、株主の利益要求に押されるため、アメリカの軍事関連の基礎技術に関する研究母体として好ましくないのではないかという議論が出始めています。

2008年5月2日金曜日

ロックフェラー家がエクソン経営陣に物申す

ロックフェラー家(Rockefeller family)が、エクソン(ExxonMobil)の経営に意義を申すという記事が、先日のフィナンシャル・タイムズ(Financial Times)の一面に出ています。

Rockefeller family to push for shake-up at Exxon
By Sheila McNulty in Houston
Published: April 29 2008 03:00 Last updated: April 29 2008 03:00

The Rockefeller family, the longest continuous shareholder in ExxonMobil, is abandoning its behind-the-scenes role at the company to press for corporate governance reforms including an independent chairman and a stronger board.
http://www.ft.com/cms/s/0/d7ee6fb0-1584-11dd-996c-0000779fd2ac.html?nclick_check=1

これは面白い現象でして、後日、加筆してコメントとします。